人形姫・09
「報告が遅くないか?」
「ハハハ、すみません」
首の裏を掻きながら、カカシは綱手に向かって頭を軽く何度か下げた。
結局、名前が怒ることはなくて、ついつい綱手への報告を後回しにしてしまっていた。
なかなか任務の受取に来ないカカシに痺れを切らして、シズネが病室に来たことで発覚、そして今に至る。ちなみに任務は、名前が目覚めてお百度参りの必要がなくなったからとガイが本来通り行くことになった。
検査を一通り受けた為、名前は少し疲れの色を見せているものの意識はしっかりとしていた。毎日の綱手の治療の賜物であることは間違いなく、カカシは綱手にどれだけ感謝しても恩を返し切れないと感じていた。
「寝たきりだった分、筋肉がなくなってるが、他は特に問題なさそうだな。今日はゆっくり休んで、明日から少しずつ体を動かせ」
「綱手様、ありがとうございます」
「寝てた分、いっぱい働いて貰うからな。ちゃんとリハビリするんだぞ」
「はい!」
綱手が去った病室で、名前はベッドの上で小さく蹲った。
「名前?具合悪い?」
突然様子が変わる名前。カカシは名前を支えるように肩を抱いた。
「カカシ、ごめんなさい」
名前は瞳からポロポロと涙を流しながら嗚咽を漏らす。背中を擦りながら優しく声を掛けた。
「どうしたのよ、名前」
「倒れる前……生きたくないって思ったの、ごめんなさい」
カカシの心臓に鋭い痛みが走る。冷たい手が無遠慮に胸中に入り込んで来て、握り潰してくるようだ。
「そう、怖かったね」
名前は頷いて、涙を手で乱暴に拭う。
「あの夜が何度も巡って、辛くて、カカシが向き合わせてくれたのに」
ごめんなさい、ごめんなさい、名前は何度も繰り返す。
「名前はよく頑張った、もういいんだよ。今、名前がこうして生きてる」
見上げた名前に、カカシは眉尻を下げて優しく微笑む。言葉でどう表せば良いか分からない。だが、確かに思うことがある。カカシは心に思ったままに言葉を口にした。
「俺には、それで十分だ」
名前の丸い瞳に張る涙の膜から、雫が数え切れないほど零れ落ちる。小さな雫も大きな雫も、どれもカカシにとっては宝石のように美しく大切で、ひとつずつ掬い上げて並べてしまいたい。
「ありがとう、カカシ」
「当たり前でしょうよ」
涙が枯れるまでカカシは優しく拭い続けた。
それから1週間、名前は忍医の指導の下で真面目にリハビリをした。問題ないとお墨付きを貰い、今日の午後に退院することとなった。
朝の散歩を終え休息をとる名前の隣で、カカシは愛読書を読んでいた。名前はすっかり体が回復し、手持ち無沙汰になっていた。カカシは本を読み出すと止まらない。家でも読み出すと名前を呼んでも気付かないことがある。読み終わった、と思えば始めから読み直すこともあるのだ。
今日は気付くだろうか、試しに名前は名前を呼んでみる。
「カカシー」
「……ん?」
名前は気付いてくれたことが嬉しく、ニコニコと口角を上げ頬を膨らませた。
「呼んだだけ」
「なによ、それ」
カカシは目を細めながら、名前に視線を移した。名前はその視線から隠れるように布団を顔を覆うまで上げる。
カカシは、読んでいた本をベッドの端に伏せ、額当てを外しマスクを下ろした。名前が隠れた布団の隙間に顎を差し込む。グイグイと隙間を広げるように顔を潜り込ませれば、すぐに名前を見つけた。
「みっけ」
名前がキャッキャと声をあげて逃げようとするが、カカシはそれを逃さない。名前の額や頬に自らの唇を押しあてながら、ベストを脱ぎ捨て手甲も床に落とした。金属が床にぶつかる高い音が病室に薄く響く。
