亡霊が思うには


 仲吉と準一の馴れ初め

月様リクエスト
・仲吉×準一
・学生時代/馴れ初め/甘め


「いーじゃん肝試し!ぜってー盛り上がるって!」

 休み時間、教室にて。
 授業が終わり、今日の昼食はなにを食べようかなんて購買のメニューを思い浮かべていると、ふと教室内にそんな喧しい声が響いた。
 上の空だった俺はその声にビクリとし、反射で声のする方に目を向ければそこにはクラスの中でも目立つ男女グループが溜まってなにやら話している。

「えー、でもうちら怖いしー」
「だーいじょうぶだーいじょうぶ、皆で行けば怖くない!」

 そう不安そうな顔をする女子数名。そんな女子に対し、先程の発言をしたらしい一際目立つ男子生徒は「な?」と笑いかける。
 第三者から見てなかなか強引なやつに見えたが、なんだかんだ笑いかけられた女子も満更でもなさそうだ。

「仲吉お前本当そーいうの好きだよな。その内取り憑かれるぞ」

 どうしても肝試しをしたいらしい男子生徒に対し、グループの内の一人が笑いながらからかう。
 ああ、そうだ、仲吉だ。仲吉爽。つい先日クラス替えをしてたまたま同じクラスになった騒がしい男子生徒。
 やけに目につくから顔は覚えていたのだが名前までは覚えてなかった。
 その冗談めいた言葉に対し、男子生徒もとい仲吉は「うっわなにそれ、テンション上がんじゃん」と目を輝かせ、それに対し周りは「ばーか」と可笑しそうに笑う。周りは冗談だと受け取ったようだが、仲吉の目は至って本気で。
 どうやら連中は遊びの予定を作っているようだ。長々と盗み聞きする趣味を持ち合わせていない俺は椅子から立ち上がり、購買へ昼食を買いに行くために教室の扉へと向かう。

「えーやっぱやめようよぉ」
「もう本当怖がりだよなお前ら」

 ほだされた女子とはまた違う子の声。よっぽど行きたくないようだ。仲吉も仲吉で折れればいいものを。
 なんて思いながら教室を出るため連中の近くを通りかかったときだ。

「じゃあほら」

 不意に、伸びてきた手に肩を掴まれる。引き留められ、何事かと思っていたら肩を組まれた。ぎょっと目を向ければそこには仲吉がいて、目が合えば仲吉は「準一も呼べばいいじゃん」と笑う。

「えっ」

 その場にいた全員と俺の声がハモった瞬間だった。
 まったく意味がわからなかった。というかなんで俺はこいつに引き留められたんだ。
 あまりにも突拍子のない仲吉の行動言動諸々に追い付かず目を丸くしていると、不意に手が離れる。

「んじゃ決定な!今日七時に駅前集合ってことで!」

 そして、爽やかな笑みを浮かべた仲吉はそう言ってそのまま立ち去った。そう、立ち去ったのだ。

「え?ちょ……っ」
「あ……ごめんなさい、多々良君。あいつ、ちょっと変わってるから」

 そして、どうすればいいのかわからず固まっていると、グループの内の一人が「気にしないでください」と青い顔して慌てて謝ってくる。なんで敬語なんだ。
「え?あ、あぁ……」どう答えればいいのかわからず、そう呆けたような顔をした俺はなんとも歯切れが悪い返事をする。というか、そうとしか返しようがない。
 なんなんだ一体。いきなり巻き込まれ、なにがなんだかわからないまま解放された俺はもやもやとしたまま購買へ向かった。


 休み時間、仲吉に言われたことが気になって気になって気になって気付いたらもう七時近付いていて。
 全く接点がない俺が行っていいのだろうかだとかでも呼ばれたし無視するのも悪いよなだとかそもそもあれは本気ではなく冗談なのではないのだろうかだとか考えながらやってきた駅前。
 そこには仲吉がいた。

「あいつら、雨ぐらいで中止とか有り得ねえ」

 駅の屋根の下。携帯片手に仲吉はそう嘆く。つられて外に目を向ければ、どす黒い雲に覆われた空と滝のような雨が嫌でも視界に入った。雨というか、もはや土砂降りレベルである。
 まあ、元々皆乗り気じゃなかったし無理もないだろう。とは思ったが、この状況はいかがなものだろうか。
 集合時間、集合場所には俺と仲吉の二人だけがいた。そう、残りメンバーはドタキャンだ。

