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陽根の根元にある双果の、さらに下――淡い薄紅色の窄まりが、口淫の際の唾液や白濁のとろみで濡れ光っている。
糸雨の視線を受けて、そこが奥に隠れるようにきゅうと窄まった。そんな様子を見ては、糸雨の理性もすっかり吹き飛んでしまう。

「主様……っ」

糸雨は堪えきれずに腰を突き出した。はち切れそうに硬く膨れ上がっている剛直の先を、主の秘所に押し当てる。
太さも長さもかなりの存在感がある糸雨のそれにつつかれると、窄まりはますます収縮した。

「あ……」

挿入の衝撃に備えた主が、身を固くして小さな喘ぎ声を上げる。
ところが、糸雨としてはすぐにでも中に入りたかったのに、垂れた体液や先走りで滑って潜り込ませることができなかった。
なにより未通の狭隘は生硬く、一向に開かれる気配がなかった。本来性交に適した箇所ではないから当然ではあるが。

ぬるついた窄まりに一物の先端を何度も擦りつける。ほんの少し潜っては押し戻される。
押しては引いてと、ぎこちなく腰を揺らす。その動きを繰り返していると糸雨の息が上がってきた。
この状況で耐えるのは男としてとてつもなく労力を使う。もはや汗みずくで、顎からぽつりと滴った。

本能のまま強引に貫いてしまいたい。しかし主に無体な仕打ちはしたくない。
糸雨がそんな葛藤に揺れている間に、主の雄蕊も芯を取り戻していた。今か今かと待ちわびているうちに再び高まってきたのだ。
どうにもじれったくなった主は、甘やかに懇願した。

「糸雨……早う、私の中へ」

吐息混じりのおねだりを聞いた糸雨は、思わず力が入って昂りを押し込んでしまった。
くびれの一歩手前というところまで潜り込んだところで、糸雨は身体をぶるりと震わせた。

「あっ」

声を上げたのは糸雨だ。
主の中に少し入ったと思った瞬間、我慢に我慢を重ねた若い昂りはついに限界を迎えたのだ。
吐精は止まらず、主の秘所に半端に咥え込まれた状態で熱を吐き出していく。

どんな形であろうと、気をやる快感は得も言われぬものがある。
しかし出しきってしまえば、糸雨は己の至らなさに落ち込むばかりだった。志半ばで暴発とは不甲斐ない。

「すみ、ません……主様……」
「何を謝るか。こちらへ、糸雨」

主の手が項垂れる糸雨を引き寄せる。
そうして糸雨を抱き留めた主は、汗に濡れた頭を緩やかに撫でた。

「まこと愛い奴よの、おぬしは」
「子ども扱いしないでください……」
「しておらぬわ。ぬしは紛う方なき益荒男であるぞ、糸雨」

主に清々しく言い切られると、糸雨は小さく吹き出した。
励ますにしても益荒男は言いすぎだ。しかし気分が上向きになる。
主を押し潰さないよう肘で上体を支えつつ彼の肩口に顔を伏せていた糸雨は、喉の奥で笑いながら言い返した。

「何ですかもう、からかってるんですか」
「しておらぬというのに。ほれ、糸雨」

主は、伏せられていた糸雨の顔を上げさせた。
優しい手つきで糸雨の汗ばんだ背を宥めながら唇を啄ばむ。糸雨もつられて唇を食んだ。
はじめはぎこちなかった口づけも、だんだんと互いの呼吸に合わせられるようになってきた。

軽く触れる口づけで戯れつつ、互いの身体を撫でさする。掌で素肌の手触りを楽しみ、手足を絡めて体温を分け合う。
主の腿の間に腰を割り込ませたまま股座が擦れ合えば、精を放って勢いを失くしていた糸雨の陽物も再度膨らみはじめた。

