第11話






「おー…戻ったぞ、」

しばらく歩くと野郎の背中が見えてきた。
つかコイツら…
●●●が居ねえからって、ずっとここにいたのか?

戻る道すがら、沖へ泳いでいくハヤテとトワは見たばっかだから、もちろん居ねェ。
ここには、抜き差しならねェ野郎ばっかが、居るってことだ。


「1人でちゃんと、戻ってこれたみてーだな?」

声をかけると背中を向ける●●●の肩が、ヒクンと揺れた。


「船長…コイツ…」

そんな●●●にひっつかれ、頭の上に手を置くナギが、怪訝な顔で振り返る。
その反対で、ガキをあやすみてーに背中をさするソウシも。
その様子を、憮然とした表情で眺めるシンも、一同揃ってこっちを向いた。


「ね…せんちょう。…あ、…あれは?」

●●●はおれに問いながら、ナギの腕に、両手でぎゅ、としがみつく。
おーおー…そらみろ。んな事するから、ナギの顔が真っ赤じゃねーかよ。
ナギの腕に押し付けられた胸を見て、シンも奥歯を歯噛みする。

「船長、何があったんです? コイツ、死体を見つけただの、骨がどうだの……血相変えて走ってきてから、この調子で…」
「はは……死体を見つけたか。そりゃ傑作だ…」

「笑い事じゃないですよ」

おお、悪い…
苦虫を噛み潰すシンに笑って、どっこらせと、敷布の上に胡坐を掻いた。
それから、脇に抱えた骨を置いて、くるむシャツをスルッと解く。


「死体…つーか、これをアイツがみつけたんだが…」

シャツをめくると、「ひっ!」と●●●は目を剥いた。

「なな、なんでそれをっ!!」

しがみつく腕に力が籠もって、ナギの顔が、耳まで真っ赤になっていく。
苦笑いを浮かべるソウシがオレの方に近づいた。


「それは頭蓋骨ですね。…それも人の…」
「おーさっき干潮だったろ?あん時、干上がった砂ン中からアイツがコレを掘り出したんだが…」
「砂の中から?ふふ……それは相当ビックリしただろうに。…ね、●●●ちゃん」

●●●は両手をキツく巻きつけたまま、無言のままでコクコクうなずく。
ソウシは笑って、頭蓋骨を手に取った。


「へェ〜〜。ずいぶん綺麗な骨ですが……古い骨ですね」
「そうなのか?…てっきり新しいと、思っていたが…」
「いえ……劣化と骨密度からいって相当古い。…そうですね。10年。いや20年ほど前の、骨でしょうか」
「……そんなにか?」

さすがのおれも、驚きだ。

「ドクター、おれにも見せてもらえますか?」

今度はシンが骨を手に取り、ドクロと顔を見合わせた。


「ほぉー…これは女の骨。それも、若い女…」
「さすがシン。よく分かったね。恐らく年は●●●ちゃんの、3つ4つ、上だろう…」
「……そりゃ…若いな…」

そうなると年は…20代前半か。

「だから崩れる事なく残ったと云うか…埋まってた、場所と環境が良かったんでしょうけれど。……ここまで綺麗に残るというのは、さすがに稀というか…」

よほど珍しいのか、ソウシは困った顔で、首の後ろをさすって見せる。

「なら、朽ち果てたくない、強い怨念があったんだな」
「!!…おっ……怨念っ!!」


シンの言葉に、●●●がただならぬ反応を示した。

チラリと骨を横目で見遣り
ヒィー…っと、ナギの腕に顔を埋める。

「コラコラ、脅かさないんだよ、シン…」

ソウシの叱咤に、シンはククッっと笑い声を上げた。

「相変わらず単純なヤツだ。そんなモンで、骨が残るわけがないだろ。だったらこの世は骨だらけだ、」
「……う」
「ほらね、●●●ちゃん。怨念なんかじゃなく、埋まってた場所が良かっただけだから、安心して?」
「ドクターの言う通りだ。シンの言う事なんか気にすんな、」
「…ん、…でも…ナギさん…」

●●●は回した腕に力を込めて、ナギと顔を見合わせる。
見つめ合う2人の様子に、さすがの俺も声をかけた。

「なァー、そろそろここに来い」

オレは隣をトントン叩く。

「!!!…いっ……嫌です!」

しかし振り向きざま、骨を見た●●●は、即答した。
水着のまま、ナギにべったりひっつく●●●を見て、参ったなァと頭を掻くオレ。
シンの手から骨を受け取り、膝の上にそれを置いた。


「コイツが怖いか?」

聞けば●●●は、ブンブンと首を縦に振る。
その顔に、フッと笑う。

「けど、かわいそうだと思わねーか?」
「か……かわいそう?」
「ああそうだ。おまえと年端も変わらねー女が、砂ン中に埋まってたんだぜ?」
「……それは…」
「どんな事情か知らねーが。誰も居ねーこの島に、たった1人で埋まってたんだ…」

懇々と話すと、●●●の表情が少し変わった。
しがみつく手を、そっと離す。

「だから、一緒に埋めてやらねーか?」
「………え?」
「おまえと年が近いなんて聞きゃ…俺もツライ。そうだな。日の当たる…見晴らしのいい場所に、おれらで埋葬してやるってのはどうだ?」
「……せんちょう…」
「お前が見つけたのも、なんか縁があったんだろう。…だから、な?」

骨の頭を撫でてやると、●●●は一瞬、目を伏せる。
それから、すっと立ち上がった。

「そういうことなら…」
「おー。なら、ここに座れ」

●●●が怯えないよう、骨を左の腰元に置く。
右に座るよう隣を叩くと、促されるままに横に座った。
その肩に、シャツを羽織らせるのも忘れない。

「んじゃ…ハヤテとトワが戻ってくるまで。…コイツにも一杯、飲ませてやるか!」

ナギからグラスを受け取り、手元の酒を注いでやる。
それを、骨の前に置いてやった。

「ほんじゃ…おれらで乾杯するかッッ!」

何でこうなったのか、おれにもよく分かんねー。
けど。それでも俺らは骨を囲んで、賑やかな酒盛りを始めたのだった。







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