亡霊が思うには


 浴衣は飾るためのものではなく脱がすためのものです※

匿名様リクエスト
・花鶏×準一
・浴衣/乳首責め/指フェラ


「浴衣ですか?」

 某日。やることもなく自室で寛いでいたときだった。
 ごろごろとだらけていた俺はやってきた訪問者に応えるよう、ゆっくりと立ち上がる。そんな俺の目の前、訪問者もとい花鶏はにこりと微笑んで見せた。

「ええ、箪笥を整理してたら出てきたんです。ほら」

 そう言いながら綺麗に畳まれた黒地の浴衣を差し出してくる花鶏に内心戸惑いつつ、それを受けとる。ご丁寧に濃紺の帯付きだ。やけに渋いチョイスである。

「……なんで俺に?」
「いえ、幸喜や藤也たちには合いませんし、奈都君と南波には断られてしまったので。……どうですか?」

「準一さんなら似合いそうなんですがね、黒地」そして、疑問符を浮かべる俺に対しそう何気ない調子で続ける花鶏。
 まあ、確かに派手な柄ものよりかは地味で落ち着いた色合いの方が好きだが、やはりこう素直に貰っていいものかと戸惑わずにはいられない。

「いや、気持ちは有り難いんですが、どうやって着ればいいのかわからないし……」
「ああ、それなら私が着付けをさせていただきますよ」
「花鶏さんが?」
「ええ」

 気にしていた問題もあっさり解決してしまった。確かに常時和装の花鶏ならば簡単なのだろうが、なんだろうか。俺の第六感が気を付けろと警告してくる。

「では、失礼します」

 そんな俺に構わず、そう告げた花鶏は言いながら俺の服の裾の中へするりと手を這わせる。
 そのまま持ち上げるように脱がされそうになり、「待った」とか「たんま」とかなんか言いながら俺は慌てて服の裾を押さえた。

「あ、あの……ここでですか」
「大丈夫ですよ、どうせ他の方々は遊び回ってるでしょうし」
「まあ、そうですけど、なんで脱がせるんですか」

 浴衣なら上から羽織ればいいだろう。
 ここに来て色々あったせいか、つい勘繰ってしまう俺に対し花鶏は「おや」と目を丸くし、まるで心外だと言わんばかりに肩を竦めてみせた。

「今日は一段と蒸し暑いですからね、少しでも涼んだ方がいいかと思いまして」
「それなら自分で脱ぎますから」
「遠慮しなくてもいいですのに」

 なにからなにまで花鶏に任せていたらとんでもないことになり兼ねないだろ。
 そう言いたいのを堪え、花鶏に背中を向けた俺はそのまま着ていたTシャツを脱いだ。それを床の上に放る。
 浴衣といったら、やはり下も脱ぐべきなのだろうか。正直花鶏の目の前でストリップショーなんてしたくないが、いくら中性的な容姿をしてようが花鶏は同性だ。意識する方が甚だ可笑しい。そう言い聞かせ、ウエストを弛めた俺はそのままズボンを脱ぎ捨てる。

「これって下着一枚でもいいんすよね」
「ええ、構いませんよ」

 下着一枚になり、気持ち薄ら寒くなる。
 俺が用意を終えたのを見て「では失礼します」と小さく頭を下げた花鶏はそのまま俺の真っ正面に立ち、その背中に浴衣を羽織らせてきた。
 袖に腕を通されたりと、せっせと着付けてくれる花鶏にされるがままになる。

 目の前。あまり変わりない背丈のせいか心なしか顔が近いがまあ仕方ないのだろう。
 衣擦れする音を聞きながら、俺は花鶏の額を見詰めた。
 やっぱり、他人にここまで接近されると緊張する。なんか気まずいな、なんて思いながら気晴らしに視線を泳がせたときだった。
 ふと、懐かしい薫りが鼻腔を掠める。

