13



沖縄の夜明けは遅い。
僅かだけ早起きした2人は、ビーチに座って夜明けを待っていた。楽しかった旅行も気付けば最終日になっていた。
名前は、水平線から出て来る太陽を見たかったのだ。

「カカシ、あのねずっと考えてたんだけど」
「うん」
「カカシと一緒にね、暮らしたい」
「え、本当に?」
「ずっと思ってたんだけどね、旅行が終わっても離れたくないの。一緒に暮らせば傍に居られるから。その、カカシが大丈夫なら」
「大丈夫どころか大歓迎だよ」

カカシは本当に嬉しそうに笑っている。

「でも、私、結構だらしないよ?部屋もいつも綺麗になんて出来ないし、家事も人並みに出来れば良い方だし」
「俺はね、名前が生きててくれればそれでいいの」
「カカシは私に甘過ぎるよ……」
「甘やかすさ。幾らでも我儘になりなよ。前にも言ったでしょ、名前は俺の為に全てを捨ててくれたんだから。どんだけ好き勝手したって良いんだよ」
「何を捨てたの?」
「それは覚えてなくて良いんだよ。忘れてて大丈夫」



「あー、嬉しい」

カカシが顔を傾けて来て、名前は自然と瞳を閉じた。唇がふんわりと触れ合って、名残惜しそうに離れた。

「夜は一緒に寝る?」
「カカシの寝相次第かな」
「はは、名前も人のこと言えないでしょ」
「まあね」

繋いだ手をカカシの膝の上に置いた。

「いつ引っ越す?」
「家の解約もあるから、1ヶ月は見ないと」
「えー、待てないな。俺が全部やるから、すぐおいでよ」
「そんな無茶な」
「無茶じゃないよ。早い方が良いじゃない」
「んー、分かった。頑張る」
「ありがとう!名前」

話しているうちに、海の端が淡く光に滲み始める。名前はスマホを出して、写真を撮った。カカシと見たこの瞬間をいつでも思い出せるように。もう忘れてしまうなんてしたくない。

空の星は、いつの間にか身を潜めていた。柔らかなオレンジの煌めきは、この上なく優しく海と空を染めていく。きっとこの光を見ているカカシの睫毛も染まっているだろうと、見てみればカカシは名前をじっと見ていた。
カカシが見つめて来るなんて、珍しいことでは無いのに何故だか今だけは胸が勝手にドキンと高鳴った。上手く言葉を出せず、焦っているとカカシが唇で頬に触れた。

「愛しいなって、感じてた」

ああ、愛ってこんな形をしているんだ。と、名前は胸の奥で感じた。

「私も、カカシのこと、だい、大好き」
「やっと言ってくれた。ま、知ってたけどね」

今まで見たどの表情よりも、カカシが嬉しそうに笑っている。それなのに、何処か泣きそうだ。

「ねえ、名前」
「はい」
「頼みなんだけど、これからは毎日俺のこと好きって言ってくれる?一生分くらい欲しいんだ」
「ん、うん、頑張る」
「ありがとう」

抱き締められて、カカシの腕の中が暑いのか、自分が勝手に火照っているのか分からなかった。こんなに自分の胸が暖かくてドキドキするなんて知らなかった。

すっかり海を見ることを忘れていた。日の出の輝きがどんな色をしていたか、カカシの髪や睫毛を見れば充分だった。

ホテルをチェックアウトした2人は、またホテルの運転手に空港まで送って貰った。本島に飛行機で戻り、東京に帰る。

「楽しかったなあ。また名前と旅行、行けたらいいな」
「行こうよ。次は私もお金出すし」
「良いって、気遣わないの」

本島に到着すると、一旦荷物を預け直して空港を出た。乗り換えまで時間がある。国際通りで買い物をしようと、飛行機の中で決めたのだ。
次こそカカシに浪費させないぞと、名前は決意する。カカシは恐らく結構持っている人なのは分かっているし、本人もそう言っていたのだが、どうも人に何かして貰ったり、ましてやお金を出してもらうことが苦手なのだ。

「名前、欲しいの何でも言ってね」
「大丈夫!ここは自分で買うよ!会社のお土産とかだし」
「そう?」
「うん、ありがとう」

手を繋ぎながら、通りを順番に見て回る。

「ちんすこう買おうかな」
「何それ」
「え、知らないの?沖縄の有名なお菓子だよ、美味しいよ」
「へー、クッキーみたいだね。買っとこうかな」

ちんすこうなんてベタ中のベタ、定番過ぎるが、変に珍しくものを選ぶよりは会社の人も安心して食べられる。
会社へのお土産が買えたし、会う約束のある友達にも買っておこう。色々見てみたがそれも、結局定番で良い気がしてきた。
何店舗か周り、同じもので良いだろうと再び買い直している所でカカシが琉球ガラスの店に入ろうよと誘ってきた。
食器や花器が中心の離島で見た店とは違い、アクセサリーがメインの店だった。

「わあ、可愛いね」
「俺は名前が一番可愛いと思う」
「そ、そういうことじゃなくて」
「ハハハ」

蜻蛉玉を使ったイヤリングの中に、一際美しい橙色の蜻蛉玉があった。今まであまり見たことの無い色だ。

「これ、クシナちゃんに合いそう」
「うん、本当だね」
「買ってこうかな。迷惑かな」
「名前から貰ったら、クシナさんは嬉しいと思うよ」
「そう?じゃあ、買っちゃおうかな」
「うん。名前が選んだものだから、間違いないよ。けどね、ちょっとここの会計は俺に持たせてくれない?」
「え、なんで?悪いよ」
「クシナさんに恩があるのよ。彼女は覚え……自覚がないと思うけどね。ま、おじさんが払ったてのは伏せておいて貰えると助かる」
「恩?そうなの?」

カカシは、うん、そうなの。と、頷いた。クシナが何をしたのだろう。きっと彼女のことだから、無自覚なのだろう。実際に名前もクシナに救われている1人だから、カカシの言うことがわかる気がした。

「名前も欲しいのある?」
「え、私も?」
「他所の女の子に買うのに、恋人に買わないのはナシでしょ」

そうか、私達は恋人なのだ。今朝、あんな愛の交わし方をしたばかりなのにカカシの口から言われると、何だか感慨深い。

「じゃあ、カカシが選んで欲しいな……カカシが選んでくれたものなら何でも嬉しいから」
「君は、なんて可愛いのよ」

カカシは散々悩んだ挙句、水晶のように透明な蜻蛉玉を選んだ。一見、とても地味に見えるが、光が通ると輝いているように見える。

「一生大事にするね」
「どういたしまして」

そうこうしているうちに、飛行機の時間が迫っていた。
空港に戻り、東京行きの飛行機に乗り込んだ。

あっという間の1週間だった。会社に行くのが辛くなりそうなくらいに幸せな時間だった。
カカシは忘れても、この思い出を忘れないでおこう。名前は1人飛行機の中で離れ行く青い海を眺めながら考えていた。




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