第11話
翌日からシリウスの一団は、ダンスの練習をすることとなった。
それは3日後に控えた戴冠式に是非参加して欲しいと
、エドワードに頼まれたから、なのだが。
経験豊富なリュウガとソウシ。ウルの王族であるシンは
たいして教わることなく、あっという間にダンスをマスターしてしまう。
それに対して。
意外にもナギはダンスとなると、手と足がなぜか一緒に出てしまうらしく。
もちろん、ハヤテとトワ。そして●●●の3人は、ダンスの経験など、まるでない。
ということで、4人はダンスの特訓をする事となった――
ナギと●●●。 ハヤテとトワ、というペアーになり、エドワードの指導のもと
ダンスの練習を始めたのだが――
「きゃっ!いたっ!…ナギさん、足、踏まないで下さい」
「わり。…つか。お前も俺に、ぶら下がってるだけじゃねえかよ」
「だって。……ひいっ…!ナギさん、またっ!」
「……わりぃ」
ナギと●●●は、手を取り合い、足を踏み合い、練習をする。
その近くでハヤテとトワの、奇声が飛び交う。
「ハヤテさん!そろそろ男役。代わって下さいよォーー!」
「うっせーなァ〜〜!もうちょっとで、覚えそうなんだよ」
「いっ!痛いですよ。……また足、踏みましたよ?」
「は?そうか?つか、少しぐらい我慢しろって!」
ぎゃあぎゃあと言い合う2人は、それでも必死で練習をする。
そんな4人を見て、リュウガをはじめ、他の3人は笑いながら。
(当の本人は必死なのだが…)
一日を通して、過酷なダンスの練習をした。
そして、日も西に傾き始めた頃。
不意にエドワードが、パンッと手を叩いた。
「さあ、今日はこの辺で終わろうか」
その言葉を合図にハヤテとトワが、グタッと床にへたり込む。
「はぁーー!やっと終わりかよぉーー…」
「ぼく、もう……くたくたです…」
ナギも床に胡坐を掻き。●●●も、ぺたんと座り込む。
振り返ったエドワードが、不意に●●●の名を呼ぶ。
「お前は残れ」
「へ?!」
「もう少し俺と練習だ」
「ええーっ!わたし、だけ?」
「そんな声を出すな。あと少しだ」
「う……」
肩を落とす●●●の顔を、エドワードは笑って見つめる。
そんな2人を部屋に残し、みんなは応接室に集まっていた。
※
「なァー…エドと2人っきりにして大丈夫かよ!」
ハヤテが、ぐたっとソファーに寄りかかって周りを見る。
「ぼく。…●●●さんを取られちゃいそうで、…心配です」
その隣で、トワがポツンと声を漏らす。
「お前ら正直でいいな?」
そんな2人を見て、リュウガも参ったなぁと頭を掻いた。
「船長。笑い事じゃないですよ。……●●●を見るアイツの目。あれは普通じゃないですよ」
「まぁ……それは俺も気づいてたんだが……」
「あの目にアイツが、気づいてんだか…」
まくし立てるシンの向こうで、ナギは、閉じたドアに視線を向けた。
「……なァ。…ちょっと覗きに行ってみねーか?」
そこにハヤテが、待ってましたとばかりに、立ち上がる。
行こうぜ、と1歩足を踏み出すと、すぐにソウシが窘めた。
「コラ。無粋な真似はやめなさい」
「けど、せんせい…」
「みんなも気にはなってるんだ。けど、覗きだなんて失礼な真似はやめなさい」
「んだよ。……ちぇっ…」
舌打ちをして、ハヤテはソファーに腰を下ろす。
しん、と部屋が静まり返った。
それから誰もが、覗きに行きたいという衝動に駆られながらも。
イライラしながら、待っていた。
*
しばらくして扉が開くと――
「はぁー。疲れました…」
疲れ果てた●●●が、応接室に戻ってきた。
ヨロヨロとソファーまでくると、倒れ込るように座り込む。
そして、両の靴をポンポンと脱ぐと。
「もぉーー、手も足もパンパンですよぉー!」
入って来たエドワードを気にすることなく、●●●は手足をブラブラ振る。
その姿に、想像していたような色っぽいことはなかったんだと、クルーは胸をなで下ろす、が。
そんな姿も愛おしい、と。そんな目で見つめるエドワードを見ると
心中穏やかではいられなかった。
そして翌日も、ダンスの練習をするシリウスの面々。
途中執務で、エドワードは席を外したが。
リュウガやソウシ、シン。そしてリチャードに指導をしてもらい。
なんとか4人も、見られるものになっていた。
そして、あっという間に2日が過ぎ。戴冠式を翌日に控えたその日の夜――
コンコンッ
「●●●……寝てしまったか?」
エドワードがドアを開けると部屋の明かりは消えていた。
月明かりで、青白く室内が照らされている。
天蓋つきのベットにも、人が居るような気配はない。
「どこへ…」
ふと、窓に目をやれば、カーテンが風になびいている。
足を踏み入れたエドワードは、部屋の中程で足を止めた。
そしてコクッと息を呑む。
そこにはバルコニーに佇む、華奢な背中があったから。
「ここにいたのか?」
「……!?」
一瞬迷って声をかけると、ビクッと肩を震わせた。
「……殿下?」
暗い室内から姿を現したエドワードに、少し驚いた表情をする。
その隣に、彼は並ぶように立った。
「どうした?眠れないのか?」
「ええ。なんだか緊張してしまって…」
そう言って顔を上げた●●●は、月明かりを浴び
ハッとする程に美しかった。
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