人形姫・10


「カカシさん!」
「ん?イルカ先生?」

あれから数日。木ノ葉崩しの穴埋めのため、カカシは立て続けの任務で泥だけになっていた。こんな泥だけになるなんて、働き過ぎだなと汚れを払っているとイルカが血相を変えて飛んできた。ナルトに何かあったか、それとも…。

「名前さんが」

イルカからの言葉を聞いた刹那、なけなしのチャクラを使って病院にいた。

「名前!」
「あ、カカシさん」

点滴に繋がれた名前が、綱手と楽しそうに談笑していた。思っていたよりも元気そうな名前に、カカシは気が抜ける。

「名前、旦那のお出ましだぞ」
「綱手様ったら!」
「はぁ…綱手様、ありがとうございます。名前、大丈夫?イルカ先生から聞いたよ」
「はい、ごめんなさい。ちょっと倒れちゃって……」

シュンとする名前の頭を優しく撫でる。無事で何よりだよ、とカカシは安堵した。すると、綱手は、カカシに目配せをしてきた。

「カカシ」
「はい」
「じゃあな、名前。また何かあれば言ってくれ」
「はい、綱手様。本当にありがとうございます」

綱手に、病院の屋上に連れて行かれた。綱手が里を見渡しながら口を開いた。

「お前の恋人について何だが……」

カカシは猫背を伸ばし、口布の下で唾をゴクリと飲み込む。綱手は、柵に背を預け腕を組んだ。

「お前には悪いが、少し彼女を調べさせてもらった。しばらく、彼女を入院させる」
「そんなに酷いんですか?」

一時的な体調不良に見えるが、入院させるなんて何があったのだろうか。初めて綱手が名前に会った日を思い出す。綱手は何かに気付いていた。もしかして、それなのか。

「彼女は、疲れは溜まっている様だが、至って健康だ。だが、良くないことが起きている」
「……と言いますと?」
「名前の体に、身覚えのあるチャクラがあるんだよ」
「どういう事ですか?だって、名前にはチャクラが……」
「いや、名前にはチャクラがある。肉体が鎧のような造りになっていて、チャクラが見られないようになっている。あの白眼でもな」
「だから、写輪眼で……」
「それだけじゃない。彼女のチャクラはどんなチャクラにも染まる。カカシ、今まで彼女の中にあったチャクラはお前のチャクラでもあるんだ」
「俺の…ですか?」
「彼女のチャクラは、密に触れた人間のどんなチャクラにも適応変化して本人と同じチャクラになる。そして、触れるとそのチャクラを本人に還元する。チャクラのタンクみたいな体をしている。彼女はカカシ以外に触れたことがないから、その事に気付かなかったんだろう」
「そうですか……」
「ただな、適応するとは言っても、合わないチャクラもある。カカシのチャクラは、名前と相性が良いから体が良かったんだろう。しかし、今、合わないチャクラを無理矢理作らされている」

綱手の溜息が、屋上に響いた。それは名前を心から心配しているのが分かるものだった。

「あいつの事だから、木ノ葉崩しの時に何かやったんだろ」
「何者です?」
「大蛇丸だ」
「大蛇丸!?」
「あいつのチャクラは直ぐに分かる、冷たくて他人を飲み込む力がある。名前の体の中で、奴のチャクラが生産されている。このままじゃ、名前の体はもたなくなるぞ」

大蛇丸のチャクラが生産されると言う事は、大蛇丸そのものが名前の体の中を支配することになる。そうなってしまえば、名前がどうなってしまうかは明白だった。
カカシは、綱手に頭を下げていた。綱手は、やめろと言ってカカシの頭を持ち上げた。

「私は火影だぞ?里の者を助けるのは、私の役目だ。」
「ありがとうございます」
「彼女は異世界から来たらしいな…お前は、本当だと思うか?」
「はい。彼女と我々の常識は、所々乖離しています。彼女は、忍のいない平和で高度な文化、技術が発展した世界に住んでいたそうです」
「私には信じ難いが…。彼女の特異な体質はそうかも知れない。血継限界も、それが起源だと言われているものもあるらしいからな」

まぁ、とにかくうまくやるよと綱手は言った。





「え!?今日は帰れないんですか?」
「ごめーんね。」

ショボンとする名前の頭に、カカシはポンと手を乗せた。

「入院の理由も説明するね。理由は、極秘の話なんだけど、名前の体はこっちの世界の人間とは少し違うんだ」
「違う?」
「チャクラってあるでしょ。みんな自分のチャクラを持っているんだけど、名前は自分のチャクラを持っていなんだ」
「じゃあ、私の体にはチャクラがないんですか?」
「いーや、ある。名前の体には、俺のチャクラがある」

