第12話






呑み始めて、数10分。
手元のボトルが、2本ほど空になった頃 ――


「おっ!…●●●…っ!」
「●●●さん、お帰りなさい♪」


ハヤテとトワが、波打ち際から駆けてきた。
つか…●●●、●●●…って。
コイツらにとってオレは眼中にねェ…ってことか?
(そりゃないぜ…)
ムッと眉を顰めていると、フフ…っという笑い声が耳に届いた。


「ソウシ…おまえ…」
「ほら!」

文句の1つでも言ってやろうかと思っていれば
ナギが、手元のタオルをひっつかんで、2人にヒョイッと、投げてやる。

「お!さんきゅ、ナギ兄!」
「ありがとうございます、ナギさん!」

2人はそれを素早く受け取り、敷布の上に胡坐を掻いた。

「トワ君にハヤテ……これ、どうぞ♪」

そこに、荷物の中から取り出したミネラルウォーターを、●●●が2人に渡してやる。
2人はそれを嬉しそうに受け取り、ゴクッゴクッと、飲み始めた。


「ハ、うんめーーー!」
「泳いだ後のお水は、さいこーですね★」
「……2人とも、そんなに遠くまで行ってたの?」

オレの隣に座り直して、●●●が2人に問いかける。

「おーー!まあな。つか、おまえも少しは泳いだのか?」

髪を拭くハヤテが何気なく聞いた問いかけに、●●●は気まずそうに、俺を見た。

「ん?どうしたよ?なんかあったのか?」
「うん、それが……泳いだには…泳いだんだけどぉ……」
「‥‥‥けど?」

2人がキョトンと、首を傾げる。

「船長、なんかあったんすか?」

その目が揃って、俺を見た。
途端、俺の口角がニヤッとあがった。


「おー、まあな…」
「…まあなって、なにがあったんだよ!」
「いやそれが。コイツが浜で、すげーモンを見つけよぉー…」
「?すげーモン?」
「そうなんですか、●●●さん」
「んー……凄いモノといえば…そうなんだけどぉ…」

あらかじめ●●●には口止めしといたから。
当然●●●は、モゴモゴと口ごもる。
そこに俺は、腰元にある骨を手にとり、さりげなくそれを膝に乗せた。

「その…すげーモンってのが、これなんだが」

もちろん奴らが見えた時点で、上からタオルを掛といた。
だから、コイツらに中身は見えてねェ。


「へェ〜〜〜メロンみてェ」

ハヤテが首にタオルを掛けて、ズイと近づく。

「近からず、遠からずだな…」

それを見て、シンの口角が吊りあがった。

「確かに、惜しいといえば、惜しいかもな、」

珍しくナギも、便乗する。

「うん。よく見るようで。あまり見ないモノかも、しれないね♪」

最後にソウシがそう言うと……2人は揃って振り向いた。


「見るようで、あんまり見ねェ?」
「メロンが惜しい、ですか?」
「近からず遠からず……って、全然わかんねーーし!」
「ていうか。これがなんなのか、皆さん、知ってるんですか?」

伺う2人に、揃って俺らは、首を大きく縦に振る。
●●●は口に手を充てて、必死で笑いをこらえている。


「ああああ!!もう、なんなんだよ!俺も知りてェーーー!」
「もう船長!意地悪しないで、見せてくださいよぉーーー!」

とうとう痺れを切らせたらしい2人が、ズイッと俺に詰め寄った。

「そんなに見たいか?」
「…っお……おう」

頷く2人に、おれは心中で、ほくそ笑む。
そして、いかにも渋々…って顔で、手招きした。

「そんなに見てェなら仕方がねえ。見せてやるからもっと近くに来い!」
「近くに?」
「えっと…これくらいですか?」

座したままの2人が、ズイっと近づく。

「もっと近くだ」
「へ?」
「そんなに?」

怪訝な顔を見合わせる2人が、じわりじわりと近づいてくる。
しまいには俺の正面で、揃って2人は正座した。
その距離はざっと、2メートル弱。
いわゆる、俺が手を伸ばせば、奴らの鼻先に届くか届かねぇかという距離だ。


