01



旅行から帰ると、名前はすぐに管理会社に電話をした。

引渡しは1ヶ月後に決まったが、カカシが本当にあらゆる手配をしてくれて引越し自体は2週間後に行った。もともと荷物はそんなにある訳ではなかったため、梱包はそこまで困らなかった。
家電などは処分しようとしていたが、空いている一部屋にとりあえず全部持ってくれば良いとカカシが言うものだからお言葉に甘えてその通りにした。
しかし、家電やベッドをそんなに置けるほど広い部屋なのか。同じ部屋に冷蔵庫を2つも必要ないだろう。心配になってカカシに詳しく聞くと、ちゃんと言ってなかったねと謝られた。

「俺の住んでる階にもう一部屋あるでしょ。あっちの部屋のこと言ってたのよ。あの部屋空っぽだから、名前の家にするといいよ」
「え、あそこもカカシの部屋なの?じゃあ、ワンフロア全部カカシの家?」
「ワンフロアと言うか、あのマンション全体が俺の家なの」
「はい?」

買ったとは言っていたけれど、まさかマンション丸ごとだったなんて想像もしていなかった。駅近で綺麗なマンションだから、実際に住むとなるとそれなりの家賃もしそうだ。ましてやその最上階。しがない会社員の自分にはとても無理な話だ。

そりゃ、お金持ちの筈だ。まさか資産持ちだったとは。

「まじかあ」

名前の腑抜けな返事に気を留めることなく、カカシは新生活の説明をしてくる。色々言われても、不労所得の羨ましさで話が入って来ない。

「だから、ひとまずね。部屋ごと移動する感じでね。俺の部屋の方が広いから生活は俺の部屋にして、俺が仕事で家を空ける日とかは自分の部屋とか都合良く使ってね。なんなら、壁ぶち抜いちゃっても良いよ」
「え、リフォームするの?」
「うん。名前が望むなら」
「と、とりあえずね、そのままで不便だったらリフォームしよ?」
「んー、そうだね。慌てすぎたな」

カカシの発想は何だか庶民の自分とはスケールが違う。カカシの部屋に転がり込むものだと思っていたら、一部屋与えられたのだ。しかも、今の部屋の倍の広さの部屋を。ただただ太っ腹。大統領でもやってたのかと思う時さえある。

そんなこんなで夏の終わりに、とんでもないサプライズを落下されて、季節は秋。引越しも無事終わり、カカシと名前の同棲生活が始まっていた。

最初こそ、荷物を取りに名前は与えられた自分の部屋に戻ったりしていたが、3週間も経てば必要なものは殆どカカシの部屋に持って来ていた。

土曜日の朝、昨晩は疲れですぐ就寝したせいか、思ったよりも早く目覚めた。そう言えば、カカシは何か書斎でやることがあったみたいで、名前は勝手に1人で寝た。
目を開くと、目の前にカカシ。名前が布団を出入りするとカカシは気付くのに、カカシが布団に入って来ても出て行っても、どちらも気付かない。そんなに自分は鈍感だったかなといつも思う。それにしても、何度見たって、寝顔まで綺麗で本当に前世で何をしてきたのだと考える。焼かれた村を助けたり、死にかけの子供の命を救ったとか、きっと英雄であることは間違いない。

まだカーテンを開け放っていない、薄明るい部屋の中で名前は、カカシの寝顔を眺めていた。すると、カカシも薄らと瞼を開いた。

「名前、おはよ」
「おはよう」

目覚めたカカシは、名前を抱き寄せる。

「こうやってね、起きてすぐ名前がいる幸せをさ、噛み締めているの」
「そ、それは私も」
「名前も?嬉しいね」
「昨日は遅くまで起きてたの?」
「名前が寝て、すぐに俺も寝たよ」
「なら良かった」
「心配してくたのかな。優しいね」

パジャマの中に、手が入って来て身勝手にまさぐりだす。

「こんな優しくて可愛い子が横で寝てたらね」

先週も土曜の朝からこんな展開だった。ただ、先週は起きてすぐにキスされたと思っていたら、いつの間にかお互い裸になっていた。今朝は、まだ挨拶を交わしただけ時間を掛けている。
パジャマの下で、カカシの手のひらが名前の柔らかな膨らみを包んだ。

