男って奴は | ナノ
第3話 







「……こんなもんだろ…」


暫くすると、シンさんの手が止まった。
背後から笑い声が聞こえたかと思うと、私の肩を両手で掴んで
ぐるんとみんなの方へと向を変える。

うなじがスースーするから、髪をアップにしたのは分かるけど。


「………どう…ですか?」


顔を上げれば、みんなは黙ってわたしの事をキョトンと見ている。


「ルルちゃん…」


そして最初に口を開いたのは、ソウシ先生だった。


「見てごらん、凄く綺麗だ、」


そう言ってさっきの鏡を渡してくれる。


「すいません…」


それを受け取り自分の顔を映した私は、ドキッとした――

綺麗にアップされた髪。
真っ赤な口紅…
そしてシンさんがくれた髪留め。

これら全が。
見たことがないほどに私を大人っぽくさせていた。


「ほォ〜〜ますます良い女になったじゃねぇかよルル、」
「ルルさん…っ、すごく綺麗ですッッ!」


豪快に笑う船長と、赤い顔で誉めてくれるトワ君。


「……わるくねえ、」


ナギさんも、ボソリと私を誉めてくれる。


「ありがとうございます…」


みんなに誉めて貰えて、すごく嬉しい。

ただ。

1番誉めて貰いたいハヤテは、さっきよりさらに、ぶっちょう面。

私と目すら、合わせてくれない。


ハヤテと迎える初めての誕生日なのに……悲しくなる。

みんなもそんなハヤテに、気づいているみたいだけれど……
わざと知らんぷりをしているみたい。

私も…場の雰囲気を壊したくなくて、何も言わず黙っていた。



「じゃあ、次は僕が……」


そんな私に気づいてか、慌てたようなトワ君が、背中の後ろに何かを隠して赤い顔で近づいてきた。


「――ルルさん!お誕生日おめでとうございます!!」


そしてズイと差し出されたのは、首に赤いリボンを巻いたピンクのウサギのぬいぐるみ。


「…コレって…もしかして」


以前、立ち寄った港のショウウィンドウにコレと同じピンクのウサギが飾ってあったことがある。
確かその時、カワイイからと、しばらく張り付いて見ていたのだ。
まさか、あの時の、ウサギ?


「あ、……アレじゃないんです。ごめんなさい…」

「え?…違うの?」


どうやらソレではなかったようで、トワ君がすまなさそうに目を伏せる。


「…ってやだトワ君ッ、そんな顔で謝らないでよッッ」


慌ててトワ君の腕を掴む。

トワ君は顔を上げると、ウサギの頭を優しくなでた。


「実はあれから…同じものを探したんですけど…」
「わざわざ探してくれたの?」
「はい。……でも見つからなくて。……だから僕、できるだけ似ているのを選んだつもりだったんですけど…」


そんな風に思っていてくれた事が、なにより嬉しい。


「ありがとトワ君……コレ、そっくりだったから、てっきり同じのだと思ったの!」
「ホントですか?」
「うん、ホント!だからすごく嬉しいッッ」
「あ〜、良かったァ!」