「でもまあ、準一いるし大丈夫だよな!」

 やっぱ来なかった方がよかったのかもしれない。そう思っていると仲吉がそい笑いかけてきた。
 前から思っていたがこいつの馴れ馴れしさはハンパないようだ。今日が初めてまともに話したばかりなのにまるで昔からの友人のような態度を取る仲吉に内心狼狽えつつ、俺は「土砂降りの中行くつもりかよ」と顔をしかめる。

「肝試しはまた次晴れた日にした方がいいんじゃないのか」

 そう提案すれば、案の定仲吉は「えー」と面白くなさそうな顔をした。が、それも束の間。

「あーでもまあ確かに、傘差しながらじゃやりにくいもんな」

 なにをするつもりなのか全く想像つかなかったが、どうやら納得してくれたようだ。
 なんとかこの悪天候の下でほぼ初対面のクラスメートと二人きりで肝試しというよくわからないシチュエーションにならず済む。そうほっと安心した矢先だった。

「んじゃ今日は変更して映画観るか」

 仲吉はまた妙な提案をしてきた。
 帰る気満々だった俺は、まさかの仲吉からの誘いに「映画?」と目を丸くする。その問いに、笑みを浮かべた仲吉は大きく頷き返してきた。

「DVD!俺んちで観ようぜ」
「は?俺?」
「当たり前だろ」

 そして、ぽんと俺の背中に手を回した仲吉は「ほら、早く早く!」と楽しそうに急かしてきた。しかも強制かよ。
 拒否権がないことを悟った俺は「ちょっ、引っ張んなってっ」と声を上げながら雨に濡れないよう慌てて傘を差した。
 そして、その日仲吉に付き合わされ一緒に数本のホラー映画を観るハメになったが途中で仲吉が眠り実質一人の観賞会になってしまいなんだかもうなんだかだったので仲吉に帰るという趣旨の置き手紙を書きそのまま帰宅した。観た映画のせいで夜眠れなかった。

 それからというものの、どうやら俺は仲吉に気に入られてしまったようだ。

「準一!」
「準一準一、昨日テレビでやってたの見た?」
「準一ーっ飯食おーぜ!」
「そういやあのゲーム新作出たんだってよ!」
 などなど。なにかことある毎に仲吉は声を掛けてくるようになる。
 別に話し掛けられるのは嬉しかったが、自分が周りから避けられていることを知っているだけにこいつも物好きだなと思わずにはいられなかった。
 案の定、あまりの急激な仲吉のなつきっぷりに一時期校内では仲吉が俺の舎弟になったとかいう意味のわからない噂が流れたがそれでも仲吉は気にせず俺の近くをちょろちょろして。

「じゅーんいちーっ!」

 なんて考えていると、噂をすればなんとやら。今はもう聞き慣れてしまった無駄にデカイ名前を呼ぶ声のする方へと目を向ければ満面の笑みを浮かべた仲吉がいて。

「……なんだよ」
「呼んだだけ!」
「…………」

 と、まあ、なかなか面倒なやつになつかれてしまったかもしれないと鬱陶しくなってくると同時に、今まで変に距離を置かれていたせいか距離感を全く感じさせない仲吉の態度は正直心地よかった。


 そして、仲吉が絡むようになってから数日後のある日。
 学校から帰り、服を着替えて自室で寛いでいるとふと携帯電話が一件のメールを受信する。登録していないアドレスに誰からだろうと思いながら開けば、そこには予想外の名前が記入されていた。

『今他のやつらと遊んでるから準一も来いよ。駅のところにいるから。仲吉』
「…………」

 あれ、俺確か仲吉にアドレス教えた覚えがないんだが。それどころかここ最近アドレスを教えたのはクラスメートの女子くらいだ。
 と思った矢先、俺は思い浮かんだ一つの可能性ハッとする。まさかあの女子、仲吉の仕向けた罠だったのか。
 という被害妄想はさておき、問題は内容だ。これは今すぐ来いという意味だろうか。
 正直なんで俺がとか言いたいことはあったが、そうしてる内に仲吉たちが待っていると思ったらいてもたってもいれなくなり、慌てて上着を羽織り俺は家を出た。

