人形姫・03



目が覚めて数日。名前はストレッチャーに乗せられて、機器の中を通ったり、器具や機械を体に貼り付けられて数々の検査を受けさせられた。体は想像よりも動いたがすぐに疲れてしまい、名前はお人形の如くされるがままになっていた。

検査結果は、置屋のお母さんが聞くこととなり、名前は病室に戻りベッドで休んでいた。酸素マスクは必要ないと外されたが、食事は点滴に頼りつつも少しずつ再開していた。

脳に異常もなく、体も健康そのもので、呼吸も正常で何故意識が戻らなかったのか分からないと言われてしまった。名前の担当医は、体はただ眠っているだけの状態と変わらなかったのだと首を傾げていた。

「はあ」

息を吐いて、名前は喉から声を絞り出す。小さな声だが、目覚めた日に比べたら進歩している。口元に耳を寄せて貰えれば、何とか話を聞いてもらえるようにはなっていた。その回復スピードも速いらしく、医者をはじめ周りの人々は、目覚めてすぐに王子様と結婚したお伽噺の眠り姫みたいだと名前を形容した。

検査の際に、手首に着けられたタグを名前は一瞥した。
名前と血液型、それから年齢。

血液型の後ろには、20歳と明記されていた。

名前は、よし、と気合を入れてからベッドから起き上がる。ベッドに腰掛けたまま、サイドテーブルに置かれた卓上カレンダーを手にとった。西暦を見れば、自分が20歳であることは間違いない。

医者とお母さん曰く、名前が川に転落した翌日、川の下流で意識を失っていた所を発見されたのだと言う。襦袢の状態で発見され、事件と事故の両面で警察は捜査を進めていたらしい。事故当時一緒にいた妹舞妓の珠藤の証言と、名前の着ていた上等な振袖がどこの質屋にも売りに出されていないこと等を理由に、今は一旦捜査は事故として処理したこととなっていると言う。それはそうだ。帯も振袖も木ノ葉にあるのだから。

名前は、手首にタグを着けられた時から何度目か分からない、3年間意識不明で眠っていたこと、今が20歳であること、様々なことを頭に巡らす。

「訳分かんないや」

カカシならば、きっと何が起きているのか分かるだろう。困った時、カカシは何を思い何を考えて来たのか、もっと教えて貰えば良かったと名前はどうにもならない後悔の念を抱いた。

名前が目覚めてから、病室には妹舞妓の珠藤や、お世話になっていた料亭の女将が顔を出してくれた。その来訪も落ち着き、やっと名前は落ち着いた時間を持てるようになった。

カカシはどうしているだろうか、ちゃんと温かなお風呂に浸かって、食事をちゃんと摂れているだろうか。任務で怪我をしていないだろうか。

ふと、名前のこめかみに冷たい筋が落ちるのを感じた。汗が垂れたのではないかと、手で触れてみたが何も無く気のせいであったようだ。
どうやら、突如名前の頭にポンと浮かんだ考えがそうさせたようだ。

「そんな訳ない……」

名前は、こめかみに当てていた手が僅かに震えているのに気付いて膝に押し付けた。

これはただの思い付きの仮定だ。根拠もなにもない。

もしもだ、もしも、今までの時間がもしも夢の中の出来事だったとしたらだ。カカシも、ナルト達も自分の夢の中での存在だとしたらだ。

長い夢を見ていたとしたら。

瞬きをすれば、睫毛に含み切れなかった涙が膝の上に飛沫を残す。
夢じゃなかったと否定できない自分が悔しい。



ー68ー

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