、
「‥‥昔は雌島も厳格なる‥゛男子禁制”の島だったんだ」
‥‥昔は‥‥
小さな声で呟きながら、●●●は顔を見つめる。
島の歴史を紐解くように
リュウガは、順を追って話し始めた――
「その昔――。雌島がまだ、男子禁制を貫いていた頃。
男と女のやり取りは‥‥船の上と、その下。
つまり、男は船上。女は港で‥物資のやり取りをしてたんだ」
これには●●●も、納得した。
「つまり、港に降りる事すら男の人は、許されてなかったのね‥」
「‥‥その通り」
リュウガは1つ、うなずいた。
「まァ‥当時の船は今で云う、ボートみてえな大きさだ。
港に降りるまでもなく‥‥船から手渡しで、積み荷のやり取りをしてたんだ」
●●●は「うん」と頷いた。
船上なら、上陸した事に、ならない‥‥
戒律はちゃんと守られている。
「だが‥時代と共に、船はどんどんデカくなる‥」
「はい」
「特に‥物資を運ぶ貿易船は、シリウス号‥‥とまではいかねえが――
それに近い大きさに、時代と共になってったんだ」
なるほど‥‥
船の発展は目まぐるしい。
長期の航海をする船は‥‥大型船がほとんどだ。
漁船も今では、遠海まで行けるよう‥
立派なものになっている。
「積み荷の量もどんどん増える。航海もより、安全なものになっていく‥‥」
――と、ここまで言ってリュウガは「しかし」と付け足した。
「しかし?」
「ああ。船がデカくなる事で、手渡しでやり取りが出来なくなった」
これには●●●も同感だった。
シリウス号を思い浮かべれば、一目瞭然。
甲板から下を覗けば、ゾクリとするほどの高さがある。
手渡しなんて不可能だ。
「それでやり取りは、どうしたの?」
男は港に降りられない。
「それは、荷揚げの網を使ったんだ」
見つめる顔に、リュウガは鼻でフフンと笑う。
その手があった!
「すでにその頃の大型船には、常設されていたからな、それを使って積み荷のやり取りを始めたんだ」
「じゃあ‥今のシリウスと同じですね♪」
リュウガは笑ってうなずく。
「積み荷の量も手渡しじゃできねえくらいに増えただろ、酒が詰まる木箱も、これなら楽に降ろせるしな」
「はい‥」
シリウスも、木箱で届く重たい荷物は、荷揚げの網で
甲板の上に下ろされる。
「カネのやり取りは、ロープを結んだカゴを下ろして、上と下でやり取りしたんだ」
「‥‥なるほど」
●●●はポンと手を打った。
「これなら、どんなに船が大きくなっても、男子禁制は守られますね♪」
ニコリと笑う2人の間に、穏やかな空気が流れていく。
しかしリュウガは‥‥否定の言葉を付け足した。
「だが、そのうち島で‥‥ある異変がおきはじめた」
ある異変?
「それはどんな異変なの?」
●●●は首を傾げた。
とたんリュウガは、口の端を、歪めて笑う。
そして彼は顔を近づけ、耳に息を吹きかけた。
「それは、な?」
「、はい‥‥」
「‥‥ガキの数が、徐々に減っていったんだ‥」
思ってもみない返答に、●●●は目をパチパチさせた。
「それは‥流行りの病が、流行した、とか?」
「そう云う意味じゃねえ」
「ん?」
「産まれるガキが、減った、って事だ‥‥」
「それはどうして?」
尋ねながら、ふと気づいた。
男子禁制のそういう島では‥‥子供はどうやって作っているのか‥‥
不思議に思う●●●の前で、リュウガは腕を組んでニヤニヤしている。
「分からねーか?」
●●●は首を縦に振った。
すると彼は腰を浮かせて、ジリ‥っと身体を近づけた。
●●●は後ろに手をつき、離れようと仰け反る。
だけどリュウガは、もっと身体を寄せてくる。
「‥‥、なに?」
「船はどんどんデカくなる‥」
「、ええ‥‥」
「‥‥男女の距離も、必然的に、遠くなる」
「‥‥っ、」
話とは逆に、リュウガの腕が首の後ろに回り込み、ビクリとした。
ニヤつく顔が、どんどん顔に近づいてくる。
「‥‥、船長ッッ!」
「そうなりゃー互いの顔もよく見えねえ‥‥会話もほとんど交わさねえ‥‥
そんな相手とお前は……こういう事を、する気になるか?」
―― と、●●●が困惑している隙に
素早くリュウガは身体を屈め、戸惑う口に、キスをした。
「んぅ‥」
キスをしたまま、ポスッとベッドに倒れ込む。
さんざん口を貪ったあと、指を絡めて組み敷いた。
「‥‥‥‥っ、」
「どうだ、出来るか?」
リュウガは顔を見下ろしたまま‥‥卑猥に腰を揺らしている。
膨れた股間が足の付け根に、コツンコツンと当たっている。
下着越しだけど、まるでホントにシテいるみたいに‥
「‥‥!」
かっと顔が熱くなる。
つまり彼が言う「こう云う事」とは‥‥
エッチができるかという意味だ。
「そんなの、できない」
組み敷かれたまま●●●は首をブンブン振った。
「なぜだ?」
「なぜ‥って!顔も見えない、会話もしない相手でしょ?‥そんな人は好きにらない!だから、エッチなんてしない!」
「‥‥それだ」
リュウガは笑って身体を起こす。
腕を掴んで引っ張り起こした。
「ど、どういうこと?」
起き上がった●●●は、ベッドの上に正座する。
リュウガはベッドヘッドに凭れて、ニヤニヤ笑う。
「つまり、昔の男女は積み荷のやり取りをしながら、パートナーを見つけてたわけだ」
「そうなの?」
「ああ。‥‥当時は手渡しだったしな‥‥多少なりとも会話もあったろ」
「なるほど‥‥」
「…‥で。気の合う相手が見つかれば、2人は密かに逢引して‥‥
船の上で、せっせと子作りに、励んだわけだ」
「‥‥こ」
意味が分かって、●●●は頬を赤らめた。
くるっとリュウガに背を向ける。
どんな顔をしてイイのか、分からない。
その身体を、リュウガは両手で抱き締めた。
「昔はそれが暗黙の了解で、‥そうやって子孫を残してきたんだ」
「う、ん‥」
「けど‥時代の波には逆らえねえ‥‥」
「‥‥っ、」
「船がデカくなる事で、男女のやり取りは“積み荷の上げ下ろし”だけになっていく‥
そのうち島の男と女は‥‥恋愛からも、遠のいたんだ」
だから赤ちゃんができなくなって‥‥
うなずく間もリュウガの両手が、お腹のあたりを撫でている。
どうやらシャツの下に、潜り込もうとしているらしいが‥
その手をぎゅ、とつねりあげると、リュウガは「イテテ」と、伸ばした両手を引っ込めた。
「‥とまあ、こんなワケでガキが産まれなくなったわけだ」
赤くなった手の甲に、彼は大げさに息を吹きかける。
「‥で、種族の存亡に直面して、2つの島の長老たちが、話し合いをもったわけだ」
「‥‥!」
●●●は、サッと振り向いた。
「‥じゃあ‥そこで‥」
リュウガは深くうなずいた。
「島の長い歴史の中で、この時初めて――雌島の禁が、解かれたんだ」
そこには酷く真面目な顔が
真っ直ぐ自分を見つめていた。
※