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「その島は2つの島からできてんだ」
リュウガは、●●●の肩に顎を置き
これから向かう島の話を‥詳しく話し、始めた。
「1つは homme(オム)島。もう1つはfemme(ファム)島。
2つの島は通称、雄島と雌島と云って‥‥
昔から雄島には“男の神”が。雌島には“女の神”が‥‥
住んでいると信じられてる島なんだ‥」
これには、少々●●●も驚いた。
その島とまったく同じ。
神を信じる島がヤマトにあると
聞いた事があるたからだ。
「わたし、そう云う島を知ってます」
「ん?そうか?」
リュウガは「行ったことがあったか?」と、記憶の欠片を辿ろうとした。
しかし●●●は、それを制する。
「行った事は無いですけど‥‥同じような島がヤマトにあると‥聞いた事があって‥」
そこまで言って、不意に顔を曇らせた。
「ただ、わたしが聞いたヤマトの島は‥‥島の神様が、異性の入島を嫌うから‥
そういう島は、男子禁制だったり、女人禁制だったり‥‥
そういう習慣だと、聞いた記憶があるような‥」
これには今度は、リュウガの方が、驚いた。
まさに、言った通りの島なのだ――
「そことまったく同じだな」
「え‥‥」
雄島は…女人禁制。
雌島は…男子禁制。
そうする事で崇める神を‥
敬い(うやまい)奉って(たてまつって)いるのだ。
「じゃあそこも‥」
リュウガは深くうなずく。
そして話を進めた。
「しかし‥雄島の土地は枯れてて、作物が全く育たない」
「はい」
「なら‥‥雄島の男はどうしたか。‥船で海に漁に出たんだ」
「‥‥漁に‥‥」
「そして魚を近隣諸国で売りさばいて、外貨をそこで稼ぐんだ」
なるほど‥‥
●●●はコクンと頷いた。
「逆に雌島は土地が肥えてて、農耕や放牧に向いている」
「はい」
「だから、雌島に住むオンナ達は、家畜を育て、畑を耕し‥‥それを、港や街で売ってんだ」
ここまで聞いて
●●●は思わず声をあげた。
「じゃあ男の人は、稼いだお金で‥」
「そう云うことだ。‥男は雌島で食い物を買う。そうやって暮らしてんだ」
それだけじゃねえ‥‥
リュウガは話を続けた。
「男はただ食い物を買うだけじゃねえ‥」
「はい」
「雄島の男は、常に船で移動する‥」
雌島へ行く時も、しかり。
漁に出るも、しかり‥‥
「逆に、雌島のオンナは島から一歩も出られねえ。‥‥なぜか分るか?」
質問され、●●●は首を横にかしげた。
じらすことなく、リュウガは答える。
「なぜならオンナに、船を動かす、技術がねえからだ」
「‥‥そうなの?」
「ああ」
●●●は、ふーんとうなずく。
「もちろんそれは‥教える男が島に住んでねえから‥なんだが‥‥
そもそも男に、それを教えるつもりはねえ」
●●●は「どうして?」と、首をひねった。
「それは、オンナを島から出さねえためだ‥」
「‥‥え!」
途端●●●は、姿勢を正す。
そんなの変だ。
男は自由に、いろんな国へ行けるのに。
「それはどういう事なのっ!」
声を荒げる●●●の頬を、リュウガは右手でそっと包んだ。
「それはな」
「はい」
「奴らが、2つの島で支え合う、少数民族だからだ‥」
「‥‥それとどんな関係が?」
見つめる顔が険しくなる。
「つまり、オンナが自由に島を出て、近隣諸国を見ちまったら、戻ってこねえ可能性がある。
‥‥男はそれを恐れてんだ」
「‥‥‥」
これには胸がギリリと痛んだ。
種族を守る‥‥その気持ちはよく分かる。
だけど、これでは島は女にとって、まるで、柵のない牢獄だ。
自分の意思に関係なく‥
一生オンナは閉ざされた島に縛られてしまう。
「だから、オンナの中には俺たちみたいな船乗りに、乗せてくれと懇願するヤツも居るんだが‥‥それはまた、話すとして」
リュウガは、うつむく顎を指で持ち上げ
そして声を、少々張った。
「けど‥‥悪いこと、ばっかじゃねえ」
「‥‥どういう事?」
顔を上げて、首を傾げる。
リュウガは「に」と微笑みかけた。
「それは、そこらの港に負けねえくらい雌島には、あらゆる物が揃ってるからだ」
「‥‥あらゆるもの?」
「ああ。流行りの服はもちろんの事。装飾品や高級品。生活に必要な、医薬品や雑貨などなど。もちろん酒場も娯楽もあるしな…‥
つまり、無理に島から出なくても、大抵の店が島の中にあるってことだ」
●●●の顔が、複雑になった。
なんだかよく分からない。
女は島から出られないのに‥…どうしてそんなに?
「ワケが分からねえ‥って、顔だな?」
●●●はコクンとうなずいた。
すぐにリュウガは、タネをあかす。
「それは…男の中にそういった最先端の品物を大量に仕入れて、運ぶヤツが居るからだ」
なるほど‥‥
それでようやく合点がいった。
「男の人は、頻繁に外国に行きますものね」
自給の出来ない男の人は、どこの国の人よりも、頻繁に外国に行くだろう。
島からオンナを出さない代わりに、男は物質を仕入れているのだ。
「オンナはそれをカネで買い取り、街で売る」
「それなら島から出られなくても、流行の物が手に入るし‥‥
男の人も必要な時に必要な物が、隣の島で手に入る。そうやって互いの事を支えてるんですね」
ご名答‥‥
リュウガは、にっと微笑んだ。
「だから雌島は、物資も娯楽もそりゃー豊で、俺たちみたいなよそ者が立ち寄る程に、賑やかな街に栄えてンだ」
―― と、ここまで聞いて、何か違和感を感じた。
大事な何かを忘れてるような‥
閃いて、●●●は「あ」と声をあげた。
「でも‥そもそも雌島は、男子禁制じゃ‥」
なのにどうしてシリウスのみんなは、この島に何度も行ったことがあるのだろう‥‥
リュウガは「ようやく気づいたな」とでも言いたげに、フフンと笑った。
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