特別な日


「あーあ、またここかぁ」


Bランク任務で余裕の筈だったのに、帰り道抜け忍集団の襲撃に遭った。案の定、俺の賞金首が目当てだった。上忍クラスの抜け忍揃いで苦戦を強いられた。敵を始末し、やっとの思いで帰ってきたけど…。里の門に着いた瞬間、俺は倒れ込み、そのまま運ばれた。そして今、木ノ葉病院で床に伏せている。

「誕生日なのになぁ」

そう、今日は俺の誕生日。だから、里で過ごしたかった。かと言って恋人も居ない俺には、容赦なく任務が入れられていた。ま、一人で過ごすよりもマシかと思っていたのに。

「あー、会いたかったなぁ」

幸運にも、今日の任務であの子と一緒のだったのに。神は居ないのか。居たとしても、相当薄情な神だ。

「はぁ」

かなりの怪我もしちゃったし、チャクラ切れで入院なんて、本当にダサいよね。なんかナルト達の中で入院キャラって、キャラ付けされて来てるし。見上げれば腕に繋がれた点滴が、止血剤を少しずつ俺の体に注入している。今すぐにでも針を引っこ抜いて、任務に向かいたいが、今の俺は引っこ抜く腕さえ動かない。

「ま、いーや」

もうどうしようも無いし、諦めて寝よう。口布を上がっているのを確認して、目を閉じる。俺の代わりの奴が、あの笑顔を見ているかと思うと平穏ではいられない。でも、スリーマンセルの任務で良かった。ツーマンセルだったら、俺は発狂していただろう。可愛いあの子の笑顔を思い出しながら、俺は無理やり眠りに就いた。


いつの間にか、夢を見ていた。

あの子が、俺の為に誕生日をお祝いしてくれる夢。夢の中の俺は、気持ち悪い位喜んでいて我ながら見ていられない。こんな俺に対して、あの子は優しく笑ってくれていて、胸の中は喜びでいっぱいになっていた。
あー、この子とずっと一緒に居られたら幸せだろうな、と夢の中の俺は思っていた。それは勿論、俺自身も思っている。彼女の笑顔さえあれば、俺はそれだけで生きていける。本気でそう思う。
好きになりすぎて、俺は告白さえ出来なくなっていた。彼女に振られたら、生活に支障がでるのは必至だ。立ち直れる自信がない。

「カーカシさん」

夢の中であの子が俺の名前を呼ぶ。

「なーに?」

と、夢の中の俺は嬉しそうに返事をした。すると、あの子は酷く驚いた顔をして、またフニャと笑った。

「起きたんですね」
「ん?」

起きた?俺は寝てるよ。夢の中ではずっと起きてるけど。意味が分からなくて、俺は黙って考えていると、あの子は俺の前髪を優しく掻き上げてくれた。あの子から触れてくれた事が嬉しくて、ついつい俺はその小さな手を握った。

「カカシさん」

夢の中なのに、驚くほど確かな感触に俺は戸惑った。確かめる様に手をギュッと握り締めた瞬間。

目が覚めた。
幸せな夢が醒めてしまった。落胆と言う2文字が頭を支配する。点滴が抜かれていて、かなりの時間眠っていたんだと分かった。

「カカシさん?」

またあの子の声が聞こえる。まだ夢の中なのか?俺は、声のする方へ首だけを傾けると、驚いて息がウッと気管に詰まった。途端にむせて、俺はゲホゲホと咳き込む。あまりにもカッコ悪いだろ!と情けなくなって、すぐに無理やり息を整えた。

「えと、名前ちゃん?」
「大丈夫ですか?って、大丈夫じゃないですよね」

俺の会いたかったあの子が目の前にいた。

「あれ?任務は?」
「急いで終わらせて来ちゃいました!ゲンマさんに、泊まりの任務を日帰りにすんじゃねぇって怒られちゃいました!ライドウさんには、気持ち分かるよって言って貰えましたけど」