ベッドにカカシの膝が乗り、スプリングが音をたてる。布団と名前の隙間に入り込むと、名前の体に腕を絡ませた。完全にカカシに抱え込まれ、観念しました、と名前も抱き締め返した。
「俺に構って欲しかったの?」
「うん」
「可愛い子だね、名前は」
唇が割り込まれ、柔らかな舌が口内を擽る。名前の入院着の隙間から手のひらを忍ばせると、そのまま素肌に滑らせた。ウエストの曲線、ヘソの凹み、柔らかさの下に感じる肋骨。その感触がどれも愛おしい。
「擽ったい」
「擽ってるからね」
名前の肌が粟立っているのを確認すると、自らの濃紺のシャツも脱ぎ捨て、それも床に落とした。ノースリーブのインナーになったカカシは、入院着の紐を解き広げた。
急に胸元を露わにされてしまい、慌てる名前の両手を枕に押さえつけると、今度は前よりも白くなった喉元に唇を滑らせた。
「流石に痕つけたら、綱手様に怒られるな」
「カカシ、あのね……」
「リハビリだと思って、ね」
嫌な予感は良く当たる。どうにかして身を捩り、カカシから逃れようとする。だが、もうこうなれば悪足掻きでしかない。もう何度も同じ目に遭って学習している。いつもより艶めかしい色を含んだ瞳をしたら、カカシはもう止められないのだと。
胸の尖りを柔らかく吸い付かれ、甘い痺れに指先が丸まる。下唇を噛み締めながら、漏れ出る息をひそめた。外には護衛がいる、それにもし今誰かが来てしまったら。
そんな名前にはお構いなしに、カカシは名前のズボンと下着を半ば強引に脱がせると、中指を名前の秘裂に探るように埋め込んだ。
「あッ……」
ゆっくりと入り込む指。幾度出し入れをされる。名前のよりも長く太い指が名前の敏感な部分を刺激して、奥からトロリと蜜が流れ落ちた。
「かわいい……」
蜜のぬめりを借りて、人差し指もすんなりと受け入れる。親指の腹が、名前の秘裂の上にある小さな突起をこねり潰す。太腿に痺れが走った。
名前は両手で声が漏れないように口を塞ぐ。それでも鼻を通って声にならない吐息が漏れ出る。それが可愛くて、カカシは何度も蜜を指で掬っては突起に擦りつけた。
「名前、いくよ」
片膝の裏を持ち上げられ、足を広げられた。膝がベッドに押し付けられた。そう思うや否や、カカシの熱い質量が名前の中へ入り込んだ。思わず声をあげてしまい、咄嗟に再び唇を噛む。
噛み締めて白くなった名前の唇にカカシの指先が降り立つ。
「そんなに噛んだら、切れちゃうよ」
名前の困ったような潤んだ瞳で見上げられ、カカシの中心が熱くなる。唇を開放して、名前は羞恥に満ちた声で紡いだ。
「カカシの……いじわる」
「全く……分かってないねぇ」
それは名前だからだよ。そう耳元で囁いてからカカシは体を揺すり始めた。
スプリングが静かに軋む音と、名前の甘ったるい小さな悲鳴。流石のカカシも、名前が病み上がりであること、ここが病院であることを気にしているのか緩慢な動きしかしてこない。
とは言え、カカシがお腹の奥まで突き上げる度に名前の体は飛び跳ねた。
名前の頭を抱き込みながら、カカシはゆっくりと体を揺する。何度も抱いた体なのに、飽くことがない。カカシの体中の神経が名前を感じようとする。可愛い、全部を食べてしまいたい。
「カカシィ……」
泣いているかと思わせる震えたこの声さえも食べてしまいたい。深く舌も体も絡ませながら、名前を取り込もうと必死になる。カカシの中で理性で堰き止められていたものが、どっと崩壊する。
「名前、そろそろ限界」
呆気なく名前の中でカカシが弾ける。熱く注ぎ込む。名前の体が爪先までぎゅーっと強張り、少しして弛緩する。
ふたりの甘い汗の香り、混ざり合う蜜。重なる息。