「お前ら、よぉーーく見ておけよ?」
「……おうっ!」

背筋を伸ばす2人を眺めて、シンが口元で、くくっと笑う。
俺はヒクヒクと笑えてくる唇を、必死で噛む。
それからシンとナギ。ソウシの顔をぐるっと見回し、もったいぶるように腕を前に突き出した。

「んじゃお前ら……しっかり見ろよ?」

唾を呑む2人が、さらに顔を近づける。

その鼻先で…

バッッッとタオルをめくってやった。


「――― ?」

2人の目が、点になる。





「、うわああああああああーー!!!」

直後。…揃って後ろにひっくり返った。


「ぶっ!ぶははははっはは!!!」

そして、馬鹿デカい笑い声が、浜に響いた。



「おっ……お前らの顔、傑作だ!!」

腹を抱えて笑うオレ。
隣で●●●も、くすくす笑う。


「は?…はああああ?つか、なんだよそれえええ!!」
「ていうか、骨じゃないですかーーー!」

気まずそうに起きあがるコイツらが、面白い。
それを笑って、骨の頭に手を置いた。


「これを●●●が見つけたわけだ!」
「これを…って、マジかよっ!」
「●●●さん、ホントですか?」
「う……うん…。砂の中にあったの…」

●●●が、ちらりと手元の骨を見る。
すぐにシンが、胸の前で腕を組んだ。

「コイツもさっきまでビビリまくりで……ナギの腕にべったりだったが?」
「も、……それはっ///」
「ナギも、水着の●●●に抱きつかれて……まんざらでもない、顔をしてたな、」
「抱きつくって、ナギ兄…そうなのか?」
「……っるせー!」

挑発され、ナギの顔が赤くなる。
つか、またコイツら、喧嘩か?

「コラコラ2人とも…」

呆れる俺より先、ソウシが2人を窘めた。

「まったく、●●●ちゃんの事となると、すぐに喧嘩を始めるんだから…」
「……っ!」
「それより船長。…そろそろ2人に、説明をしてあげたらどうです?」
「おう、そうだな」

フン…と、そっぽを向くシンとナギを尻目に
俺は事の顛末と、骨を囲んで葬送の宴をしていた事を、ハヤテとトワに話した。
話し終えると、2人がホッと息をつく。

「なんだ。そういうことかよっ!…なら、盛大に呑んでやらねーとな!」
「言われてみると、この骨さん。なんだか嬉しそうですね♪」
「ん?」

トワに言われて、骨と顔を見合わせる。
言われてみりゃー…確かにコイツも楽しそうだ。
いい顔をしてやがる。
なんとなく、いい気分になってきて……手元のジョッキをひっつかんだ。


「…ってことで、…弔いの宴だッッ!…じゃんじゃん呑むぞぉーーー!」

おおおおおぉおおお!!!


こうして俺たちは骨を囲んで、奇妙な酒盛りを始めた。





やがて吹き抜ける風が、ほんの少し涼しくなり始めた頃。
日当たりがよく、海岸が一望できる木の根元に、厳かに骨を埋葬した。

「船長……っ!」

ソウシと取ってきた花束を、●●●が墓に手向けてやる。
俺はワインを手にとり、墓標にそれをかけてやった。


「……成仏しろよ」


それから全員で黙祷を捧げた。

そして気づけば、見上げた空も赤くなり
海岸におれ達は腰を下ろして、馬鹿みたいに、その夕日をみつめていた。


「さて、ゆっくりできたか?」

横を見れば野郎たちが、にこりと笑って俺を見ている。

「名残惜しいが…そろそろ行くか…」

さすがにここで、一晩を過ごすわけにはいかねェ。

 …ってことで。


「よぉーーし、野郎どもッ!…明日からまた、しっかり働けよぉー!」




こうして俺たちは、後ろ髪を引かれながらも、来た時と同じようにボートの乗り込み
遠くなる島を見つめながら、沖に泊まるシリウス号に戻ったのだった。
その日はシンも休ませることにして、出航は翌日としたのだった。






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