よく見れば額に汗を滲ませて、頬は真っ赤になっていた。時計を見れば、22時前。あの任務をこんなに早く終わらせるなんて、どんだけ無茶したんだろうか。

「どうして、そんな無茶を」
「だって、今日はカカシさんの大事な日だから。」
「え?」
「ん?……あれ?間違えてました?」

途端に慌てだす名前ちゃんが可愛くて、俺は目を細めた。俺の誕生日を覚えてくれていたなんて、これは嬉しいサプライズだよ。神は居るね。しかも、飛び切り慈悲に溢れた神。

「いーや、合ってるよ」
「良かった!」

名前ちゃんは、ポケットをゴソゴソと弄り小さな箱を取り出した。青いリボンでラッピングされた可愛い箱。そして、それを笑顔で俺に差し出す。この笑顔、本当に大好きだ。

「お誕生日おめでとうございます!カカシさん!」
「ありがとう」

俺が全然プレゼントを受け取らないから、名前ちゃんは少し不安そうな顔をした。嬉しくて舞い上がってしまい、名前ちゃんに説明するのを忘れていた。浮かれ過ぎだろう、俺。

「ごめーんね、体が動かないんだ」
「あ!そうですよね!気付かなくて、すみません!」
「そのプレゼント、枕元に置いてくれる?」

名前ちゃんは、俺の言う通りに枕元にその可愛い箱を置いてくれた。名前ちゃんの香りがフワリとして、少しクラクラした。

「ここにプレゼントあったら、早く箱を開けたいと思って頑張れるでしょ?」
「カカシさん可愛いですね」

それから、他愛もない話をして俺と名前ちゃんは楽しい時間を過ごした。ふと時計を見れば、もう日付を跨ごうとしていた。

「名前ちゃん、遅いから帰りな?」
「うーん、嫌です」
「え?」
「今夜は、内緒で泊まります」

名前が人差し指を口元に立てて、手元の読書灯を消した。その瞬間視界が真暗になったが、直にカーテンの隙間から差す月の光に慣れて、名前ちゃんの表情が良く見えるようになった。

名前ちゃんは、いつの間にか額当てを外していた。それだけで、いつもと雰囲気が違い俺は不覚にもドキリとしてしまった。
名前ちゃんは俺の手を握り、頭をベッドの上に乗せた。俺の横腹に、名前ちゃんの頭の重みが伝わって来た。

「名前ちゃん、もう無理しないでよ」
「すみません……」
「でもね、本当に嬉しかった」
「本当ですか?迷惑じゃなかったですか?」
「何言ってんの」

名前ちゃんが喋るたびに、俺の指に彼女の息がかかって、俺は平然では居られなかった。体が動けば、今すぐにでも彼女を抱き締めてキスしただろう。

「お陰で良い誕生日になった」
「良かったです」
「本当にありがとう」
「いいえ」

名前ちゃんがニコニコして、頭を起こす。あれ、やっぱり帰っちゃうのかなと少し残念に思っていると、手を握ったまま椅子ごとズルズルと俺の頭のほうにやってくる。そして、耳元に少し震えた声で囁いて来る。

「もうすぐ誕生日終わっちゃうから…最後にプレゼント、もうひとつ良いですか?迷惑じゃなければ」
「名前ちゃんからなら、俺は何でも嬉しいよ」

もう俺の心臓はバクバクだった。プレゼントなんてどうでも良かった。名前ちゃんが側に居てくれるだけで、俺は…。

「カカシさん……」

名前ちゃんが口布を少しだけ下げ、俺の頬を露出させる。少し緊張した表情で、俺の顔に近付いてくる。もう、これは期待してしまう。これはアレしかないよね。
期待通り、柔らかいものが頬に触れた。名前ちゃんの唇が俺の頬にキスをしたのだ。

口布をしてて良かった。今の俺は威厳ゼロだろう。うれしくてニヤニヤしている。

「カカシさん」
「名前ちゃん、最高のプレゼントありがとう」
「良かった」
「元気になったら、今度は唇同士ね」

俺が冗談めかして言った瞬間、名前ちゃんの顔が火が出るかと思うほど真っ赤に染まった。あまりにも可愛くて、意地悪したくなってしまうなんて相当参っちゃうな…ホント。
名前ちゃんは照れ臭そうに笑い、俺の胸に頭を預けた。

「名前ちゃん、好きだよ」
「ホン…ト、で……」
「名前ちゃん?」

任務の疲れが出たのだろう。一瞬で眠ってしまっていた。

「あーぁ」

可愛い寝顔にどうしても触れたくて、俺は無理やり空いた手を動かす。さっきのキスで相当パワー注入されたみたいだ。柔らかい髪に手を埋めて、頭を撫でれば、俺の体はどんどん元気になるような気がした。

「可愛いね」

冗談じゃなくて、本当に次はキスをしようと思った。
それから、ちゃんと想いも伝えよう。
次の誕生日も、名前ちゃんの笑顔が側にいてほしいから。

「おやすみ、名前ちゃん」
「……すみ、な」

任務じゃなくて本当に良かった。
任務だったら、こんな風に2人きりで過ごせないからね。

可愛い寝顔に眠りを誘われて、俺もいつの間にか眠りについた。





特別な日 end.

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