亡霊が思うには


 細胞レベルのテレパシー

黒乃様リクエスト
・仲吉×準一前提双子×準一
・幸喜視点/ほのぼの/本編裏


 双子は同じとき同じことを考えるらしい。細胞レベルの共鳴ってやつ?
 よく知らないけど、なんかどっかの誰かが言ってた気がする。そんで今、ああ、なるほどなあって納得した。

 楽しそうにナカヨシだかナカムラだかの話をする準一と、無言でその話を聞き流している藤也。
 その顔はいつも以上にぶすくれてて『まじこいつうぜー』みたいな顔をしている。
 なんでわかるかって?だって俺、藤也と細胞レベルで繋がってるもん。準一は気付いていないみたいだけどね。鈍感だし。

「でさ、仲吉が……」
「準一ってさ、もしかして仲吉しか友達いねえの?」

 あまりにも藤也が可哀想だったからなんとなく準一の言葉を遮って尋ねてみれば準一は「は?」と眉を寄せた。さっきまでとは打って変わって怖い顔。ほんとわかりやすい。

「なんかさっきからずっと仲吉の名前しか出て来てねえし?つーかそれさっきも聞いたから」
「まじで?」

「まじ」と唇を動かし答えれば、なんとなくばつが悪そうな、気恥ずかしそうな顔をした準一はしゅんとし「悪い」と項垂れる。
 怖い顔をしてるくせにこういう無駄に素直なところとか可愛いんだよなー。虐めたくなる。なんて思いながら俺はにこっと頬を緩めた。

「ゆるさなーい。罰に仲吉の名前出すの禁止ね」
「なんだよそれ」
「なんででも」

「だって準一、仲吉仲吉うぜえんだもん」そう笑いながら続ければなにか言いたそうな顔をした準一は結局なにも言えず、むっと臍を曲げる。そして、もう一人。

「……」

 準一以上に臍をひん曲げた藤也は無言でこちらを睨む。
 こいつの場合準一みたいな迫力ねえしただ可愛いだけなんだよなとか思いながら手を振ってみれば藤也はなにも言わずにそっぽ向いた。ありゃ、怒ってる。


 どれくらい経っただろうか。
 ただでさえ仲吉仲吉煩かった準一の前に仲吉がやってくるようになって準一の仲吉好き好き病は悪化した。
 本人は否定するがありゃどうみても恋する乙女そのものだ。
 準一が仲吉と一緒にいる時間が長くなり、藤也の機嫌は益々悪くなっていく。だってほら、俺に似てあんなにかわいかった顔が今すぐ人でも殺しそうな目をしてるし。
 応接室。奈都も花鶏さんも準一とそのペットもいなくなって久し振りに藤也と二人きりになったというのに相変わらず藤也は話さない。つまんない。まあ俺が話すからいいんだけど。

「あーあ、準一うぜえ。最近仲吉ばっかじゃん」
「あんたもさっきから準一さん準一さんばっか言ってるけど」
「うん、だって準一好きだもん」

 そうなんでもないように答えれば藤也はぶっきらぼうに「あっそ」と吐き捨てた。
 語気が強い。まだ臍曲げてんのかよ。笑いながら俺は窓際に立つ藤也の側に歩み寄った。

「藤也も準一が仲吉の名前呼ぶ度うっぜーとか思ってたっしょ」
「一緒にしないでくれる?……別に思ってないし」
「知ってる?お前ってさ、イラついたら左目が細くなんの。ピクピクッて」

 わざと向かい合うように立って藤也の顔を覗き込み、「ほら、またなった」と笑えば僅かに藤也の目が細められる。汚物かなにかでも見るような冷めた目。

「あんたのせいじゃん」

 小さく舌打ちをした藤也はそのままそっぽ向くように窓の外へと目を向ける。そして、藤也の動きが止まった。

「……」

 じっと窓の外から下を見下ろす藤也が気になった俺はつられるように窓から顔を出し、そして見えた光景に『ああ、なるほど』と笑った。

 窓の外。屋敷の外では準一と仲吉が楽しそうに笑っていた。屋敷を案内してる途中なのだろう。いつもしょんぼりしてるか怒ってるかの準一が楽しそうに笑っている。
 ちらりと隣の藤也に目を向ければ、藤也の涙袋がぴくりと動き目が細められた。
 やっぱり双子だなぁ。なんて思いながら「お兄ちゃんがなでなでしてやろうか」と笑いながら手を伸ばせば「うっさい」と眉を寄せた藤也は俺の手を振り払う。こういうところは可愛くない。

 おしまい

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