第16話





「さーーて、お宝探しに出かけるか!」

準備も整い、胸の前で腕を組む。
おれの前には野郎が5人――
こん中からあと2人。
‥さて、どいつを連れてくか。


「まず、ハヤテ…!」

呼びかけるとハヤテの肩が、ヒクっと揺れた。

「引き続き、頼むな?」

ハヤテは「了解!」と、準備運動を始める。
腕を伸ばしたり、屈伸したり。

これで潜るのはオレを含めて、あと1人。



「もう1人はソウシ…。お前だ、」

戸惑うことなく名前を告げる。
ソウシは『意外だ』…そんな顔でオレを見た。

「わたし、ですか?」
「ああ。お前だ、」

キッパリ告げれば、残りの野郎の顔を見て‥‥納得顔を、おれに向けた。

「了解しました」

ふふ…と笑って、ソウシも胴着を脱ぎ始める。

ホントはシンでも良かったが。
ハヤテと一緒にさせると、どんなトラブルを起こしてくれるか分からねェ。
深く潜るという事で、できる限りのリスクは避けてェ。

ナギは泳げるようになったとはいえ、長く潜るには不安が残る。
トワの泳ぎは悪くねェが、……まだ若いということで、判断力が、若干鈍い。


「…んじゃ。残った者は俺たちのホースに空気を送れ!」

そんな理由で人選を決め、「頼んだぜ?」と、ウインクをかました。
それから、不安そうに突っ立つ●●●を、抱き寄せた。


「なァー…そんな情けねェ顔、してくれるな」
「でも船長……。そんな古い船に潜って…ホントに大丈夫なんですか?」
「危ねーことは、するつもりはねえ。中に何か残ってねえか、見てくるだけだ、」
「……でもぉ……」

不安が拭えないんだろう。
●●●は野郎の顔を、ぐるっと見る。

「そう、心配すんなって!」

ハヤテがスタスタ近づいてきて、●●●のおでこをコツンと突いた。

「…そうは言っても、ハヤテ…」
「心配しなくても大丈夫だよ、●●●ちゃん、」

ソウシも、前に歩み出る。

「ほら、船長も一緒だし‥‥ハヤテにはわたしが、ついて行くから…」
「は?…ついていくからって!オレはそんなにガキじゃねーし!」

途端ハヤテが、ぎゃんぎゃん吼えた。

「そうやって、いちいちムキになるところが、まだガキだと言ってるんだ、」
「はぁ?!…うっせーシン!お前はおれらに、空気を送ってりゃー‥いいんだよ!」

フン…とハヤテが、顔を背ける。

「ほぉーー。だったらお前のホースには、オレが空気を送ってやる…」
「……っ!」

不適な笑みをシンに向けられ、ハヤテはゴクッと唾を呑む。

ほらな。
コイツらときたら…いつもこうだ……


「その辺にしとけ!」
「……!」

まったく出かけにコイツらは…
一喝すると、2人が、ぐ、と黙り込む。

「…ってことで。ソウシのホースは、シン。……お前が担当だ、」

頼んだよ、と、ソウシが、ふふ…っと、笑いかける。
シンは腕を組んだまま、「了解です」と頷いた。

「ハヤテのホースは、ナギ。お前が頼む、」
「頼んだぜ、ナギ兄ィー」
「任せとけ」

ナギも腕を組んで、大きく頷く。

「トワはオレのを頼んだぜ?」
「はいっ!精一杯、頑張ります!」

ビシッとトワが姿勢を正すのを見届けてから
再度、野郎の顔を見渡した。

こんで野郎全員の役割分担は、決まったワケだが……



「●●●ッッ!」
「は、はいっ!」

●●●が肩を揺らして、こっちを向く。
オレは向きを変え、真正面から向き合った。

「お前は、俺らの無事を祈ってろ…」
「ぶ、無事を…って、そんなに危険なら…やっぱりやめた方が‥…
……うん、そうだ。3人じゃ危ないし……あっ!」

まくし立てる●●●の首の後ろに、素早くおれは腕を回し
そのまま胸に抱き寄せた。

「せ……せんちょう…・?」

驚く●●●が、顔を上げる。
そのアゴをクイと持ち上げ、何か言葉を発する前に
噛み付くようなキスをした。

「……う!」

●●●は呻き声をあげながら、離れようと後ろに退く。
そうはさせるかと、おれは後頭部をしっかり押さえ、さらに深く口付ける。
暴れる●●●は胸に腕を突っ張らせ、慌てて顔を横に逸らせた。