「……花鶏さんって」
「なんですか?」
「なんか婆ちゃんちの匂いがしますね」
「準一さんのお婆様ですか。これはまた不思議な例えですね」
「畳みとか、お香の匂いがなんか懐かしいっていうか」
「ああ、なるほど。そういう意味ですか。もっと寄って嗅いでいただいても結構ですよ」
「遠慮しときます」
「準一さんもなかなか身持ちが堅い方ですね」
「花鶏さんが軟派なだけじゃないんですか」
「おや、言いますねえ」

 沈黙を紛らすようにそんな下らない会話を交えたときだった。
 細い帯が腰を一周し、そのままぎゅっと締め付けられる。そして、仕上げにぽんぽんと軽く浴衣を叩かれた。

「はい、出来ましたよ」
「おおお……」

 ちゃんとした浴衣なんて何年振りだろうか。
 旅館で借りたものなどは着たことはあったが甚平派な俺からしてみたらこの感触はかなり久し振りなような気がする。そして、テンションが上がる同時に窮屈なことに気がついた。

「……なんか前キツくないですか?」
「おや、サイズが合いませんでしたか?でしたらもう少し前を開けたらいかがでしょうか」
「ああ、なるほど」

 そう言えばいつもゆとりがある着方をしていたからだろう。締め付けられる上半身に違和感を覚え、言われた通り俺は襟を開き胸元を弛めさせた。
 すると、あら不思議。先程までの突っ掛かるような違和感はなくなる。

「ああ、これなら丁度いいっすね」
「ええ、よくお似合いです。本当に」
「そんな褒めてもなんにも出ませんよ」


 面と面向かって花鶏に褒められ、照れ臭くなる。
 口が上手い花鶏のことだ。どうせお世辞だろうとはわかっていたがやはり気分はいい。
 なんとなく目のやり場に困り、目の前の花鶏から視線を離したときだった。不意に、花鶏の白い手が伸びてくる。

「って、ちょ、ちょ、ちょ……っ」

 いきなり襟を掴まれたと思ったら、そのまま唇を寄せられる。目の前には花鶏の目元が映り、唇には柔らかい感触が触れた。あまりにも突拍子のない花鶏の行動に一瞬反応に遅れる。

「ぅ、んん……ッ」

 貪るように唇を塞がれ、小さな呻き声が漏れる。遠目に見たときから思っていたがやっぱり睫毛長い。
 なんて呑気なことを考えてる余裕なんかなくて、咄嗟に花鶏の肩を掴んだ俺は強引に花鶏を剥がした。

「っ、花鶏さん」
「いかがなさいましたか、準一さん」
「……なにするんですか、いきなり」

 戸惑いを隠すことが出来ず、狼狽える俺は相変わらず悪びれた様子もない花鶏を睨んだ。
 まだ、柔らかい唇の感触が残っている。堪らず唇を手の甲で拭えば、花鶏はくすくすと笑い、舌なめずりをした。

「なに、ただ目の前に愛らしい方がいたので接吻をしただけですよ。なにか問題でもありましたか?」

 大有りだ。というかなんでこんなに開き直っているんだこの人は。
 いつもと変わらない笑顔を浮かべ、サラリと何気ない調子で続ける花鶏に俺は内心冷や汗を滲ませる。

「そういうの、セクハラって言うんですよ」

 そんな花鶏の態度がなんとなく気になって負けじとそう言い返せば、花鶏は「ワタシニポンゴワカリマセーン」とわざとらしく肩を竦め外国人のような動作をしてみせた。黒髪黒目の和装男がなにか言っている。

「しかし……やはりこちらの方が脱がしやすくて都合が良いですね」

 そして、下手な真似を止めた花鶏は言いながら掴んでいた襟の下へ手を這わせ、そのまま胸元をはだけさせるように撫でられる。
 下はもちろんなにも着ていない。胸板をなぞる細くしなやかな指先の感触にぞくりと背筋に悪寒が走り、耐えられず俺は花鶏の手首を掴んだ。目が合って、花鶏は微笑む。

「はだけた浴衣がよくお似合いです」
「なに言って……っ」

 浴衣の下をまさぐる花鶏の手を離そうとするが、離れない。
 それどころか愛しそうに胸筋を撫でるその指先は乳首の先端に掠り、小さく顔をしかめる俺の反応を楽しむかのようにそのまま乳輪をなぞる。
 突起に触れないよう円を描き、その輪郭を指の腹で柔らかく擦られれば寒気にも似た嫌なものに全身が震えた。

