露天風呂 (ロイversion) | ナノ
第4話
「うわあ……」
その宿には沢山の種類のお風呂があって。
それが、あっちこっちと広い館内に点在している。
「ここはなんだろう?」
はやる気持ちで足を早め、ワクワクしながらドアを開けた。
「む」
しかしどのお風呂も、思いのほか混んでいるようで。
それは女性の航海士が少ないからだろうけれど。
客に対して幾らかお風呂が、小さく作られているようだった。
「ここも満員かァ〜」
暫く廊下をうろうろ歩いて、仕方がない。時間を置いて出直してこよう。
そう思ったその時だ。
廊下の突き当たり。さらに奥まったところから、湯気がフワリと漂ってくる。
「もしかしてッ!」
小走りで行って覗いてみれば、やはりお風呂で。
穴場とも思えるその周辺に、人影はない。
はやる気持ちでドアを開けると、脱衣所にも人影はなかった。
「ラッキー♪」
●●●は思った。
「分かりにくい場所だから…みんな気づかないのね♪」
クスリと笑ってドアを閉めると、急いで浴衣を脱ぎ始めた。
「ふわぁ〜〜〜素敵ッ!」
タオルを巻いて扉を開ければ、湯気で霞む、白い世界。
大きな露天風呂は山に囲まれ、まるでどこかの秘湯のようだ。
景色を見ながらゆっくり近づき、湯船にカラダを沈めた。
「は……気持ちい」
ぬるめのお湯と開放的な景色が、心地いい。
腕をぐ、と上に伸ばして、少しだけ足をバチャバチャさせる。
「こんなこと、船のお風呂じゃできないもんね♪」
ネコ足のお風呂を思い出して、ついクスッと笑ってしまう。
このまま泳いでしまおうか。
そんな考えが頭をよぎって、さらに足をバチャバチャさせた。
「あ」
その時ふと岩の向こうに、人の影が見えた気がした。
湯気のせいでよく見えないけれど、こちらを向くのがなんとなく分かる。
「他に人がいたんだ」
巻いたタオルをぎゅっと握って、その人物に近づいた。
「あの……迷惑かけてごめんなさい、気づかなくて……」
湯船に腰を沈めたまま、ゆっくりそちらに近づく。
お湯が大きく波紋を刻んで、相手もこちらに来ているようだ。
「本当にごめんなさい、」
叱られるかもしれない。
おどおどしながら近づくと、湯気で霞む向こう側にその人物の顔が見えた。
「へ?」
瞬間脳内が白くなった。
目をパチクリさせる●●●の前には、黒髪を濡らす、見慣れた人物がそこにいたから。
「おやおや?こんな所で会えるとは」
「ろ…っ!」
「…ろ?オイ大丈夫か?」
「きゃぁぁぁぁぁーー!!!」
そう。
湯気の中から現れたのは、ハダカのロイで。
伸びてきた手をバチッと払って、咄嗟にうしろに後ずさる。
「おいおい、オレと会えて嬉しいからって、そんな大声出すんじゃねーよ、」
しかしロイもカラダを湯船に沈めたまま、どんどんこっちに近づいてくる。
●●●はタオルをぎゅーっと掴んで、さらにゆっくりと後ずさった。
「ていうか、……な、何でロイ船長がここに?!」
「何で?…そりゃー…風呂に入りにきたに決まってるだろ」
「は?」
「俺は優しい船長だからな。クルーの労をねぎらってだなア〜〜って、リュウガもここに来てるのか?」
喋りがらも、ロイはどんどん近づいてくる。
後ずさる背中に、トンと岩がぶつかった。
「ひっ!」
途端、鼻やら額やら背中やらに冷や汗が伝う。
…と、2メートルほど手前で、ロイの動きが突然止まった。
「?!」
彼は怪訝そうに眉根を寄せる。
「にしても、いくら俺に惚れてるからって、男湯まで追いかけてくるとは。……お前もけっこう、大胆だな?」
「へ?」
マヌケな声が出た。
次いで頭がパニックになる。
「おとこ、湯?」
慌てて周りを見回すけれど、山がそこにあるだけで、男湯とも女湯とも、区別が付かない。
「あのっ、女湯じゃないんですか?」
「俺が入ってるんだぞ?男湯に決まってるだろ!」
言ってロイが、ジャバァァーといきなり立ち上がった。
「?!」
瞬間●●●の目が、ある1点で止まった。
そこにはタオルがピタリと張り付き、アレの形がハッキリ透けて見えている。
「…や!もう、やだっ///」
かーーっと顔が熱くなって、しかしロイは、構わずこちらに歩いてくる。
どこを見てイイか分からない。
「おいコラ、なにソッポを向いてんだ?」
「そ、それはっ!」
「そんな事より、こんなトコに居るんじゃねーよ。お前のそのぉ〜、あられもない姿をだなぁ〜他の野郎に――」
ロイの顔をチラリと見れば、両手で抱える胸の谷間を、彼はチラチラ見ている。
「も…!やだ!」
「そんなの許さぁぁぁぁーーん!」
「?!……う、わ!」
ほら、出ろッッッ!
そう叫んだかと思うと、ロイは腕をぐ、と掴んで、そのまま上に引っ張り上げた。
ジャバァァァァァ・・・・
「え?」
立ち上がった向かいには、ロイの濡れた胸板と。
カラダに貼りつく、白いタオル。
「……やだ、ちょっと待って!///」
ザブブンンンッッッ!
●●●は慌てて湯船の中にカラダを沈めた。
「ん?」
その時不意に振り返って、湯気の向こうをロイが見る。
つられて●●●も、そちらを向いた。
よくよく見れば湯気の向こうに、大きな影が見えている。
「やだ、ひとが…っ!」
露天風呂の1番奥。ここから距離はいくらかあるが
それが大きな背中であることは、遠目で見ても一目瞭然。
「ロイ船長、どうしましょう……」
間違いなく男の人だ――
きゅ、とタオルを握り絞めて、ロイの顔をおどおど見る。
「ふむ、そうだな。お前はここで待ってろ。オレがアイツに後ろを向いてるよう、言ってきてやる、」
その間に出るんだぞ?
ロイは踵を返すと、ジャブジャブと湯気の向こうに消えていく。
大丈夫かなァ…
●●●はその背中を心配そうに見つめた。
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