人形姫・05


可愛かった名前の姿を思い出しては、カカシはニヤニヤしていた。瞳にカカシだけを映して、体はカカシの思うままになっていた名前の姿。やっぱり彼女は、どんな姿も魅了的だ。

「カカシ…お前、気持ち悪いな……」
「……は?」

アスマが煙を天井に向かって吐きながら、気味の悪いものを見てしまったという顔をする。

「ついにやることやったのか」
「言い方ってのがあるでしょうよ」
「でもよ、名前若いだろ。犯罪じゃねぇか」
「これでも、18歳になるまで我慢したんだから」
「一晩で手を出す男だったお前も……変わったねぇ」
「デタラメ言うなよ」

アスマは、ニヤニヤしながらカカシの肩に手を掛ける。

「しかしな、お前がロリコンだったとは」
「アスマ……お前」
「冗談だよ。まぁ、名前は美人だしな。男がほっとく訳ないから、気を付けとけよ」

分かってる!とカカシは不機嫌な声で答えた。冗談のつもりだったのに本気で返されてしまい、アスマは苦笑いするしか無かった。
ナルト達と合流し、依頼所に行くと受付に名前がいた。目が合うと、名前は恥ずかしそうに目を逸らす。そーゆーのが可愛いんだってとカカシは心の中でつぶやく。

ナルト達は久しぶりに名前に会って嬉しそうだ。波の国での武勇伝を語っている。
サスケも、話はしないが柔らかい顔をしているのを見て、カカシは驚く。あのサスケも手懐けちゃってるとは。名前を敵に回すのは怖いなとカカシは思った。

「今日の任務はこれね」
「チェッ、またDランクだってばよ。もう草刈りは飽きた飽きた!」
「強くなれば、また凄い任務できるよ。カカシ先生だって、最初は草刈りから始めたんだよ?」
「名前先生の言うとーり。文句言う暇あったら、さっさとやりなさい」

カカシは、文句を垂れるナルト達を連れて任務に向かった。

「カカシ先生、なんかおかしいわよね。ずっとニヤニヤしてる……」

なんて、任務中部下達に言われているなども気付かず、カカシは逆さまになった本に目を通していた。
地主の庭の草刈りを終え、カカシは報告書を出しに来た。階段を登っていると、廊下から名前の笑い声が聞こえた。別に隠れる必要もないのに、カカシは物陰から様子を伺う。

「名前さん、先日のお礼です!」
「いえ、あれもお仕事ですから。悪いです。ぜひ恋人に」

若い上忍の男が、名前に何やらプレゼントをしていた。意外と名前にアプローチしている男が居ないなと思いきや、俺のいない所でこうしているのかとカカシは溜息をついた。こりゃ、おちおち長期任務に行けない。

「俺には彼女もいないし……。名前さんみたいな素敵な女性にお礼をしないなんて、男が廃りますから!」

プレゼントを名前に押し付け、男が名前の両手を握りしめる。名前は、体をビクッとさせ全身を強張らせた。

「あ、あの、良かったら一緒に食事行って下さい!名前さんのこと、ずっと素敵な方だと惹かれていました!」
「えっと……」

男の必死な顔に、名前はどう断ろうか考える。舞妓だった時、なんて返していたっけ。おかしいな、全然思い出せない。
その時、名前の体が後ろに強く引っ張られた。途端に慌てだす男。

「あ、カカシさん!」

カカシは、名前の肩を抱き自分に引き寄せる。少し乱暴で、名前は完全にカカシの体にもたれ掛かった。

「男だったら、可愛い女の子困らせちゃダメでしょ」
「は、はい!すみません!」

男は冷や汗を拭きながら、その場を去って行った。その慌てっぷりが凄くて、名前は申し訳ないことをしてしまったと思った。自分が上手く断れば良かったのに、何も思いつかなかった。

