短編


 02

「ッ、ぅ゛、ふ……ッ」
「っ、は……」
「ん゛……ッ、ぅ゛……ッ!」

 死臭と血と精子の匂いが充満した部屋の中。
 澤北の死体の横に吉野を並べ、四つん這いのあいつをひたすら犯す。あいつはずっと声を我慢しようとしていた。壁の薄さを心配しているのだろうが、俺はそれが頭に来て更に乱暴にその身体を押さえつけて奥深くまで届くように腰を打ち付ければ腕の中の吉野は魚のように身体を痙攣させ、仰け反るのだ。
 腹立つほど抽挿はスムーズだった。どれほどここにあいつのものを咥えこんだのか考えたくもない。

「ッ、ぅ゛、ん゛……ッ」
「おい、逃げんなよ」
「ひ、ぅ゛……ッ! ぁ゛、待……っ、ぅ゛、ん゛……ッ」

 逃げようとする吉野の背中に覆いかぶさるような形で腰を打ち続ければ、性器を飲み込んだ中まで痙攣して正直我慢などできなかった。あいつとはゴムを使っていたことが救いだった。
 俺は吉野の中に三回出した。吉野は泣きじゃくっていたが、そのくせに自分も何度もイっていたのだから人間というのは分からない。

「吉野、中に出すぞ。……っ、零すなよ」
「っ、は、い゛……ぐ、ぅ゛う……ッ!」

 臍の下を押え付け、そのまま内側からその裏側を亀頭で突き上げた瞬間、吉野の薄い身体がびくんと数回大きく跳ね上がる。精液がこぼれないよう、吉野の所持品であるゴムを被せた先端からは再び精液がどぷりと溢れ、中に溜まっていくのだ。
 新鮮な空気を求めるように喘ぐ吉野の唇を塞ぎ、舌を絡める。
 澤北に見せつけるように何度も体位を変え、吉野の身体を全て塗り替えたかったのだ。

「ッ、吉野……ッ、」
「ひ、ぅ゛……ッ! ぐ、う……ッ」

 出したばかりの精液を塗り込むように何度も亀頭で中を穿る。中を刺激するほど収まった性器全体を締め付けられ、油断すればすぐに出てしまいそうなほどだった。
 こいつの体で気持ちよくなればなるほどもうこの世に存在しない相手への嫉妬でどうにかなりそうで。
 俺は、やり場のない感情の昇華の仕方など知らなかった。

 それからどれほど時間が経っただろうか。
 俺は畳の上でくたりと倒れる吉野を余所目に自分の痕跡が残ってそうな場所を全て片付けた。
 吉野の痕跡まで消したら今度こそ他殺を怪しまれてしまうだろう。だから、吉野には伝えた。
 今からでもいいからお前は救急車を呼んで第一発見者のフリをしろと。
 疑われたら、恋人だったと言えばいいと。
 吉野は最初こそは怯えていたが、俺の言うことを聞いた。それから俺は澤北の家を後にした。
 帰宅する途中、澤北の自宅アパートのある方からパトカーと救急車の音が聞こえてきた。
 深夜、皆が寝静まった静かな田舎町に響くサイレンの音は煩く、どこまでも鼓膜を震わせる。

 俺は吉野と初めて出会ったときのことを思い出していた。
 中学の頃、あいつは誰とでも話しかけては仲良くなっていた。けれど器用な方ではなく、気まぐれで気分屋で、気に入らないことがあるとすぐ不機嫌になる。そんな吉野が俺に懐いてくれるのが嬉しかったのだ。
 他の奴らの悪口も、気に入らないやつへの度を過ぎた暴行も、あいつがすることは全部看過してきた。
 高校に上がれば他校の色んなやつもやってきて、中学の頃のように好き勝手気まぐれしていただけの吉野の立場は悪くなる。
 他のまともなやつらはついて行けなくなって、あいつの周りに残るのは同類たちばかり。止める人間など誰もいなくなって、そして俺もその内の一人であった。
 吉野のことが好きだった。ああ、間違いない。あいつに「あいつマジでうぜーよな」と笑顔を向けられ、「お前しか信用できないから」とはにかむ吉野に心を奪われた。おそらくこの感情は恋だったのだ。
 だとしたら、今はどうなのだろうか。

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