福寿草 | ナノ
第5話 







「え……ここなの?」

目の前には、海賊が集まるには似つかわしくない、立派な建物。

いや、…世界中の海賊が、互いに資金を出し合って建てたと聞くから、納得もできない事は無い。

立ち尽くす背中に手が添えられ、2人は中に入って行った。




「うわ…!」

入り口でコート預け、通された館内。
思わずSAKURAは目を瞠(みは)った。

床には真っ赤な絨毯。

周りは高級そうな調度品の数々。

ゆったりした生バンドの演奏までもが、部屋の奥から聞こえてくる。

煌びやかな通路をキョロキョロしながら少し歩くと、あちらこちらで海賊船の船長であろう男たちが、グラス片手に談笑するのが見えてくる。

彼らはリュウガに気づくと、軽く帽子を取って会釈をする。
リュウガも帽子を持ち上げ、挨拶を返す。
その都度SAKURAも会釈をした。


だけど――


「おい、」

いつの間にか俯いて歩くSAKURAに気づいて、リュウガはそこで足を止めた。

「どうした?気分でも悪いか?」

向かいに立って顔を覗けば、SAKURAは首を横に振る。
それから、すう、と息を吸った。

「…ねえ。……ホントにわたしで良かったの?……ホントは来なかった方が、良かったんじゃない?」

そう言って遠慮がちに周りを見る。
リュウガもカラダを起こして、周りを伺う。
そして、ぶっと吹き出した。

「ははーん。女どもの視線か?」
「………」

言い当てられて、コクンと頷く。

「だってみんな船長のこと……見てるし…」

2人で見つめる視線の先には、同伴の男性そっちのけで、リュウガに色目を使う、女たち。

ウインクをしたり、軽く唇を突き出して見せたり、際どいスカートをヒラリと捲って見せたり。
そんな彼女たちに隣に立つ自分の姿など、全く見えていないのだろう。

なんか惨めだ――

また俯けばリュウガは耳に唇を寄せ、声を潜めた。


「俺はどっちかつーと、…野郎の視線が気になるが?」
「……ん?」
「アイツらお前のハダカを想像してんだぜ?…気づかなかったか?」
「……っ、買nダッ///」

弾かれたように顔をあげれば、なんとなく胸やお尻に視線を感じる気がする。
慌てて胸元を直す姿に、リュウガはククッと笑った。

「アイツらみんなお前を口説こうと…狙ってやがる」
「………でも…」
「同伴者が居るのにか?…けど、ここはそういう処だ。…女もそれは承知の上だ」
「……え」

信じられない。
だってあんなにもピタリと寄り添ってるのに…

「それに女も同じだ、」
「?…どういうこと?」
「あの女どもは……娼館か酒場の女だ。
奴らは、船長という肩書きと金に惹かれて、野郎の隣に居るだけだ。
それ以上の金持ちが見つかりぁー…手のひら返してついてくだろうな?」

「そうなの?」

更に驚く顔でキョロキョロ周りを伺う姿に、リュウガはふっと笑みを漏らした。
…が、すぐに唇を引き結び、少し前のめりになる。

「お前は……」

「ん?」

向き直れば真剣な目が、自分を見ている。
言葉が途切れて周りの音が、聞こえなくなった気がした。


「……わたしが……なに?」

沈黙を破って聞き返した、その時。


「おっ!あそこにいるのはリュウガじゃないか!」


聞き覚えのある声が

リュウガの背後から聞こえた。







 
   


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