露天風呂 (ロイversion) | ナノ
第5話
「そこのヤツ!」
歩きながら声をかけるが、湯気の向こうに見える男は、返事もしなけりゃ、向きもしない。
「お前耳が遠いのか?」
しょうがねえなァ、と右手で頭をポリポリ掻いて、さらに男に近づく。
若干気温が下がったのか、湯気は益々濃くなるばかり。
「オイ、お前…っ!」
それでもようやく背後まで来て、男の肩に手をかけた。
「貴様、俺さまの声が――」
言って3秒。
ヒュゥゥゥと冷たい風が吹く。
そのままゆっくり視線を落とせば、手を置く肩はやけにイカツく。
そして毛深い。
「……狽゙っ!!」
息を呑むロイの額を、ツー…と汗が流ていく。
後ずされば、ポチャンと顎から滴り落ちた。
「ま、ま、まさかお前ッッ!」
ロイが叫ぶのとほぼ同時に、ゆっくり影が振り返り。
『ひいっ…!』と息を呑むロイの顔から、サァァァー…と血の気が引いて行った。
「ぎやぁぁぁぁぁぁぁ――!!!」
直後、脱兎のごとく走ってくるロイ。
きょとんとする●●●のカラダに両手でもってしがみつく。
「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―…!!!」
今度は●●●の叫び声が、静かな山にこだました。
「ちょっと、なにして…っ?!」
「た、た、た、」
「た?……た、がどうしたんです?」
とにかくロイを引き剥がそうと、肩を掴んで押しかえす。
しかしロイは顔を埋めて、口をパクパクさせるだけ。
「ちょっと、何があったんです?」
「そ、それがだなァー…」
その時ロイの左手が、柔らかい何かを掴んだ。
ためしにきゅい、きゅい、と動かしてみる。
「?!」
「お前、けっこう胸、デケエんだな?」
みるみるうちに●●●の顔が、真っ赤になった。
「ちょっとどこ触ってるんですかぁぁぁーー!!」
「ん?もうちょっと♪…ふむ。なーんて言ってる場合じゃ、ねぇぇぇーー…!!」
バチャバチャと暴れまくる2人の視界の向こう側で。
さっきの影が立ち上がる。
そのままこちらに向かって、ゆっくり歩みを進めてくる。
(もう、なんなの?)
しがみつくロイの肩越しに、じ、とそれを見ていれば。
ロイが震える手で指差した。
「大変だ、●●●ッッ!アイツはクマだぁぁぁぁーー!!」
「へ?」
ロイがそう叫ぶのと同時に、ひときわ強く吹いた風が、一気に湯気をさらって行く。
その向こうに見えたのは
それはそれは巨大なヒグマ。
「…?!…匕ィッ!、ムグッ!」
悲鳴をあげる●●●の口を、咄嗟にロイが手で塞ぐ。
「バ……バカッ!!」
ぎょっと目を剥く●●●の額を、ツー…と汗が流れて行った。
「いいか。声を出すんじゃねえぞ?」
耳元でひそひそ話され、涙目の●●●がコクコク頷く。
それを見届けて、ロイはゆっくりと手を離した。
そして2人は鼻まで顔をお湯に沈めて
その場でジッと固まった。
☆☆
← →
[戻る]