エピローグ
『要人せんぱいと榛葉郁が死んだ』
数分前、蕪木佳夫から電話がかかってきた。泣きじゃくる佳夫君の言葉に僕はベタなドラマみたいに携帯を落とす。
好きな人を失う。これ程悲しい失恋はあるだろうか。
聞きたいことは色々あったがこれから警察から取り調べられるといってすぐに電話を切った佳夫君からはまともな情報を聞き出すことは出来ず、仕方なくパソコンを開きネットニュースで調べることにした。
既にニュースで出回っており、事件の事柄を確かめることが出来る。
その記事にはA君とB君と書かれていたが佳夫君の言うことが本当ならこのA君B君は榛葉と御厨要人で間違えないだろう。
凶器はナイフ。現場は旧校舎の地下倉庫。凶器のナイフに付着した指紋からしてA君がB君の腹を刺し、B君殺害後A君は自ら胸を突き刺した。二人の死体は手を繋いだ状態で見付かり、心中の可能性もあるだとかないだとか。他にもB君には素行に問題があったようでだとか警察は二人を倉庫に軟禁した不良グループを取り調べているとかそんなことが書かれていたがそんなこと俺の頭に入ってこなかった。
あの二人、やっぱり出来ていたのか。
A君は榛葉、B君が御厨要人で間違いないだろう。
前々から御厨要人の榛葉への執着は気違い並みと思っていたが、くそ、まじかよ、なんであんなやつと榛葉が心中なんだよ。
いつの日かズタズタにされ入院するハメになった肛門が疼き始め、なんだか二重の意味で泣きたくなった。丁度その時だった。
コンコンと控えめに扉が叩かれる。唯一パソコンの明かりが照明の役割を果たした薄暗い室内。びくりと肩を跳ねさせた俺は小さく開く扉に目を向けた。
「……ねえ智也、警察の方が……」
廊下の明かりが射し込むその扉の隙間から聞こえてくる控えめな母親の声。
警察?なんで警察が。全身が緊張し、嫌な汗が滲み。別に犯罪を犯してしまい動揺しているわけではない。あの御厨要人のせいで他人がトラウマになってしまっているだけだ。
慌ててどこかへ隠れて居留守をしようとしたとき大きく扉が開き、部屋に明かりをつけられる。
久し振りに浴びた明るい照明に目をしかめた俺は顔を覆いながら呻いた。
俺は吸血鬼かなにかか。なんてセルフ突っ込みをしながらズカズカと部屋に上がり込んでくるスーツの男たちになんだかもう俺は生きた心地がしなかった。
ゴミやものが散乱した室内を一瞥し眉を潜めたいかにも神経質そうなその男はスーツから警察手帳を取り出す。
「君が巳弥子智也君だね」
ああもう御厨要人め。
最後の最後まで俺を苦しめやがって。
作り物は嫌ですか?
(ただ君に幸せになってもらいたかっただけなんです。)
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