名前は、自分の体に触れる。カカシのチャクラが自分の中にあるなんて、何だか好きな人とひとつになれている気がして嬉しい。

「俺のチャクラなら問題ない。俺のチャクラと名前の体の相性は良いみたいだからね。でも、ここ最近体調が悪いでしょ」
「あ、確かに……」
「中忍試験の本選の時、何かあった?」

名前は、少し頭を回転させて思い出す。三代目の死が悲しくて、自分の身に起きたことなど忘れていた。

「あ!」
「何があったの?」
「カカシさんが木に隠してくれたあと、知らない人に首を触られて…それから覚えてないです」
「どんな人だった?」
「若い男の人で、暗部の方々と同じ服を着て……」

やっぱりな、と心の中で呟いた。

「その時に、別の人のチャクラを流し込まれてたんだ。その人のチャクラは、名前にとって余り良くない。綱手様の治療で、チャクラを抜くから」
「あの男の人のチャクラですか?」
「いーや、その人とは別。治療、かなり辛くなりそうだけど、そのままだと名前の体が保たないんだ。頑張ってくれる?」
「カカシさんがそばに居てくれるなら、頑張ります」

名前が見上げると、カカシが目を細めて笑ってくれた。

「もちろん、一緒に頑張ろう」





一刻も早く治療をせねばならないと、綱手は翌日に治療を開始した。

「相当な痛みを伴う。名前は一般人だから、麻酔は使う。だが、自分を信じて頑張ってくれ」
「俺がついてるよ、大丈夫」
「頑張ります!」

注射が打たれ、体がフワフワとした。
カカシは、少し不安そうな名前の手を握る。

「さて、名前、行くよ」

綱手が印を組むと、手が光に包まれた。眩い光が名前の腹に触れた瞬間、体が跳びはねるほどの痛みが名前を襲った。カカシが名前の体を押さえ、治療が続行される。
麻酔があってもこの痛みなのかと、名前は息をする事すら忘れてしまう。激痛で意識が飛びそうになり、何度も呼んでくれるカカシの声だけが救いだった。名前の腹から、小さな蛇が抜け出てくる。暗部時代に大蛇丸の研究室で襲ってきた白蛇によく似ているとカカシは思い出す。名前の腹から抜けると、霧になって蛇は消えた。

暑くもないのに汗が玉のように吹き出し、声をあげなければ耐えられない痛みだった。目を開けることも叶わない。カカシが両手を握ってくれなければ、きっと死んでしまっていたかもしれないとさえ思った。何が起きているのか分からない。早く終われ!とにかくそれだけを考えていた。

「チャクラは全て出した。カカシ、よく見ておけ」
「はい」

綱手は、カカシが写輪眼を露わにしたのを見ると、今度は違う印を組む。掌を名前の腹に当てると、体中に術式が浮かび全てヘソの中へ吸い込まれる様に消えていった。

「名前、終わったぞ」
「よく頑張ったね」

息も絶え絶えの中、名前の掠れた視界に二人の顔が見えた。あぁ、終わったんだ。額の汗をカカシが拭ってくれたのが分かった。

「もう大丈夫だ。頑張ったな」
「つなでさま……」
「カカシ、後は任せたよ」

綱手が処置室から出ていって、カカシと二人きりになった。名前は、カカシに手を伸ばす。

「名前、名前、大丈夫か」
「カカシ…さん……」

空っぽになった名前の唇に触れると、互いの体に電撃が走った。すると、血色のなくなった名前の肌が、少しずつ色付いていく。ふと、永遠の眠りについたお姫様が王子様のキスで目覚めるお伽話を思い出した。自分が王子様なんてのは柄じゃないけど、名前はお姫様だからお伽話の通りだと思った。

「綱手様がね、俺のチャクラだけを受け入れるように封印式を施してくれた。もう大丈夫」
「良かった」

カカシは、処置室を片付けると、名前を抱き上げて病室に戻った。荷物が纏めてベッドに置かれていた。

「名前、帰ろうか」
「え、もうですか?」
「後は、自宅療養。ま、名前がそばに居ないと、俺がもたないだけなんだけど」

カカシの右目が少し赤く染まった気がした。
名前は、気付かないふりをした。どうしてか分からないけど、この人を好きになったのは運命だったんだ。名前はそう確信した。


ー25ー

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