人形姫・20




名前が作ったご馳走を食べ、2人はソファーに転がった。カカシは細腕を引き、名前を手繰り寄せ胸の上に乗せる。
カカシは思い付く限りの言葉で感謝を名前に伝えた。2人の雰囲気を見てか、忍犬達は静かに一匹ずつ姿を消して行った。
静かになった部屋で、名前は内緒話をするかのような囁き声で話し掛けてくる。

「本当はね、サクラちゃんとか皆も呼ぼうかと思ってたんだけど……カカシをどうしても独り占めしたかったの。だから、私ひとりでごめんね」
「何言ってんのよ。俺は、名前のもんでしょ」

カカシは名前の腰に両手を伸ばし、顔が近付くように摺り上げた。

「俺のマスク外してくれる?」

名前は頷いて、カカシのマスクに指を掛ける。隠された白い肌、少し大きめの口元の黒子が一際目立っていた。
名前はカカシの黒子を指先で触れながら、銀の睫毛が生えた彫りの深い目、男らしい高い鼻、色素の薄い柔らかな唇、ひとつひとつのパーツをまじまじと見つめていた。
ナルト達が見ようとしていたカカシの素顔。マスクをしたカカシを見た時は忍者みたいだと思った。まあ、実際には忍者だったのだけれど。
そして、その夜には素顔を見せてくれた。余りにも素敵で密かに名前は心をときめかせた。

「そんなに触ると」
「ん?」
「ほら、我慢出来なくなるから、ね?」

熱を少し帯びたカカシの瞳に、名前は耳が熱くなるのを感じ、かそけき声で囁いた。

「出来なくなっていいよ」

カカシの瞳の色が変わる。見詰められたら心の芯まで蕩けてしまうような熱い瞳。

唇が触れる。いつもの優しい唇。

目を閉じることさえ勿体なく思えて、名前は薄く目蓋を上げた。同じことを思ったのか、カカシも目を開けている。目が合うと、優しく細めて来た。

途端、カカシは名前を持ち上げて立ち上がった。
寝室に移動すると、ポンッとベッドに転がす。そして、両膝を立てて覆い被さる。

再び唇が塞がれ、服の中に手が差し込まれる。

「名前、可愛いよ」

カカシは、名前の薄く開かれた唇に指の腹で触れた。

あの頃から、2人は随分と変わった。結構な年月を重ねているのだから、当たり前と言えば当たり前なのかもしれないが。
出会った時には、上質な着物を着て、顔に白粉を塗っていた。素顔を隠し、本来と違う名で生きてきた彼女は、ある意味、当時まだ暗部として働いていた自分に良く似ていると思った。
そして今、彼女は自分を何も包み隠すことなくさらけ出してくれている。その体さえ、一糸纏わぬ姿で。

唇を重ねる。皺と皺を合わせるように、何度も丁寧に。

顔に掛かる髪を耳に掛けさせると、その耳朶にも舌を寄せた。小さな耳の凹凸を、ひとつ残らずカカシは知っている。その目で、指で、舌で何度も自らの身体に刻み込んだのだから。

名前の弱い所を同時に指と舌で刺激する。名前の肌にじんわりと汗が滲んだ。初めて抱いた時に比べ、随分と名前の体は正直に反応するようになった。その度に子猫のような声を漏らし、柔らかな指でカカシの二の腕を掴んだ。
体中を余す所なく触れ、見つけ出した敏感な場所をカカシが溶かして行く。

膝を割り、シーツに押し付けた。その中心にある柔らかな場所にカカシは舌を伸ばした。襞をなぞる様に舌を這わせ、その境目にも舌先をすぼめて挿し込む。舌の上に蜜の味が広がった。

蜜の味と汗混じりの名前の香りに、カカシは目眩を覚えた。崩れ落ちそうな最後の理性。入った亀裂を広げないように、何度も言い聞かせる。それなのに、舌は勝手に蠢いて名前だけを求めている。
今度は舌を柔らかく力を抜き、裂け目の上にある小さな突起を包み込んだ。唾液を塗りつけるように下から上へ嬲る。名前の内腿が小刻みに震えた。
名前は、銀色の髪に両手を埋めて甘過ぎる痺れに耐えようと息を殺す。こんなにゆっくりと、それなのに強く柔らかくされることに慣れていない。急速にせり上がる快感に、名前は恐怖すら覚える。カカシの長い腕が胸に伸びてきて、胸の飾りを可愛がってきた。
膨れ上がった3つの突起、そこから全身に痺れがまわって名前は首を左右に振りながら喘ぎを漏らした。