「ぁ、とりさ……っ、ほんと、怒りますよ……ッ」
「ええ、どうぞお好きに」

「乱れた準一さんに叱られるのもまた一興」興奮しますね、と笑う花鶏は空いた手で逃げようとする俺の着物の襟を引っ張り、掴まえる。
 ぐっと引っ張られ、大きく開かれた襟元から露にされた上半身にぎょっと目を丸くした俺は慌てて襟を掴み、浴衣を直そうとした。
 それに気を取られたのが不味かったようだ。
 そのままもう片方の突起に触れられ、顔を青くした俺は片手で襟を掴みながらもう片方の手で花鶏の腕を掴む。

「この、オッサン……ッ」
「おや……傷付くじゃないですか。まだ『お兄さん』ですよ、準一さん」

 気にしてるのか、一応。
 どうやら俺の言葉が気に入らなかったらしい花鶏は浮かべた笑みを僅かに引きつらせ、そして、ぐりっと両胸の突起を潰し、陥没させたそこを爪で引っ掻き、摘ままれ、引っ張られる。痛みは感じない。

「ッふ、ぅ……っんんぅ……ッ」

 疼くようなくすぐったさに身動ぎさせ、伸びる花鶏の指先から逃げようとするが、気付いたら壁際まで追い込まれていたようだ。背中が壁にぶつかり、動けなくなる。
 おもちゃのように弄られ、芯を持ち始める乳首をそれでも執拗に指で擦るように柔らかく揉まれ、言い表しがたいその違和感からそれでも逃げようと壁に背中を擦り付けた。
 もちろん逃げられるはずがなく、目の前真っ正面に立つ花鶏に詰められるばかりで。
 近付く花鶏の肩を押し退けようとするが、儘ならない。

「ああ、堪りませんねぇ。その目、ゾクゾクします」

 こちらを覗き込み、そう愉快そうに笑う花鶏。
 ああ、くそ、最悪だ。花鶏がただの善意でプレゼントなんて寄越すわけがなかったんだ。最悪だ。
 狼狽え、それでも必死に胸をいじる花鶏の手を離そうとするが、無理だ。

「ああ、少し触っただけでこんなに腫らして。はしたないですよ、準一さん」
「っ、やめ……っ」

 鼓膜から浸透する甘い声が、まるで悪い呪文のようにドロドロと脳を侵す。
 いつもと変わらないしっとりとしたその静かな声音が今はただ厄介で堪らない。
 笑う花鶏と指責めに耐えられず咄嗟に手首に力を入れたとき、突起を摘まんでいたぎゅっと指先に力が込もりその圧迫感に思わず俺は「ひッ」と息を飲む。

「ふ、っ……んん……ッ」
「おや、また硬くなりました」

 コリコリとほぐすように揉まれる両胸の突起はほぐれるどころか硬度を増し、敏感になったそこからは花鶏の指の動き一つ一つ鮮明に感じてしまう。
 好き勝手まさぐられ、みっともないくらい乱れた浴衣の襟から覗く人の胸元に目を向けては薄く笑う花鶏に、顔が熱くなるのがわかった。
 不本意だとわかってても、こんな情けない自分を見られるのはかなり屈辱的で、酷く情けない。
 なんとかして振り払おうと、隠そうとするが花鶏はそれを許さない。
 それどころか、ツンと勃起した乳首を引っ張り、弄られ過ぎて腫れたそこを執拗に責め、人を酷く惨めな気持ちにさせてくる。

「どうやら準一さんは随分胸が気に入っているようですね。そんなに仰け反らさずとも好きなだけ弄ってあげますよ」

 僅かに頬を紅く染め、うっとりと目を細める花鶏に勃起した突起を指で跳ねられ、そのぴりっとした小さな刺激に肩を緊張させた俺はその言葉に全身から血の気が引くのを感じた。頭がおかしくなりそうだ。
 指先で捏ねられる度にどろどろに蕩けそうになった脳髄が痺れ、緊張した全身が震え、まともに立っていられなくなりそうになる。花鶏の腕を離そうとしていたはずなのに、気付いたら俺は花鶏にしがみついていた。

