21
「全部……全部俺がやりました、俺が――殺しました」
その言葉は思いの外すんなりと口に出てきた。
取り押さえられ、名前を確認される。どうやら既に芳川会長のことも、俺がその共犯者だということも全て割れていたらしい。凶器を持っていないことを確認され、両脇を大柄警察に取り押さえられたまま俺は裕斗とともにそのまま警察署へと連行され――そして、取調室。
――なんで殺した?
「……そうするしか、なかったからです」
――もう一人仲間がいたって聞いたが。
「……ッ」
――そいつはどこにいる?
「……っ、わ、かりません……けど、したのは俺一人で……ッ」
――……。
目の前の刑事は俺が喋る度に調書を書いていた。
俺には何が正解で何が間違っているのかわからなかった。
薄暗い取調室の中、自分がちゃんと喋れているのかすらもわからなかった。
刑事の口振りからして会長はまだ見つかっていないのだろう。そして恐らく、主犯だと思われている。それは俺にとって避けたかった。
会長が無事ならそれでいい、どこかで生きてくれているのなら。このまま俺が背負って会長が穏やかな生活を送れるのならばそれでもいいと思ったが、もしそうでなければなにがなんでも会長の元へ向かわなければならない。
そう思っていたのに。
入れ代わり立ち代わりで様々な人間が取調室にやってきた。同じ問を何度もされ、俺はそれを答える。どれほどの時間を過ごしたのかも分からない。
食事を差し入れされるが、まるで食欲はなかった。
取調室から拘置所へと移される。
殺人罪か、傷害致死罪か。どちらにせよ共同正犯という立場である俺は今後行われる裁判の判決まで拘置所から動けないという。
それから数日が経過した頃、両親が面会にやってきた。
顔も合わせられなかった。会いたくなかった。けれど拒否することもできなくて、実家から駆け付けてきたという両親を前に俺はその目を見ることができなかった。
怒られることもなかった、大体の話は刑事から聞いていたのだろう。俺も何も言えなかった。
静まり返った面会室、アクリル版一枚隔てたその向こう。
「知り合いの先生に弁護は頼んでいる」
父親の声に、咄嗟に「いらない」と声を上げた。
それは、拘置所に入れられてから数日ぶりに発した声だった。
「このあと先生も顔を出す。……先生にはお前を保釈も頼んでいる。話なら、そのあと直接聞こう」
それだけを言い残し、両親は面会室をあとにした。母は結局最後まで何も言わなかった。俺も、何も言えなかった。
けれど、保釈という単語に思わず反応した。
ずっと、諦めていた。もうこのまま待つしかないのだと。
けれど、それは両親が与えてくれた最後のチャンスなのかもしれない。
――保釈期間までに、芳川会長を探し出す。
エゴなのだろう。全て。どこかで穏やかに過ごしているかもしれない会長を邪魔することになるかもしれない。それでも、せめて一目だけでも無事を確認できれば俺はそれだけでよかった。
裁判所から召喚を受けたときには、必ず定められた日時に出頭しなければならない。
逃げ隠れしたり、証拠隠滅と思われるような行為をしてはならない。
――被害者や事件関係者に対し、直接または弁護人を除く他の者を介して一切の接触をしてはならない。
最悪、少年刑務所行きになるだろう。
頭で理解してても、『諦めて大人しく過ごす』という選択肢は俺の頭に存在しなかった。
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