亡霊が思うには


 ヘタレ男の受難

れんげ様リクエスト
・ヘタレ南波×どじっこ準一
・甘甘(のつもり)/ほのぼの


 花鶏に世話をしてほしいと首輪に繋がれた南波を押し付けられてから数日。
 なんで俺がこんな特殊プレイな真似をしなければならないのか未だ全くもって理解出来なかったが仕方なくリードを握った。
 握ってみたはいいが、正直南波と仲がいいわけでもなく寧ろ嫌われている俺は南波とどうスキンシップを図ったらいいのかわからず基本放置プレイ状態になり、普段部屋にいる俺の側で南波がじっとしてるのが大体だった。
 つまらないだろうなぁ、毎日。なにも言わないが、そわそわと落ち着かない様子の南波を眺めていればそう思っているのは一目瞭然だ。
 生憎俺の部屋には南波の退屈しのぎになりそうなものはないし、お喋りの相手はなんとか出来そうだが南波が辛いだろう。
 なにか南波にしてやれないだろうか。そう思案した俺は、さっそく南波を連れて部屋を後にすることにした。


 屋敷内、物置部屋。甲冑やらよくわからない壺やら置物やらが中心にごった返したそこにやってきた俺は南波の暇潰しになりそうなもの探す。
 しかし出てくるのは怪しい仮面やら骨董品など用途がいまいちわからないというかわかりたくないようなものばかりで、目的のものは現れない。

「あの、準一さん。……なにやってるんすか?」

 ガタガタと積まれた箱の中身を覗いていると、恐る恐る背後の南波が声を掛けてくる。

「や、なんか暇潰しになりそうなものないかなって思って……南波さんも毎日暇でしょう、まともに動けないですし」

 そう南波に背中を向けたまま答えれば南波は「俺ですか?」と意外そうに声を上げる。
 そして「俺は……その……」となにか言いたげに口ごもる南波。
 歯切れの悪い南波にもしかして余計なお世話だったかな、なんて思いながら背の高い箪笥の上に置いてあった箱に手を伸ばす。すると、がたりと音を立て箱の上にあった骨董品が揺れた。

「うお」

 やべえ、落ちる。なんて箱からこちらの頭上めがけて降ってくるその誇り被った置物に内心冷や汗を滲ませたときだった。

「っ、準一さんッ!」

 すぐ側で慌てたような南波の声がして、次の瞬間、伸びてきた筋肉質な腕に上半身を抱き寄せられた。そして、目の前を通り過ぎていく骨董品はガシャンと派手な音を立てそのまま床の上に四散する。
 どうやら間一髪助かったようだ。いや骨董品が壊れてしまった今助かったも糞もないのだが、生前の観念が抜けきれていない俺にとってクリーンヒットから免れただけでもよかった方だった。全然よくないが。

「大丈夫ですか、準一さんっ!お、お怪我は……っ」

 そして、すぐ背後から聞こえてくる聞き慣れたその声にようやく俺は自分の状況を整理する。
 上半身を抱き締め、骨董品から庇ってくれた南波は顔を青くして尋ねてきた。
 密着した上半身。しかも、かなり近い。

「いや俺は大丈夫だけど、あの、南波さん……」

 寧ろお前が大丈夫なのか、こんなに俺に近付いて。
 そう恐る恐る反応を伺えれば南波は「え?」と目を丸くし、改めて自分の体勢に気付いたようだ。
 そのまま硬直する南波。
 しかし、いつもなら指先触れただけで出血する南波がここまで大人しいのも珍しい。もしかして本当に慣れたのだろうか。

「血、出てませんね」
「……」
「……南波さん?」

 思いながら抱き締めたまま動かない南波の腕を撫で、皮膚に異変がないのを確かめていた矢先のことだった。
 ぶしゅっ。そんな気の抜けた音を立て、南波の鼻から血が溢れた。って鼻かよ。

「な、南波さんっ?!えっ?これ時差もあるんですか!南波さん!目を覚ましてくださいっ!南波さん!ごめんなさい南波さん……っ!」


「だ、誰ですか私のこれくしょんを粉砕した輩は……っ!」
(忘れてた……!!)

 おしまい

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