名前を抱き締めながら、ベッドに転がる。入院着は袖が手首に引っ掛かっているだけだった。カカシは皺だらけになった入院着を手首から外すと、それも床に落とした。名前の素肌に浮いた汗を舐めてから、その体を抱き締めた。名前は頭をカカシに預けて、息を細く吐いた。
カカシの突然の要求に戸惑ったものの、すぐにカカシのことしか考えられないようにさせられてしまう。この時、名前は自分が女の子の中で1番幸せだと思っていた。好きな人に愛を囁かれ、自分の体で相手が感じてくれているのだから。
「寒くない?」
「大丈夫だよ」
カカシが名前を更に抱き込み、体が暖かくなる。さっきまで火傷しそうなくらいの熱い体が、今は丁度良く温かい。枕の上に波打つ髪を撫でる。こうやって名前の顔を見つめ、甘い声を耳にし、その体を味わうことができるなんて信じられないほどに幸せだ。
微睡みだした名前に唇を落とし、おやすみと声を掛ける。名前の目蓋は気持ち良さそうに薄く閉じられて行く。
ーーコンコン
名前の睫毛がパッと持ち上がった。途端に名前が焦りの色を見せる。
「カカシ」
「無視すれば良いよ」
「綱手様だったらどうするの!」
カカシはインナーを着ているが、名前は一糸纏わぬ姿なのだ。名前はベッドから手を伸ばし、入院着に袖を通す。紐を結ぼうとする手をカカシは塞いで、再び胸に舌を這わせ始めた。
「ちょっと……!」
「焦る名前も可愛い」
名前はカカシの頭を離そうとするが敵わない。チリチリと痺れるような感覚に思わず声をあげてしまう。
「先輩、いるんですよね?」
外から声を掛けられる。誰も返事をしないのだから致し方ない。名前の胸の尖りを舌と唇で吸い付いてから、やっとカカシは顔を離し入院着の紐を結んでやる。
「本当にアイツはタイミング悪いな……」
名前に布団を被せてから、カカシは濃紺のシャツだけ床から拾い上げて身につけると、やっと病室の扉を開けた。
開けた扉の前に居たのは、朱色と緑の模様が特徴的な面をつけた忍だった。その人はチラリと病室の方へ目線を遣り、呆れたように肩を落とした。無理もない、乱れたベッドの下にはベストや手甲、額当てまで散乱しているのだから。
「先輩……ここは病院ですよ」
「何を想像してるのよ、テンゾウ」
「はあ……もう、良いですよ。それより先輩、綱手様がお呼びです」
「任務か?」
「いえ、その……」
「……分かった。すぐに向かう」
面をつけた人は名前の方へ会釈をしてから、扉を閉めた。
「と言う訳だから、行ってくるよ」
「うん」
「なーに、淋しい?」
「少しね」
一度口付けをしてから、カカシは身支度を整える。名前の前で見せる無防備なカカシから、いつものカカシへ戻って行く。額当てもして、あとはその端正な顔を隠すマスクを上げればいつものカカシだ。
「退院、ちょっと手伝えなくなったからサクラに頼んでおくよ。ごめんね」
「ううん、お仕事だもん。仕方ないよね」
「名前が良い子で、おじさん助かるよ」
「カカシはおじさんじゃないもん」
「ありがとね」
名前の唇にキスをしてから、マスクを上げた。
扉を開けるとすぐにテンゾウが立っていた。名前に聞かれないように、扉をピッタリと閉めてから口を開く。
「なに、まだ居たの」
「先輩……」
「分かってる。まあ、なるようにしかならないでしょ」
「僕の力不足で……僕がちゃんと名前さんを守っていれば」
「テンゾウ、お前のせいじゃない」
足取りが重い。いつかは来るかもしれないと分かっていた。だから、覚悟はできている。そう言い聞かせながらカカシは火影邸へと歩みを進めた。
ー53ー
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