「あれ、もしかして」
「……本当はね、いつも寝る時はつけてないの」

カカシと暮らしてから着けて寝るようにしていたが、昨夜はカカシが居なかったから、まあ、いいだろうと下着は付けずに素肌にキャミソールで済ませていた。

「そうなの、名前が好きな風にすればいいよ。気遣わせちゃってごめんね」
「ううん」

赤面する名前を見て、カカシが不敵に笑う。
そして、唇をそっと重ねた。

今朝はいつもより、ゆっくり時間を掛けたくなった。先週は起き抜けに、すぐ臨戦態勢になってしまったのを密かに反省したのだ。

前は迎えにいくばかりだったのに、名前が帰って来てくれて、こうして一緒のベッドで寝てくれて、毎日幸せを噛み締めていた。

名前の人生の殆どに自分がいて、自分の人生の半分以上に名前がいた。その中で、1日たりとも名前のことを考えなかった日は無い。
空白の10年間を除いて、本当に幸せな記憶しか残っていない。名前には、この春と夏の記憶しかないのは寂しいが、それは2人で選んだことなのだから仕方ない。こうして、秋と冬と過ごしてまた、春を過ごせたらどんなに幸せだろう。

「ね、カカシ……」
「ん?どうしたの、名前」

カカシは、名前の頬にキスを落とす。名前は、恥ずかしそうにか細い声で囁いた。

「わ……わたしが、脱がしてもいい?」

いつもがっつき過ぎていたと、反省していたのは杞憂だったようだ。

「名前がやってくれるの?」
「う、うん。だめ?」
「いや、むしろ興奮してきた」
「なんで……」
「そう言うもんなの」

名前としては、カカシがいつも脱がせてくれるから、たまには自分もと言うつもりなだけかも知れない。まあ、この好意を受け取らない訳には行かない。

「じゃあ、お願い」

カカシは身を起こすと、名前を伸ばした脚の上に座らせた。
お揃いで買ったパジャマのボタンに、名前が手を伸ばす。プツリ、プツリとひとつずつ外した。全て外し終えると、カカシの肩から袖を落とした。長袖だが、滑らかな生地のお陰で簡単にカカシの腕から抜けた。

「かっこいい……」

そう呟いてから、名前はハッと口を押さえた。半裸のカカシを見て、思わず心の声を出してしまうなんて。

「本当に?」

嬉しそうに聞いてくるカカシに、名前はひたすら頭を縦に振った。

「下はあとで良いからさ、名前も脱いで欲しいな」
「う、うん」

今度は自分のボタンに手を掛けた。カカシの視線を感じながら、自分で言い出した癖に緊張で覚束無い手元で何とかボタンを外す。カカシと同じように、袖から腕をぬいた。
素肌の上にピッタリと身に付けた白いキャミソールが、胸の突起にツンと持ち上げられている。カカシの指が、その突起を目敏く見つけた。布ごときゅっと摘まれて、名前は息を漏らす。

「あっ……」
「まだ着ているこれ、自分で少しずつ捲りあげてごらん」

カカシの指が、まだ突起を捕らえて離さないが、名前はキャミソールをちょっとずつ捲り上げた。布の上からクニクニと優しく弄られて、どこか物足りない。それでも、突起は硬くなるのを止めてはくれない。
肋骨が露わになった所で、カカシが名前を止めた。

「肩に手乗せてて」

膝立ちになり素直に肩に手を乗せ従うと、カカシがそのまま胸にかぶりついた。口の中に溜めていた涎で、キャミソールを湿らされて、薄らと下の色が透けた。

「ん……」

カカシは、舌先でチロチロと胸先を転がす。指よりも緩い刺激に、名前は物足りなさを覚える。

「も、もっと……」
「ん?」
「もっと、つよく、してほしい」
「んー、こうかな?」

上下の歯で、突起を柔らかく挟んだ。名前が堪らない様子で息を漏らす。

「やっぱ、意地悪されるの好きなんだ」
「ち、ちが」
「違う?」

カカシの肩に乗った手が、ぎゅうっと握られる。きっと恥ずかしいのだろう、震える喉で名前は言葉を絞り出す。

「カカシだから……」
「俺?」
「カカシだと、なに、されても……」

きっと、名前ならそう言ってくれるだろうと期待していたが、本当に言われるとなると想像以上に胸を打つ。

「分かった。嬉しいよ」

先程よりも、少し強く前歯で挟んだ。そのまま引っ張っては、口を離す。また歯で引っ張っては、口を離した。
いつもより強い刺激に、名前の胸は熱くジンジンと膨れあがった。痛みなのか、何なのかもう分からない。きっと普段なら痛みとして認識される刺激でも、名前の体は熱を募らせた。