「カカシさん、ごめんなさい」
「いいの。名前は、自分が想像してるよりずっと可愛いんだから気を付けてよ」
「ごめんなさい……」

名前が俯いて、少し苛立ってしまったカカシは慌てる。

「名前は悪くないから。ごめんね。ヤキモチ焼いただけだから」
「ううん。八方美人な私が悪いの……」
「違う。名前は、みんなに平等に思いやりがあるんだよ。名前は仕事終わり?俺、報告書出したら終わりだから一緒に帰ろう」
「うん。待ってますね」

名前は、少し浮かない顔をしていた。カカシは傷付けてしまったかなと、自分の浅はかさに凹んだ。
名前の好きな食べ物でも買ってあげなきゃと考えていたら、自分の名前への甘さに呆れてしまう。名前のためなら、何だってしてあげたい。

いつの間にか、そう思っていた。





「あ!」

ある晴れた日、仕事を終え、名前は買い物をしていた。そこに見慣れた背中を見つけ、声を掛ける。

「サスケ君!」
「名前か」
「今日はお休みなんだね」

サスケの目線が、名前の持つ買い物袋に移る。そして、何も言わずその袋を名前から奪い取った。慌てて取り戻そうとしたが、ヒョイと伸ばした手をかわされてしまう。

「いいよ!大丈夫!」
「こんなの重くないし、かなり危なっかしくて見ていられねぇ」
「私、力ないしね。サスケ君は力持ちだね!」
「当たり前だ。俺は忍だ」
「そうだよね、サスケ君は優秀だもんね。じゃあ、甘えちゃおっかな」
「フン」

名前の横をサスケが歩く。横目でサスケを見れば、何だよとぶっきらぼうに言われた。

「サスケ君ね、私の弟にそっくりだなーっと思って」
「弟……いるんだな」
「うん!サスケ君みたいにイケメンでクールだけど、実は優しくてね。本当にモテモテだったなぁ」

名前が懐かしむように話し、サスケは違和感を覚えた。しかし、口に出すのも憚られてサスケはすぐに違和感を振り払った。

「あ、そうだ!今日は、家でご飯食べなよ」
「名前の家でか?」
「うん!カカシ先生も良いって言うでしょう!」
「……カカシ?」
「うん、カカシ先生と3人で!って、あれ、私とカカシ先生が一緒に住んでるの知らなかったんだ……」
「あぁ。カカシはプライベートの話、全くしないからな」

サスケは、正直ビックリしたがカカシは大人だし、そう言うこともおかしくないと一人で納得した。それに丁度、カカシに聞きたいこともあり、好都合だとサスケは名前の言う通りにすることにした。里の中心部にほど近い、マンションやアパートが建ち並ぶ通りに名前の家はあった。鍵を取り出し、玄関を開けるとサスケを招き入れる。こう言う事は慣れていないのか、サスケは少し戸惑っていた。

「さぁ、入って」
「…………」
「人の家に入る時は?」
「……お邪魔、します」
「うん。ごーかく!」

名前に先導され、少し長めの廊下を過ぎるとリビングに入った。ソファーに座って、相変わらずエロ本を読んでいる自分の師がいた。

「あれ、帰ってたんですね」
「おかーえり。火影様に話をして来ただけだからさ。サスケもいらっしゃい」
「カカシ……」

額当てこそ外しているものの、口布はしたままでサスケは少しがっかりした。家の中でもこの男は口布をしているのか。キッチンに買った物を置くと、サスケは名前によってリビングに追い出された。

「ご飯、作るから2人はゆっくりして下さいね。」
「いーや、手伝うよ」
「ありがとう。でも、サスケ君が話したいみたいですよ」
「あら、そーなの?」

何も言っていないのに、サスケの心を読んだ名前にサスケは驚く。こいつ、本当は忍なんじゃないかと疑う程に。基本的には抜けているが、ふとした時に鋭い彼女が不思議でならなかった。
そんなことどうでも良いかと気を取り直し、サスケはカカシに相談事を持ち掛ける。