「好きなんでしょう?こうやって、女性のように胸を指で弄られるのが」

 両胸の乳首を乳輪ごと摘ままれ、揉まれる。違和感が酷い。
 その強い感触に緊張した上半身はビクンと跳ねた。

「っや、ぁ……ッ」
「嫌?」

「ここをこんなに腫らしてなにを言っているんですか?」身動ぎをし、花鶏の華奢な腕を掴む俺に対しそう底意地の悪い笑みを浮かべた花鶏は言いながら下腹部に膝を押し当てる。
 そして、胸元から片方の手を離したと思えば裾の下へと手を忍ばせ、勃ち上がった性器に花鶏の指先が触れた。そのままつんとつつかれ、先走りで濡れたそこはくちゅりと小さな水音を立てる。その音に花鶏は目を細め、笑った。

「ぬるぬるじゃないですか」
「……ッ」

 嘲笑が混ざったその軽薄な笑みに、淡々とした言葉に羞恥を煽られ、ぞくぞくと背筋に嫌なものが走った。
 言葉と言うものは不思議なもので、その花鶏の声に反応するように性器から熱が溢れる。
 暗示。なんて言葉が脳裏を過る。相手の言葉をそのまま飲み込んでしまう自分と意識そのもので出来た厄介なこの体の性質、それを思い出した俺はこの状況を回避するため花鶏を黙らせようとその口を塞いだ。
 そう、避けることもなくあっさりと塞ぐことが出来た。
 あまりにも上手くいき、よしこの隙に逃げればと気を弛めたときだった。ぬるりと、指先に嫌な感触が触れる。舌だ。

「え、あ……っちょ、花鶏さん……ッ」

 躊躇いもなく、自分の口を塞ぐ俺の手に舌を這わせる花鶏に俺はぎょっと目を丸くした。
 慌てて手を離そうとしたが手首を掴まれ、そのままぐっと引っ張られればねっとりと指の付け根から爪先までを舐め上げられる。

「っ、ぅ、んん……ッ」

 くすぐったいというよりも、違和感。
 舐められたあとはねっとりと唾液で濡れ、てらてらと光る指先に思わず目を逸らす。
 両手で俺の手首をしっかり固定し、ちゅぷりとわざとらしく音を立て指を一本一本丹念にしゃぶる花鶏は俺の顔を覗き込み、目があって微笑んだ。

「は、ぁ……っや、め……ッ」

 指先を吸い上げる柔らかい唇の感触が、唾液を滴らせ指先をなぞる薄く長い舌の感触が、生暖かい吐息が、挑発するような花鶏の視線が。
 自分に絡み付いてくるそれらはやけに生々しく伝わり、性感帯を刺激されてるわけでもないのに酷く羞恥心を煽られ、ごくりと口の中の固唾を飲み込む。

「ぅ、く、んん……っ!」

 視覚を犯されているみたいだ。
 まるで別のものを嬲っているかのような舌の動きに、花鶏の悪意を感じずにはいられない。
 丹念に皮膚を舐め取る体温のない花鶏の舌が通ったあとは決まって蛞蝓が這った跡のようにぬらぬらと光り、あっという間に手のひら全体ををどろどろの唾液まみれにされた。
 ぽたぽたと指先から滴り落ち、手首へと這うように流れるほどの唾液で濡れた手にようやく気が済んだのか、ちゅぽんとしゃぶりついていた指先から唇を離した花鶏は壁に凭れぐったりとしていた俺を見て「本当、だらしない方ですね」と舌なめずりをする。

「ああ、せっかくの浴衣が汚れてるじゃないですか」

 そして、そのまま下腹部に手を持っていった花鶏は端から見ても分かるくらい持ち上がったそこに触れ、滲む染みに触れる。
 舐められる指にばかり気を取られていたお陰でまさかこんなことになっていると思っていたと思わなかった俺はなんだかもう泣きそうになった。逸そ穴に入りたい。
 そんな俺の反応を楽しむかのようににやにやと口許を緩める花鶏は、そのまま布越しに持ち上がったそこに指を滑らせる。

