∴満月の夜に
※突発的にbsr ※鬱っぽい。死ネタ ※佐助の部下設定 ※長いです、すみません
『おや長じゃないッスか。こんな満月の日に奇遇ですね、お月見ご一緒しても?』
「…良いけど」
とても奇遇とは思えない態とらしい口調でご丁寧に徳利とお猪口二人分をちらつかせた俺様の部下は、屋根に寝転んでいた自分の隣に胡座をかいた。 行儀悪い、女の子がはしたない―――いつも口を酸っぱくして言い聞かせてはいる説教は何故か喉でつっかえてしまう。
彼女は気にも留めずお猪口を一つ寄越すと、酒を酌して呑むよう促す。 特に断る理由もなかったのでありがたくそれを煽ると、冷たい喉越しとは反対に身体はほんのり暖まった。
「ちょっと、これ結構強いお酒じゃない」
『へっへー、とある島津の方から盗…頂いてきました』
「ほーう…俺様いつも言ってるよねー、部下の尻拭いすんのは誰だと思ってんのってさー」
『や、やっだぁそんな人聞き悪い!一応伝言は残しておきましたから大丈夫ですって、ね!』
「アハー、益々余計なことしてくれちゃってこの子はぁぁぁぁ…!!」
『まぁまぁ落ち着いて下さい長。折角の満月にケンカは野暮ですよ』
「誰がそうさせてんの誰が!」
相変わらず旦那同様手のかかる子だ。胃が痛い。 そんな俺様の状態に見向きもせず、彼女は気ままに月見酒を楽しんでいる。 何なんだ一体、と憤然した思いを抱えお猪口の中に映った月の波紋を眺めた。
『私満月って好きなんですよ。長はどうですか?』
「…嫌いだよ。明るすぎて忍べやしないし」
『うわ何ですかその仕事大好き発言。そんなだから長モテないんですよ。顔は良いのに』
「上司を全く敬わないで仕事に不真面目な部下のせいだっていい加減気付いてくんない、ねぇ」
『勿体無い、こんなに綺麗なのに』
冷たく答えたのに特に残念がる様子も見せず、余計な口を叩いてきやがった。 そしてただ一言、勿体無いと。
『だってねぇ、長。幸村様やお館様の強い光だと長が隠れようとしてしまうけれど』
静かに告げた少女は、微笑んだ。
『月の淡い光なら、長の姿が良く見えますから』
ふと、気付く。 月光を受けているものになくてはならないモノが彼女には無いことを。
『もー、長ってばめちゃめちゃ薄幸そうな顔しちゃって。あれから睡眠摂りました?幸村様たち心配してますよ。私だって…』
カラカラ笑う彼女はいつもの彼女なのに。 けれども無かった。
影が、無かったのだ。
そうだ、彼女は前の戦で―――
『心配して、満月の夜に化け出てしまう位に』
(佐助、すまない)
(旦那?何言って…)
(守れなくて、すまなかった…!)
(冗談止してよ。あの子の事だからその内ひょっこり、)
(佐助…あやつは、もう)
『もう、たかが部下一人の死を引き摺らないで下さいよ!成仏できないじゃないですかー』
「いいよ。成仏、しないで」
『…え、あり?』
知らなかったんだ。 自覚したくなかったんだ。
君の存在で俺の半分以上が構成されていたなんて、そんな馬鹿なこと。
『長…』
「いいから。妖怪でも悪霊でも構わないから。ずっと此処に居て、俺様の、傍に」
浅はかだよね。 喪ってから、そんな常套句が自分にかかってくるなんて。
厄介な職業だよ、忍ってさ。
ワールドエンドに置いてきぼり (哭いているのを誰も知らない)
2011/05/16 20:27 |