「カカシ、修行の事なんだが……」
「そーゆーことね」

2人はすぐに話し込み始め、名前もご飯を作り始めた。名前には何の話かサッパリ分からなかったが、サスケの質問に的確に答えているであろうカカシを見て、本当に先生をやっているんだと微笑ましく思った。

「話は終わりました?ご飯出来たよ」
「んー話せる事は話したし、続きは実践だな」
「分かった」

名前は、サスケの分だけ増えた料理を並べていく。

「お口に合うか分からないけど」
「名前の料理、美味しいから」

温かい出来立ての料理なんて、一体いつぶりだろうか。こう言う時、どうやって食べていたっけと思い出す。カカシと名前の笑顔がとても優しくて、箸を握りながら口を開く。

「い…いただきます」
「召し上がれ!」
「さーて、俺もいただきます」

久しぶりの温かい食事に箸が進むサスケ。誰かと話しながら食事をするなんて、一体いつぶりだろうか。つい、かつての記憶と重ねようとしてしまうのに気付いて、必死に頭から振り払った。パッと前を見ると、少し不安そうな名前の顔がサスケを見つめていた。

「どうかな?」
「……うまい」
「でしょ」

自分がご飯を食べているだけで、嬉しそうな名前にサスケはむず痒さを感じた。何だったっけ、この感覚。サスケは懐かしい気がした。

やっぱりカカシの素顔が気になり、横目で見ているが名前に話し掛けられ、目を離した瞬間に食事を進めるため、相変わらず素顔が分からない。
名前は、そのカカシの動きを不思議に思いながらも、サスケと話す事に夢中になっていた。
流石は男二人いるだけあって、あっという間に皿は空になった。サスケは皿洗いを手伝い、食休みしていると名前がキッチンから声を掛けてくる。

「サスケ君も甘いのダメなんだっけ」
「あぁ」
「じゃあ、フルーツね」

名前は、一口大にカットしたグレープフルーツを小皿に盛った。

「俺も苦手だからね、食後のデザートは専らフルーツなの」

小さなフォークで口に運べば、甘酸っぱくほろ苦い果汁が口の中に広がる。

「美味しい?」
「うまい」 
「んー、良かった」

食後のデザートも終え、時計を見れば21時を過ぎていた。思ったよりもゆっくりしてしまい、サスケは帰ろうと立ち上がる。それに合わせて、カカシも本を閉じて立ち上がった。

「サスケ、帰る?送るよ。まだ話もあるしね」

サスケは、名前の方を向きながらも恥ずかしそうに目線を外していた。何か言いたげな様子が可愛くて、名前は黙ってサスケの言葉を待つ。

「名前、その、料理、ありがとう」
「どういたしまして!またいつでもご馳走するよ」

名前は、八百屋のおじちゃんにオマケして貰ったトマトをサスケに渡した。カカシと一緒に家を出て、ふと振り返ると名前が玄関先で手を振って見送ってくれていた。照れ臭くて、手を振り返すこともなくサスケは前に向き直った。

「優しいでしょ、名前」
「そうだな。で、話って何だ?」
「まぁまぁ、一緒に居たかっただけ」
「は?」

カカシに頭をポンと撫でられ、サスケは意味が分からないと目で訴えた。それに対し、カカシは右目を優しく細めた。そして、前を向き口を開く。

「名前はさ、あぁ見えて家族みんな死んでるの」
「…………」
「だからこそ、弟みたいなサスケを放っておけないんだろうな」

左側から見るカカシの表情は分からない。サスケは、なんと言えば良いか分からず黙り込んだ。少し長い沈黙を破ったのはカカシ。

「ま、時々名前の為にも家においで」
「良いのか?」
「当たり前。むしろ、お願い」
「……分かった」
「ありがとう」

あまり話し込んだ訳でもないのに、気付けば里の外れにあるサスケの家に着いていた。カカシは、いつもの間抜けな笑顔を向けて姿を消した。
姉さんがいたら、あんな感じなんだろうか。兄さんが優しかった頃に良く似ている。
サスケは、胸が痛くなって少し咳き込むと家の中に入った。
ー20ー

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