「ななな、ちょっと船長ォ…っ!」

振り向く顔は、茹でダコだ。

「み、……みんなの前で、なんてことをっ///」
「しかたねーだろ?」
「し、…しかたない…って、なんでっ!」
「お前が…「今生の別れ…」みてーな顔で、俺らを見てるからよ、…別れのキスだ、」
「わ、別れのって!…冗談でも、縁起でもない事、言わないでください!!」

もう馬鹿っ!とか言って
●●●はゲンコツで、オレの胸をゴツンと叩く。
ああ、その意気だ!
オレは笑って「心配すんな」と頭を撫でた。

顔を上げれば野郎たちが、呆れた顔で俺を見ている。
オレは笑顔を真顔に変えて、野郎たちと向き合った。


「ほんじゃ、行くか!」

不安げに見送る●●●に手を振り、俺らはボートを海面に下ろす。

「船長もソウシ先生もハヤテも……気をつけて……」

そんな声に見送られ、俺たちはボートに飛び移ると、最終的な準備をした。




「いいかハヤテ! もしかしたら船ン中には、なんも残ってねーかもしれねえ……
けど、深追いだけはしてくれるな、」
「おう、」
「…‥あと、余計なモンには、触ってくれるな。……崩れるかも、しれねーしな。目に付いたモンがあれば、それだけ取ってくればイイ、」
「了解!」
「んじゃ、ソウシも頼んだぜ?」

俺たちは咥えたホースに空気が送られてくるのを確認してから、海底深く潜って行った。
目的の船に到着すると、船室目指して、さらに深く潜っていく。

上から差し込む日の光で、中は充分に明るいし、よく見える。

長く海水にあった内部は、ほとんどの木が腐りおち、ちょっと触れただけでボロボロと崩れる。
しかし、柱の部分や骨組みは、思った以上に、しっかりしていた。


よくもこんだけの船を20年も前に作ったもんだ。

家具も一部がしっかり残り
豪華な彫刻と凝った飾りが、これでもかと、施されている。

ホースで息継ぎしながら、ジェスチャーを交えて2人に指示した。

各部屋のクローゼットやドレッサー。
その周辺を探していけば、よほど慌てていたんだろう。
金貨や銀貨。宝石なんかが詰まる袋が、そのままの状態で、引き出しの中に転がっている。
それを適当にかき集め、次の部屋へと移っていく。

それから3人で、馬鹿でかい厨房に行ってみると、銀食器が、山のように転がっていた。
どうやら、ほとんどの食器が「銀食器」だったらしい。

…どんだけ金持ちを乗せてたんだ。

いい加減集めると、俺たちは早々に、海面へ出た。



「船長ぉーーー!」
「ソウシ先生ッッ!」
「ハヤテも無事か?」

甲板にトンッと足をつけば、野郎と●●●が、心配顔で駆けてくる。
タオルを受けて取り、顔を拭いた。

「思った以上に、しっかりした船だったぜ?」
「それに。3人ともケガが無くて良かったよ♪」
「つか、これ、見てみろよッ!」

ハヤテが、持ってきた袋を逆さにする。
ガラガラと、甲板の真ん中で、中のモノをぶちまけた。

「これは…っ!」

シンとナギが錆びた銀食器を手に取り、マジマジとそれを眺める。
トワは小袋に詰まる宝石を見て、感嘆の息を漏らしている。
そんな奴らを横目で眺め、オレの口にも笑みが浮かぶ。

…が。難破船のお宝は、何十年経ってようと、当時の奴らの想いが詰まっているようで
ほんの少し、胸が痛む。


「ナギ!…何でもイイ。酒を1本、持ってきてくれ」

あと数年であの船も……海の藻屑となるだろう。
それが自然の摂理ってヤツだ。
それでもオレは、ナギから酒を受け取ると、哀悼の意を込め、サラサラと海に流してやった。
そして全員で、黙祷を捧げた。



「シン。頼みがある」

それからオレは、昨日の島に船を向けさせ、シリウス号を沖に止めた。
そして、●●●と2人、ボートに乗り込み、2人で島に上陸した。






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