「っ、……ッ」
「こんなに腫らして……辛いでしょう。我慢せずに自分で触っても構わないんですよ」

「それとも、私の手で扱かれたいのですか?」上半身にもたれ掛かるようにくっついてくる花鶏は俺の顔を覗き込み、いやらしく笑う。
 つつつと指を動かされ、薄い布越しに伝わる微動に背筋が震えた。
 花鶏が纏う独特の雰囲気に流されそうになり、相手が食えない同性ということを思い出した俺は慌てて花鶏を振り払おうとする。
 そして。

「なかなか嬉しいことを言ってくださいますね」

 まだなにも言っていないのにまたいつも通り都合のいい解釈かましてくる花鶏は言いながらするりと裾の下へと手を滑り込ませる。
 本当こいつは隙も油断もありゃしない。

「っち、ちが……っんんッ!」

 慌てて、腿を撫で、そのまま下着の中へと手を這わせる花鶏を止めようとするが、遅かった。
 裾を乱され、侵入してくる花鶏の手は勃起したそれに直接触れ、そのままやんわりと掌全体で包み込まれる。
 そして、俺の抵抗虚しく花鶏はそのまま根本から先端部を上下に摩擦始めた。

「っく、っやめ、花鶏さ、んんっ」
「ああ……この脈打つ血管の感触、堪りません」

 最初は滴る先走りを全体へと塗り付けるように扱かれ、全体を慣らしたら握り込む手は加速し、ぐちゅぐちゅとわざとらしく嫌な音を立てながら擦り上げる。
 密着した体。耳のすぐ側で吐息混じりの色っぽい花鶏の声がして、鼓膜から流れ込んでくる。

「随分と溜めてらっしゃるようですね。ちょっと触っただけでこんなにも張り詰めるとは」
「っ、ふ、ぅ……っ、んっ、くぅ……っ!」

 擦り上げられている内に乱れ、大きく開いた浴衣の裾からは太股が露出し、それを戻す余裕すらなくて。
 ガチガチに緊張した勃起した性器に浮かぶ血管を爪でなぞり、悪戯に笑う花鶏はそのまま尿道の窪みに指を這わせる。
 そのままぐり、と先端を弄られ、背筋に甘い刺激が走った。耐えるように背中を丸めるが、あまり意味はない。

「も、やめてくださ……っ」
「大丈夫ですよ、好きなだけ私の手で出して下さい」

 なにが大丈夫なのか全くもって理解出来ないのだが。
 慣れた手付きで摩擦され、腰が砕けそうになった俺は性器に伸びた花鶏の腕を掴み、崩れ落ちないようにしがみつく。みっともないとわかっていたが、そこまで気が回らなかった。
 先端を揉み、尿道から滲む液体を撫でるように塗り付けられる。
 そんな何気ない動作でも限界まで我慢した性器にとっては大きな刺激になり、射精に至るまで然程時間はかからなかった。

「はっ、ぁ……ッんんッ!」

 ピクピクと反応するそこを爪で引っ掛かれた瞬間、糸が切れたように尿道から白濁が溢れ、俺は呆気なく花鶏の手に射精してしまう。
 どくりと排出された精液が触れる花鶏の手から伝わり、なんだか変な気分だった。
 清々しい射精感。それと同時にどっと疲れがのし掛かり、全身が酷くだるい。はっはっと乱れた呼吸を整える。
 それでも襲い掛かってくる脱力感に勝つことが出来ず、ぐったりと壁に凭れかかった俺はそのまま背中を擦り付けた。

「おや、汚れてしまいましたね」

 そして、浴衣の中からドロリと濡れた手を引き抜いた花鶏は絡み付いた白濁を伸ばし、笑う。

「では今度は貴方のお口で綺麗にしていただきましょうか」

 一瞬、意味がわからなかった。
 朦朧とする思考回路内。目の前に汚れていない方の花鶏の手が近付いてきたと思ったら、不意に、顎を掴まれる。
 嫌な予感がして、慌てて振り払おうとしたときだった。どろどろに汚れたもう片方の花鶏の手が迫ってくるではないか。
 まさか、こいつ。顔を青くし、花鶏を退かそうとするが敵わなかった。

