第18話








「シン…っ!…右からくるぞ!!」

おれの声にシンは逆の、取り舵を切る。
重い舵を片手で握り、ガラガラと左へ、めいっぱい回した。



島を出て数日後。
あの晴天が嘘だったかのように、おれ達の船は馬鹿デカい嵐の、ど真ん中に居た。

横殴りの雨と狂ったように吹き荒れる風。
叩きつけるそれは、目を開けるのも困難なほど。

船べりをゆうに越える荒波は直接甲板に打ち上げられ。
ヘタをすれば、一気に身体を掬われる。
荒れ狂う波に、上下左右と翻弄されるシリウス号は
湖面に浮かぶ木の葉のようだ。

固定し切れない木箱や樽が、打ち付ける水圧に耐え切れず。
ある意味、凶器となって甲板中を転がり回る。
かと思うと。船べりに叩きつけられては粉々に砕け。
跡形もなく消えうせていた。



「ナギ…っ!手を休めるな!!ガンガン撃て!!」

そんな中。さらに最悪なのが、背後から近づく海軍船だ。
俺たちがシリウス海賊団と知ってか知らずか
しつこくいつまでも追ってきやがる。

しかもだ。
奴らの船は最新式の艦船らしく。
スピード、大砲の飛距離ともに、俺たちの上をいっていた。

「ハヤテ…ッッ!どんどんナギに弾、渡せ…!ナギは、撃って撃って、撃ちまくれ!
奴らを船に近づかせるなっ!」

ズドーン、ズドーンと大砲の振動で船が揺らぐ。
びしょ濡れの顔を片手で拭い、2階のデッキから
怒鳴り声で指示を飛ばした。

「ソウシにトワは、まだ、荷物の固定が終わらねーのかっ!!!」
「……!」

乗り上げる波に流されないよう縛った荷物にしがみつく2人が
あと少しだと、合図を送る。

……まずいな。
早くしねーと転がる荷物で、先に船縁を破壊されかねねー。

「とにかく早く固定しろ!…トワ…っ!荷物に気ィ取られて、足元、掬われるんじゃねーぞ!
海に落ちたら終わりだと思え!ソウシ、トワの事も見ててやれ!」

横殴りの雨が降りしきる中、2人が振り向き、頷くのが分かる。
ソウシが軽く手を上げた。

その間も、ジリジリと距離を詰めてくる、海軍船。
砲弾の落下する場所も、徐々にケツに、近づいてやがる。

「●●●、怖いか?」

おれの隣には、髪から顎から服から、雨を滴らせる●●●が、両手でデッキにしがみついて、ぎゅーーと目を閉じている。

ホントは部屋に居させてやりてえ……

しかし、恐らく中は倒れた物や割れた酒瓶で、滅茶苦茶だろう。
それに、万が一船が転覆しようものなら、部屋の中よりデッキの方が
助かる見込みは、まだある。
しかし、予想に反して目を開けた●●●は、真っ直ぐオレを見据えた。


「船長、わたしは大丈夫です!それより早く、みんなに指示を!」

怯えた顔をしながらも、気丈に振舞うその姿に、俺の心臓がドクッと脈打つ。
コイツ。随分強くなったじゃねーかよ。
少し前までは泣きそうな顔でもって、俺の腰にしがみついてたくせによ。
その姿に、俺の中にも気合が入る。


「よし。そんじゃしっかり捕まってろ!」
「――― はいっ!!」

びしょ濡れの髪をくしゃっと撫でて、背後の海軍船を視界に捕らえた。


「いいか野郎ども…っ!何が何でも、逃げ切るぞぉッッ!!」

おれの怒声が、雨の降りしきる甲板に響く。
しかし、そうは言ってみるものの。
バンバン打ち込まれる大砲に、眉間のシワが深くなる。


アイツら……

俺たちを捕まえる気は、さらさらねえな。

船ごと俺らを沈める気だ。


 ―― さて、この場をどうやって切り抜ける


大きく船が傾く中。

胸の前で腕を組み、近づく海軍船を真っ直ぐ見据えた。













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