トワ君が、ホッと息をつく。


「トワ君どうもありがとう…!!うさちゃん、大切にするね?」


笑いかけるとトワ君は、赤い顔で『はい!』と言って自分の席へ戻っていった。

それを見届け私もウサギを胸に抱えて、椅子に座ろうとした、その時。

船長がコホンと咳払いをした。


「ルル!俺ンとこに来いッッ」


手招きをされ、椅子の上にぬいぐるみを置いて船長のところへいく。


「ほら、ここだッッ」
「ひゃっ……」


近づけばヒョイと両手で持ち上げられ、膝の上に乗せられていた。

船長は足元にあった大きな箱を、私の前に差し出す。


「ほら、俺からのプレゼントだ、開けてみろ…」
「え……」


見るからに高そうな、包装がしてある箱。
伺うように視線を向ければ、船長はニカリと笑う。


「お前の為に買ったんだ……遠慮しねえで開けてみろ、」
「ありがとうございます…船長、」


みんなが興味津々で覗き込む中、箱の蓋を一気に開けた。



「……!!!!」


誰も声がでなかった。

そこにはいかにも高そうな、真っ赤なシルクのイブニングドレスと……
それに合う、イヤリングとネックレスが入っていたから。

みんなが息を呑むのが分かる。


「…ずいぶん奮発しましたね……船長…」


シンさんが船長を見て、ニヤリと笑う。


「可愛いルルの為だからよ…」


船長もははっと笑い返す。

でも…


「ねえ、船長…?」
「なんだ?気に入らねえとか言うなよ?」
「まさか!」


だけど……


「コレ。…私には少し、大人っぽ過ぎやしませんか?それに…すごくセクシー…」


肩も、背中も、胸までもが、大きく開いた真っ赤なドレス。

絶対に私には似合わない。

ソウシ先生が、そのドレスを手にとった。


「うん。確かに。……ルルちゃんは基本的に、何を着ても似合うだろうけど……やはりコレは、少し大人っぽ過ぎやしませんか?」


ソウシ先生も、首を傾げて船長を見る。

そこに船長の笑い声が響いた。


「お前らも…まだまだ青いな?」
「それはどういう意味です?」


すぐにシンさんが腕を組んで尋ねる。

船長は私の肩を両手で掴んで、背後から顔を覗かせた。


「いいかルル…。来年の誕生日までには、コイツが似合う良い女に、なってろよ?」


な?、と目を合わせる船長。


「フン…そういう事ですか、」


意味が分かったシンさんが鼻で笑う。

だけど私には、ちっとも意味が分からない。


「…どういうこと?」


尋ねると…ソウシ先生がふふっ笑った。


「あのね、ルルちゃん。船長は1年後を見越して、コレをルルちゃんに贈ったんだよ、」

「………1年後、?」
「そう。来年の今頃は。…このドレスが似合う、素敵な女性になってるってことだよ」
「………私が?」


信じられない。

だって、ちっともグラマーじゃないし。
第一、こんなドレスが似合うほど……綺麗じゃない。


「なんだ?……信じられねえって顔だな、」
「だって…船長ッッ」


振り返る私を、船長はぎゅっと抱きしめた。


「心配するな。…俺の目に狂いはねー。間違いなく1年後には……むしゃぶりつきたくなるような良い女になってるはずだ」

 ――そん時は

コイツを俺が脱がせてやる。

船長はそう言って、ちゅう、とほっぺにキスをした。


「……なッッ!」


真っ赤になって俯けば、船長の笑い声がキッチン中に響き渡った。


……と、ここまできて、次々と続いたプレゼントの波が一旦落ち着く。

こうなると、何も切り出さないハヤテに、否が応でも視線が集まる

みんなが固唾を飲んでハヤテを見つめた。



『――あン?』


それに気づいたハヤテが、食べる手を止め、顔を上げる。

真っ先に口を開いたのは、やはり船長だった。


「なあハヤテ、お前はルルに渡すモンはねーのか?」


ハヤテと付き合って初めての誕生日。

ゴクリと唾を飲み込んで、じっと顔を見ていると…
ハヤテは不機嫌そうにボソリと言った。



「……ないっすよ、」

「あ?」


顔を俯かせ呟くハヤテに、船長がもう1度聞き返す。

するとハヤテは、今までになく不機嫌な顔で、吐き捨てるように言った。



「…んなモン、ねえーよッッ!!」


ハヤテが言うや、腕を組むシンさんが鼻で笑う。


「ずいぶん余裕だな、ハヤテ、」
「あ?どういう意味だよ、」
「そのまんまの意味だが?」


睨み会う2人に、さっきまでの楽しかったキッチンは静まり返り
険悪な雰囲気に変わる。


「2人とも、止めないかッッ。ハヤテも用意できなかったのは仕方がないとして、その言い方はないだろ?」


ソウシ先生が2人を窘め、あきれた顔をハヤテに向ける。
シンさんがまた、鼻で笑った。


「コイツ、ルルの男になって調子に乗ってんですよ、」
「…んだとッッ!」


ガタッと椅子をならして立ち上がるハヤテ。
船長は腕組みしたまま、3人のやりとりを笑って見ている。

シンさんがさらに、追い討ちをかけた


「そうだろハヤテ。…お前は釣った魚に、餌はやらないんだよなァ?」
「……くっ…!」
「せいぜい逃げられないようにしとくんだな?……この船には他人の魚に餌をヤりたがる奴ばかり、乗ってるからな、」


いきり立つハヤテに対して、シンさんは鼻で笑ってそっぽを向く。

馬鹿にしたようなその態度に、ハヤテは唇を噛み締めグルリと周りを見やったかと思うと。



「……勝手に言ってろッッッッ!!!!」


ダンッとテーブルを叩いて、そのままキッチンを飛び出していった。


「………」


みんなが勢いよく閉まるドアを見つめる。


「まったくハヤテは…素直じゃないんだから…」


ソウシ先生がドアを見つめたまま困ったように頭を掻く。

ドアから視線を移したトワ君が、私を見た途端、ぎょっとした表情を浮かべた。


「ちょ…ルルさん!!…あのっ……泣かないで下さい、」
「………え?」


泣いてる?
慌てて駆けつけたトワ君が、優しく背中をさすってくれる。

その時初めて、自分が涙を流していたことに気づいた。


 ――だって信じられなかったから。

プレゼントなんて、なくったってよかった……

ただ、おめでとうって、ひと言。

言ってくれるだけで…良かったのに……


「………」


ソウシ先生とトワ君が、顔を覆う私の背中を撫でてくれる。

ほかの3人はハヤテに呆れて、溜め息を吐く。

その中にいると、だんだん自分が惨めになってくる気がした。


「ご、めんなさい……せっかくお祝いしてくれたのに……こんな風になっちゃって……」
「ルルちゃんのせいじゃないよ………」


でも…


「……やっぱり私…

ここには居られない…」


小さな声で呟いて

私もキッチンを飛び出していた。








 
   






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