「っふ、んむっ」

 ぎゅっと固く紡いだ唇を濡れた指先で抉じ開けられ、そのまま奥へと指を差し込んだ。
 瞬間、咥内に広がる独特の青臭い味に顔をしかめ、吐き出そうとするが根本奥深くまで強制的に咥えさせられた指はちょっとやそっとじゃ抜けない。

「ぅ、んぐ……っんん……っ」

 込み上げてくる吐き気。なんとかして吐き出そうと、せめて飲み込ままいと奮闘するがそれに気付いた花鶏はすぼめた俺の舌を掴み、そのまま指に絡み付いた精液を擦り付けられる。

「ああ、柔らかい舌ですね。気持ちがいい」

 口を大きく開かれ、ぐちゅぐちゅと舌に擦られるというのはなかなか屈辱的だ。
 顎に負担が掛かり、体勢に辛くなった俺はやがて諦め、おずおずと花鶏の指先に舌を這わされる。
 どちらにせよ擦られるのならまだ自分からした方がましだ。
 そうは思ったが、こうしてる間にも唾液に溶けた自分の精液が喉奥へ流れ込んでいると思ったら気が気ではない。顎を固定していた花鶏の手が離れた。
 花鶏の手首を掴んだ俺は犬みたいに丹念に、執拗に、自分の精液を舐めとる。
 そんな俺の様子に満足したのか薄く微笑んだ花鶏は「しっかりと丁寧にお願いしますね」と余計なことを言ってきた。

「っ、ふ、うぅ……ッ」

 しっかりと言われてもどうしたらいいのかわからず、ただひたすら花鶏の手を汚す精液を舐めとり、それでもねじ込む指を抜かない花鶏に俺は先ほど自分がされたように唾液で汚す。なんて真似は出来なかったので、ぺろぺろと舐めていたらようやく花鶏の指がちゅぽんと引き抜かれる。

「っは、く……んん……っ」

 今度の今度こそ、ようやく終わったと安心すれば全身から力が抜け落ち、そのままその場にへたり込んだ。
 夢中になって花鶏の指をしゃぶっている内に溢れたらしい唾液を拭い、浅く呼吸を繰り返す。
 瞬間移動を使い、今すぐにでも逃げたかったが呼吸同様乱れた集中力のお陰でそれは出来なかった。

「おや、だらしない方ですね」

 へたり込み、呆然とする俺の両手首に触れてくる花鶏。そのまま束ねるように両手首を片手で掴まれてしまい、何事かと顔を上げた俺はそのまま硬直する。
 目の前には勃起した男性器があり、鼻にくっつきそうなくらい迫ってくるそれに全身が緊張した。

「ではお次はこちらを愛撫していただきましょうか」

「なに、指と同じと思えば大丈夫ですよ」そして、繊細でどこか儚げな容姿とは似合わない血管が浮かんだ厳ついそれの持ち主もとい花鶏はやっぱり柔和な笑みを浮かべ、全く意味のない言葉を口にする。

 冗談じゃない。なけなしの理性でなんとか持ちこたえた俺は顔を青くし、目の前のそれから顔を逸らそうとする。

「っ、やめ……んぅッ」

 言いかけて、唇に先端を押し付けられた。
 ぷにぷにとした濡れた肉の感触に、身の毛がよだつ。
 顔を逸らすにも百八十度回転する首を持っていない俺はなんとかして両手の拘束を解こうとするが、力が強く外れない。

