来世に期待!
「タイミングが悪かったんだ。俺が男で、君も男だなんてホント、間が悪い。なんでこんな時代に産まれてきちゃったんだろう」
「じゃあ来世に期待すればいいよ。もし俺が男で君が女でそれとも君が男で俺が女で、そうならなくても普通に付き合ってられる世界に産まれることが出来るかもしれない」
「本当に?」
「本当だよ」
「俺と一緒に死んでくれる?」
「うん」
「ホントに?」
「ホントだって」
第一印象、馬鹿なやつ。
出会って数ヵ月、現在でもそれは変わってない。
「じゃあ、えっと首吊り?刺す?出来るだけ、痛くないのがいいなあ」
「じゃあ首吊りじゃね」
「わかった、じゃあ縄持ってくる」
そう言って荷物を漁るそいつに「あるんだ」と俺は目を丸くする。
まあ、確かにキャンプに来てるわけだからあってもいいのだろうが最初からそのつもりだったんじゃないのだろうかと思わずにはいられない。
「あれ……ビニールのしかなかった……」
しょぼくれた顔をするそいつに「うん、それくらいあれば大丈夫大丈夫」と笑いかければそいつはぱあっと顔を明るくし、いそいそと首吊り用に結ぶ。
「よし、出来た!えーっと、じゃあこれを……」
「ああ、あそこなら二本結べそうじゃね」
「あっホントだ。じゃあ、一緒に結ぼう」
「うん」
大きな樹の根本までやってきた俺とそいつ。丈夫そうな樹の枝に縄を固定する。二人分、隣に並ぶよう結び終え、そいつは頭より高い位置にあるそれを見上げ「ちょっと高いな……」と声を漏らした。
高くないと首吊れないだろ、馬鹿だな。そう呆れる反面そういうところが可愛くも感じた。
なにかないだろうか。そう辺りに目を向けたとき、キャンプで持ってきていたパイプ椅子を見付けた。
「じゃあその椅子に乗れば?」
「あっそうだね」
よいしょと声を漏らし椅子に上がるそいつ。
「季君、一緒に……」
紐を手にしたそいつは声をかけてくる。
「ああ」と頷き返した俺は、そのまま隣の輪っかを掴んだ。
「えへへ、じゃあ、せーのでだよ?」
まるで遊園地に行く前の子供のような無邪気な笑みを浮かべるそいつは「せーのっ」と声を上げ、そのまま輪っかを首に掛けた。それと同時に、俺はそいつが乗っていた椅子を蹴り飛ばす。
瞬間、
「うきゅっ」
縛った首一点に体重が掛かり、勢いよく絞まった器官から愛らしい声が漏れた。
急に無くなった足場にもがくそいつは首を縛る縄をガリガリと指で引っ掻きながら、口をパクパクさせる。
見開かれた目はこちらを捉え、酷くショックを受けたように顔が歪んだ。
「ぁ………ッとっ、きく……ッんで……な……ん……っで……ッ」
掠れ、次第に弱々しくなるその声。見開いた目尻からは涙が溢れ、ガリガリと引っ掻かれる首は爪の痕で赤くなっている。
ああ、この顔だ。堪らない。
ゾクゾクする。
裏切られて絶望して、後戻りが出来ないのをわかってて、またそれに絶望する。
希望を持つ暇すらないその切羽詰まったような歪んだ顔がかわいくて、俺はいつもベッドの中で見せていた笑顔を浮かべた。
「一人で死んどけよ、バーカ」
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