「はや、く」

名前の悲鳴のような声に、カカシは手を止めることなく優しく首を傾げた。震える内腿に頬をピッタリとくっつけて、薄い皮膚を上下の歯で軽く挟んでから、唇で吸い付く。名前は、耳朶を赤く染め上げてカカシを見遣った。
このままカカシに壊されてしまいたい、カカシのいない世界で生きて行くなんてとても耐えられそうにない。名前は藁にも縋る思いで懇願する。

「ほしい……」
「名前、俺が欲しいの?」
「う、ん」

カカシは、目に掛かる髪を乱暴にかき上げて、名前の髪も整えた。汗ばんだ額に張り付く前髪も綺麗に整えてあげる。汗を手のひらで拭ってあげてから、唇を数度重ねた。

「俺も名前が欲しいよ」

名前の真ん中に挿し込まれる。互いの口から息が漏れ出た。
カカシを包み込む名前の感触に神経を注ぐ。
揺すれば絡みつく襞、繋がった場所を伝いカカシの太腿を蜜が濡らす。いつもなら、簡単に果てそうになる自分を抑えるが、今日ばかりは無理な話でカカシは名前の中に熱を注ぎ込んだ。
カカシは、ほんの少し休みを挟んでから再び体を揺すり始めると、名前の腰を両手で掴み、逃げないように引っ張り込む。

奥まで突かれ、息つくことも許されない。カカシの動きが次第に激しくなり、柔らかな粘膜が引っ掻き回される。頭の中が白く霞み、名前の喉は痺れ上がり開いた唇の間から柔らかそうな赤い舌が覗いた。
カカシは、その柔らかさを確かめたい衝動に駆られ、指を名前の口の中に差し込んだ。突然に口の中に入って来た指に、無意識に名前は舌を這わせた。

「上手だね」

カカシが優しく笑むから、名前の胸は擽られる。

ずくずくと粘膜が引き摺りだされては、奥に再び押し込まれる。柔らかい舌も、この可愛い声も、締め付けてくる粘膜も、ベッドの中で今だに恥ずかしがる所も、何もかもを記憶に刻み付ける。
口から指を引き抜いて、いよいよカカシは自らを激しく突き立てる。
この身に名前を覚えさせる。名前がいなくなっても、この思い出だけできっと生きて行ける。名前が何かを伝えようとして来て、カカシは動きを緩くした。名前は腕を、広い背中に回してきて抱き付いた。

「はなれ、たくない」

名前は爪先をカカシの背中に立てる。名前の力ではカカシの肌に血を滲ませることすら叶わない。カカシは名前の一番奥に自らを押し付けて、名前の涙を唇で掬う。

「離さないよ」

名前も応えようとするが、息継ぎにしかならない。体の奥にまでカカシが入り込む。

「名前がどこにいても、見つける」

カカシで満たされる。

「必ず」

涙が溢れる。舌が頬を滑った。
揺さぶられた体は、言葉を紡ぎ出すことすら出来なくなっていた。名前はカカシから与えられる快感を必死に受け止めた。

もし、カカシが自分を見つけられなかったとしても、忘れてしまったとしても、自分は決してカカシを忘れない。
繋いだ手、何度も震わせられた耳、重なる唇、抱き込まれた時の息苦しさ、零れ落ちる汗、入り込んでくる体。決して忘れない。
全ての神経をカカシに集中させる。カカシに与えられる全てをこの骨に刻み込みたい。涙で震える視界の向こうから、優しく笑むカカシが近付く。

「名前、俺を見て」

名前の額にキスをして、カカシははち切れてしまいそうな自らを必死に押さえ付けながら、体を揺らす。
ああ、この時間が永遠に続いてしまえばいい。終わらせたくない。名前がゆっくりとカカシの頬に手を添えた、左手、そして右手。カカシはその手の上に自らの手を重ねた。

「名前、愛してる」

息が詰まり、弾ける。熱いほどに溶け合う。繋がる場所が境目を失う。ひとつになる。

「カカシ、カカシ」

名前が一生懸命に唇を動かして、酸素を求め息を整えようとしていた。上がった息はすぐには戻らない。胸を大きく上下させて、名前は途切れそうになりながら応える。

「わたしも、あいしてる」

カカシは返事の代わりに微笑む。

泣き濡れた唇にキスをしながら、なんて可愛いんだろう、そう考えていた。


ー64ー

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