「ほら、準一さん。その愛らしい舌で舐めて下さい」
「いや、です……っ」

 頑なになって拒む俺と、昂ったのか理性が利いていない花鶏。
 頬から唇へと先端で撫でられ、顔をしかめれば花鶏は悲しそうに、そしてやはりどこか軽薄な笑みを浮かべる。

「おや、酷いですねえ。フラれてしまいました」

 そして、ようやく諦めてくれたのかと安堵したときだった。
 空いたもう片方の手が近付き、乱暴に鼻を摘ままれる。

「あまり無理強いなんて野蛮な真似、したくないのですが」

 何事かと目を見開き、このままでは呼吸が出来なくなってしまうと勘違いした俺は空気を取り入れるため唇を開いた。そして、自分の掘った墓穴に硬直する。
 自分は死んでいるのだから呼吸を気にする必要はない。花鶏の思惑に引っ掛かってしまったわけだ。

「んぐっ」

 開いた唇に押し付けられる性器の先端はそのまま咥内に入り込み、慌てて吐き出そうとするが遅かった。
 反応に遅れたせいでそれをずぶずぶと飲み込まされ、強引に捩じ込まれたそれを吐き出すに吐き出すことができない。
 歯を立てて噛み千切ってでも食い止めようとするが、口の中の圧迫感のせいで顎が思うように動かず、文字通り歯が立たない。
 付け根まで咥えさせられ、喉奥にまで挿入された俺は呻く。
 腕が使えないという不自由な体勢のお陰でされるがままになる他なかった。

「準一さん、舐めなさい」

 そして、ずっぽりと口で性器を受け止めさせられる俺を見下ろす花鶏はそう、静かに強要する。
 ここまでやったんなら自分で腰動かすなりして勝手にしろよと言いたいところだったが、もしかしたら俺の体を気遣う花鶏なりの優しさなのかもしれない。いやこんな優しさ要らないが。
 だからとは言って、舐めろと言われてわかりましたと舐めれるものではない。

「それともこちらの方で奉仕してもらわなければならないのでしょうか」

 狼狽える俺に、そうにこりと微笑んだ花鶏は軽く足を上げ、そのまま下腹部を柔らかく踏みつける。
 裾を捲るように浴衣の下へと入ってくる花鶏は、膝立ちになった腿と腿のその間の股座に足の甲を擦り付けた。すり、と下着越しに押しつけられ、全身が緊張する。

「まあ、私は全然構わないんですけどね」

 下半身で奉仕するか、大人しく舌を使って奉仕するか。
 相変わらず、ずるい人だと思った。
 既に突っ込まれたものをどうこうするかの方が、まだましに決まっている。

「……っ」

 おずおずと舌を突きだし、そのまま咥内のそれを舌先でなぞる。
 大きさから硬度、圧迫感から触感などなにからなにまで先ほどの精子付き指と違う。
 それを舐めろと言われれば、精神的にも肉体的にも躊躇わずにはいられなかった。

「貴方が物分かりのいい方で助かりました」

 必死に舌を絡め、咥えさせられたそれを嬲る俺を見下ろす花鶏は満足げに微笑む。
 ああ、やはり、その上品な顔立ちを見ると花鶏に俺と同じものがついていると俄信じがたい。というかそんなやつにこんなことを強要させられているということ自体信じがたい。というか信じたくない。
 なんて現実逃避しつつ、根本まで咥えたままでは上手く舐められないと判断した俺は顔を引き、咥内からそれを吐き出せば再び先端だけを咥え、そのまま唾液で濡れた舌で尿道をほじる。舌を動かす度に口の中でくちゅりと音が立ち、酷く煩わしい。

「っふ、ぅ……んん、っ」
「ふふ、本当に美味しそうにしゃぶってくれますね。私がいないところで誰から仕込まれたのですか?」

 嬲って、吸って、甘噛みして。フェラに対しての知識経験諸々がない俺はとにかくひたすら見よう見まねの適当な愛撫をする。
 花鶏からしてみれば、そのがむしゃらな愛撫が必死にしゃぶりついているように見えたようだ。

「……っ、うるひゃいですよ」

 ドクンドクンと脈を打つ裏筋の血管を舐め、顔に乗せるようにして全体に舌を這わせる。
 男特有の嫌な生臭さが嫌で、なるべく意識しないよう口で息をするが自然と獣かなにかのように息が荒くなり、どうしようもなく恥ずかしくなった。