 ◆ ◆ ◆

「おー!まじで来た!」

 夜中の駅前にて。チャリを漕いで慌てて駅へと向かえば俺を待ってくれていたらしい仲吉が笑顔で迎えてくれる。物珍しそうに、そして嬉しそうな顔をする仲吉になんだかむず痒くなりながらも自転車を停めながら俺は「お前が呼んだんだろ」と突っ込んだ。

「……って、一人か?」

 そして辺りを見回した俺は付近に仲吉しかいないことに気付き、尋ねる。
 すると、仲吉は小さく頷き「うん。あれ嘘」となんでもないように続けた。あまりにも軽い仲吉についこちらまで『ああ、なるほど嘘ね』と流されそうになったが、こいつサラリととんでもないこと言いやがったぞ。

「…………嘘?」
「うん!」

 いい返事だ。いい返事だが開き直るな。
 唖然とする俺に流石の仲吉もこのままじゃまずいと悟ったようだ。

「だって準一俺一人だっつったら来なさそうだもん」

 そう怒られた子供のような顔をする仲吉は「怒んなよー」とちらちらこちらを見てくる。
 まさかそんな理由で嘘をつかれるとは。そこまでして仲吉が自分と会いたかったと考えると怒るに怒れず、誰が来てるのだろうかとか一人ドキドキしながら家を出てきた分なんだかアホらしくなって全身から力が抜けてしまう。

「……別にそんなことしなくても行くよ」

 そして、肩の力を抜くように小さく息を吐けば仲吉は「まじ?」と目を丸くしてこちらを見てきた。
 そんなに意外なのだろうか。なんとなくショックを受けつつ、俺は「こんなことで嘘ついてどうすんだよ」と呆れたように頬を弛めてみせれば仲吉は安心したように「ならよかった」とつられて嬉しそうに微笑んだ。

「準一、あんま一対一とか好きじゃなさそうなイメージあったんだけど、これならこれからもバンバン呼び出せるな」

 あれ、なんだか話がよくない方向に流れてないかこれ。
 まるで遠回しにこれからバンバン呼び出すから覚悟してねと言ってくる仲吉に内心冷や汗滲ませながら「それとこれとは……」と口を開く。

「ん?あれなにそれ」

 そして話逸らされた。どうやら仲吉は俺の自転車のカゴに乗せていた袋が気になったようだ。因みに中には大人数でも食べれそうなお菓子が入っている。

「なにか持っていった方かと思って、そこで」

 言いながら駅の近くにあったコンビニを顎でしゃくり、俺は「お前が嘘吐くから無駄遣いしただろ」と仲吉を睨んだ。が、無反応。

「……」

 目を丸くしたまま俺とカゴの買い物袋を交互に目を向けてくる仲吉の態度が面白くなくて「なんだよ」と尋ねれば、仲吉はそのまま俺を見据え笑った。

「や、準一って意外と律儀だよなって思って」

 意外とは余計だ。

「まあいいや!一緒に食べればいいだろ、俺丁度腹減ってたところだったし」

 そして、相変わらずの調子でそう笑い掛けてくる仲吉は「んじゃ、行こーぜ!」と言いながら俺の服を軽く引っ張ってくる。

「……行くってどこに」
「勿論、この前行きそびれた肝試しに決まってんじゃん」
「二人で?」
「当たり前だろ!」
「いまから?」
「勿論!」

 冗談だろ。そんなこと一言も聞いていなかった俺はまさかの仲吉の提案に内心狼狽える。
「行くんだったら他に誰か呼んだ方が」そう口を開こうとすれば、仲吉は「だーいじょうぶだーいじょうぶ、準一がいるから!」と強引に遮ってきた。なに一つ大丈夫じゃない。

「ほらっガタガタいわなーい!」

 そんな俺のことなんか気にせず自転車の荷台に座ろうとしてくる仲吉に「早く早く」とぐいぐい引っ張られ、俺は小さく息を吐く。

「わかったから、先にそっち乗るなよ」

 おしまい

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