「すごい、いつもより真っ赤だよ。痛くなかった?」
「だい、じょうぶ」
「良かった」

今度は、母猫が子供を可愛がるように舌で転がされる。普段なら素直に気持ちいい筈なのに、今は布を1枚隔てているせいが物足りない。
カカシが舐めている途中にも関わらず、名前は自らキャミソールを更に捲りあげた。
急に捲られて、一瞬だけカカシは驚いていたが、すぐにまた舌で優しく舐め始めた。
駄目になってしまいそう、快感に声を上げながら名前は思う。カカシとのエッチは、口も指も何もかもが名前の身体にピッタリと合った。カカシも同じように感じていてくれたら、どれだけ嬉しいか。
名前は、漏れる息を抑えながら口を開いた。

「カカシ、ズボン……ぬがしていい?」
「ああ、忘れてた。じゃあ、お願い」

カカシは胡座を解いて、脚を伸ばした、名前がズボンに手を掛けると腰を浮かした。抜き取ったズボンはベッドの下に落とした。
下着からは、カカシが激しく自己主張している。名前は、吸い込まれるように手を伸ばした。布を持ち上げていたそれは、前を寛がせるだのですぐに姿を現した。血管が浮き出て、今にもはち切れてしまいそうだ。名前は下着も床に落とすと、カカシの脚の間に入り、その熱く猛ったものに手を伸ばした。

「名前、してくれるの?」
「う、うん」
「名前から脱がしてくれたり、今日は特に積極的だね」
「だめ?」
「ううん。すごく嬉しい」

名前は、カカシを強く握り上下に扱いた。先っぽを舐めると、少し塩辛く、カカシも興奮してくれているのだと分かって嬉しくなる。相変わらず、全てを咥えるには難しい。中途半端に口でした所で、カカシは気持ち良くなってくれるだろうか。カカシと違い、自分には技術もないのだし。
先っぽを舐めながら、名前は一生懸命に手を上下に動かしていた。

「名前、咥えてくれる?」
「う、うん」

名前は、歯が当たらぬように大きく口を開けてカカシを口の中に含んだ。その瞬間、カカシから艶かしい吐息が漏れた。

「名前、気持ちいいよ」

本当に?と聞こうとしたが、口いっぱいのカカシが邪魔をして叶わなかった。自分の舌よりも、カカシの方がずっと熱い。口の中が火傷してしまいそうだ。今度は頭を上下にさせて、夢中でカカシを頬張る。舌や唇をどう使えば良いか分からないが、ただただ名前は一生懸命だった。

「名前、交代」
「え?」

カカシに引っ張られて口を離すと、泡立った涎が糸を引いた。カカシは名前に唇を重ねて、舌を絡ませた。

「名前、下に着てるやつも自分で脱いでみて」「ん……」

名前は、ズボンを脱ぐとカカシのものと同様に床に落とした。膝立ちになって下着に手を掛ける。もう幾度も裸なんて見せているが、自分で脱ぐ所を見せるなんて恥ずかしい。カカシと目が合うと今でも緊張で目を逸らしてしまう。名前は目を閉じた。ゆっくりとなんとか太腿まで下ろした所で、カカシの両手が胸に伸びてくる。お預けになっていた突起は、カカシの指にキュッと捻るように摘まれて瞬間に沸騰する。

「あッ!」

爪先で、突起の先っぽをカリカリと引っ掻く。

「ほら、手を止めないで。ちゃんと脱いだら、もっと意地悪してあげるから」

カカシは手を止めぬまま、名前の耳に齧り付いた。甘噛みと言うべきか、前歯で柔らかく挟まれたまま耳の縁をなぞるように舌が触れる。カカシの舌が触れる度、カカシの吐息が鼓膜を震わせてくる度に、名前の腹の底からじゅわりと熱が湧き出た。なんとか片足を抜き取った。

「本当に、名前は何しても可愛いね」

カカシの手の平が、内腿を撫でた。下着は依然、膝で丸まったままだったがカカシの手は太腿の付け根に近付いていた。
まだ1度も触れてもらえていなかったソコは、蜜を垂れ流しながらカカシを求めていた。あと少しで触れてくれる。今か今かと待ち侘びていた、ひくつく穴はきっとカカシを受け入れるは準備万端だ。
しかし、その期待は簡単に裏切られた。あと少しで触れると思った瞬間に、手の平が離れて行く。思わず、名前は落胆の声をあげてしまった。カカシは、興奮で上気させた頬を名前の頬にピッタリと重ねる。そして、囁くのだ。

「いい子にしたら、意地悪してあげるって言ったでしょ」

カカシが、これ以上ないくらいの甘い声で。



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