「そんな寂しいこと言わないで下さい。私と貴方の仲ではないですか。……おやおや、いくら照れ隠しだとしても噛み付いては駄目ですよ。私が生きていたりでもしたら大変なことになるじゃないですか」

「ああ、因みに私が射精するまでここは動きませんのであしらず」何気ない調子で笑む花鶏はそう宥めるように俺の頭を撫で、優しく微笑む。
 柔らかいその表情とは裏腹にその言葉はひどく酷なもので。
 花鶏のことだ。本気なのだろう。
 もたもたしてこのままたまたま部屋へ訪れた誰かにけんなところ見られたりでもしたらと考えてたらと顔を青くした俺はヤケクソになり、噛み付いていた性器に再び舌を絡ませる。

「っ、ん、ふ……、ぅ……ッ」
「根本までしっかりとお願いしますね」

「ああ、いいですよ。その調子です」吐息混じりの花鶏の声。
 口を小さく開き、目一杯舌を突き出した俺はただひたすらそれに絡め、扱き上げる。
 舌だけではイかせる自信がなかったので、時折唇を使って根本から絞り上げたりキスをするように裏筋を吸い上げたりと試行錯誤している内にあっという間に花鶏のものは質量を増し、その先端からは透明な液体を滲ませていた。

「っんん、む……っ、ぅんん……っ」
「ああ、もう良いですよ。準一さん」

 尿道に唇を寄せ、溢れるそれを舐めとり吸い上げようとしたときだった。僅かに紅潮した頬を緊張させた花鶏は言いながら俺の髪を掴み、強制的に離れさせる。

「ん、っぁ……?」

 腕は拘束されたまま、頭だけを離された俺は一瞬訳がわからず目の前の花鶏を見上げた。
 そして、その次の瞬間だった。

「っ、い」

 ドクンと、大きく跳ねた性器から精液が飛び出す。勃起し、上を向いたその先端は俺の方を確かに向いていて。頬や瞼に掛かったそれはねっとりと垂れ、全身がぞくりと震えた。
 顔射。なんて言葉が脳裏を過る。

「ああ、申し訳ございません。汚れてしまいましたね」

 そして、躊躇いもなく人の顔面に精子ぶっ放した花鶏は相変わらず悪びれた様子もなく、小さく笑いながら俺の顔を汚す自らの精液に触れる。
 ぐちゅりと白濁に指を絡ませ、そのままそれを伸ばすように顔面に塗りたくられ、青ざめた俺は慌てて顔を逸らそうとするが構わず精子を絡ませた指を咥内に捩じ込まれた。デジャヴ。
 慌てて顔を逸らそうとするが構わず顎を固定され、二本の指を根本までしっかりとしゃぶらされる。そして、もごもごともがく俺を見て、花鶏はやっぱり柔らかく微笑んだ。

「それにしても、やはり貴方には白濁がよくお似合いですね」



「おや、もう着替えたんですか。脱ぎやすくて便利ですのに」
「だからやなんですよ。……ていうかついてこないで下さい」
「おや、どちらへ?」
「花鶏さんのいないところへ」
「全く、照れ屋さんですね。お供させていただきます」
「いりません」
「そんなに遠慮してくださらなくても結構ですよ。ほら、一緒に散歩しましょうか」
「いりません」
「人の行為を無下にするものではありませんよ。また色情霊になられても困りますからねえ、ほら、お手をどうぞ」
「色情霊?」
「無視されてしまいました……。まあ、ええ、色情霊です。堪ったものは小まめに発散しないと生者を襲うようになりますからねぇ。……おや、なんですかその目は。貴方もしや適当なこと言ってんじゃねえよと思ってますね?事実ですよ。ところ構わず発情し、焦がれた瞳で見据えられれば誰だって気付きます。現にほら、今も私のことを誘ってるじゃないですか」
「誘ってませんしまんま花鶏さんじゃないですか」
「失礼な方ですね。私ほど貞操観念が強い輩はいないと思いますよ……ですから意地を張らずに素直に私に任せておけばいいんですよ。絶対安泰、悪いようにはしませんから……って、あれ?準一さん?どちらへいかれましたか。準一さん?」

 おしまい

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