福寿草 | ナノ
第4話
「うわ!素敵!!」
着いた街はクリスマスカラーも鮮やかな、イルミネーションの輝く街。
昨日も来たけど、それは昼間で
日暮れの今とは、まったく違う。
すれ違うカップル達も、手を繋いだり、腕を組んだり、愛を囁き合ったり。
聖夜の夜は賑やかなのに、どこか温かい空気が街全体を覆っていた。
「……ね!船長、見てっ!」
「?………お、わっ!」
ぐいっと引かれた左手。
2人で覗いたショウウィンドウには、足を組んで椅子に座るトナカイが、口に酒ビンを咥える置物。
それを見て、クスクス笑う横顔を、リュウガは横目で盗み見た。
正直SAKURAはスゲエ女だと思う。
それこそ……去年の今頃。
彼女と出逢う前の海賊生活に、不満など無かった。
陽気に笑って、うまい酒呑んで、大海原を突き進む。
これ以上に楽しいことなんて、この世の中に無いと思った。
なのにこの少女は、ふらりと目の前に現れて
船を、仲間を、もちろん自分を。
思う存分に掻き乱してくれるのだから、本当に。
「アレが欲しいのか?」
「ん、そうじゃないけど。……船長に似てると思わない?」
急に振り返って笑うから、ドキッとした。
ほら、な?
こんな所作1つで、どうしようもなく、くすぐったい気分にさせられるのだから…我ながら呆れる。
去年までの自分が、ショウウィンドウを覗くなんてこと……無かったのにな。
「――オレはあんな痩せっぽっちじゃねーぞ?」
「ん、そうだけど。……やっぱり似てる♪」
肩をすくめて、クスッと彼女が笑うから
つられてリュウガも、笑う。
そのまま跳ねるようにして歩き出す背中に、今度は口元だけで笑った。
「さ……急ぐか?」
「……うん」
繋いだ手をそっと離して華奢な肩を抱き寄せる。
足を早める2人の頭上に、ヒラリと雪が舞い降りた。
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