「ん、あ……んん、糸雨……」
「ん……」

持て余すほどに若い身体だ、蘇りは早かった。主のものも硬くみなぎっている。
舌を絡めさせて甘い唇を吸いつつ、糸雨は自然と主の窄まりに昂りをひたりと据えた。
放ったばかりの精と新たな先走りで濡れそぼる先端で、ぬめりにまみれて潤う襞を撫でる。
穏やかな愛撫と口づけですっかり身体の力が抜けた主は、蕩けた顔で自ら腰を上げて糸雨を誘った。

「糸雨……ぁ、……あっ!」

先刻のような優柔不断からの失敗をしたくなかった糸雨は、少し強めに突き入れた。
張り出した笠の部分が入ってしまえば、いざなわれるが如く奥へと入り込んでいく。
主の腹の中は熱くて狭い。その締め付けのあまりの気持ち良さに、糸雨は艶めいた呻き声を上げた。

「ぬし、様……んっ、大丈夫、ですか」
「ああ……好い、糸雨……そのまま」

本当にヒトとは違うのか、初めて迎え入れた男根でも主はそれほど痛みは感じていないようだった。
主の肉筒に収まってしまえば、達成感で胸の奥が熱くなった。
愛しい人と繋がっている――心も、体も。それが何より嬉しい。
しかし気持ちとは裏腹にそれだけで熱が治まるはずがなく、糸雨は息も絶え絶えに懇願した。

「主様、俺……すみません、俺、もう……我慢が……っ」
「おぬしの思うままに、と、申したはず、だ……んんっ!」

許しを得るや否や、糸雨はもう一突きとばかりに腰を押し進めた。さすがに衝撃があったのか、主が啜り泣きに似た高い声を上げる。
それでもここまできては止められず、少し引き抜いてもう一度奥に潜り込ませる。
主の窄まりは引き抜くたびに狭まり、押し入れると柔らかく開く。
それは腰が砕けそうなほどの快感で、糸雨は夢中になって抜き差しした。

「あっ、はっ、あっ、糸、雨、うっ……あっ……」
「すごい、あなたの……ぅあ……っ」
「し、ぅ、うっ、くっ……ふ、あぁっ……」

揺さぶられるたびに主は甘く啼いた。
はじめこそ眉間に皺を寄せていたものの、だんだんと恍惚としてくる。
やがて糸雨が行き来するたびにあられもない声を上げるようになり、内腿を小刻みに痙攣させた。

「中の……おぬしの、が、……んっ、好い……ああ、そこ……」
「こ、このへん、ですか?」
「そこ……んんっ」

なんとなく奥の方が気持ち良いのかと思い込んでいたが、主は中の浅い部分が好みのようだ。
糸雨を気遣って気持ちいいふりをしてくれているのかと思えば、そうではないらしい。そもそも彼はそういった性格ではないが。
初めての交合など、入れる方はともかく入れられる方は痛みばかりでそれほど愉悦が得られるとも思っていなかった。
それだけに、主の反応は嬉しいことだった。

「もっと、糸雨……」
「はい、主様、……んっ」

自らの快楽を追いつつ主に求められるまま揺さぶる。すると、主の蕩けきった瞳にうっすらと涙が滲んだ。

「好い、糸雨……あっ、……もっと、近う」

主に請われて繋がったまま口づける。身体を屈めれば、結合部がさらに密着した。
奥を突くと唇の合間から主のくぐもった喘ぎが漏れた。
彼が息苦しそうにしていたのでそっと唇を外す。かわりに胸と胸を重ねて、隙間もないほどに強く抱き竦めた。

耳元に顔をうずめて彼の髪の甘い匂いを肺いっぱいに吸い込めば、主がくすぐったそうに腰をくねらせる。
その動きで肛孔が艶かしく締まって、背筋が粟立つほどの快感が走った。

主をしっかり掻き抱きながら隘路を行き来する。
筒の内壁はもはや抜き差しが容易なほど奥まで滑り、糸雨を悦ばせた。
技巧も何もなく、とにかく必死に、ただ愛おしいという気持ちだけで主を貪る。
いつしかすっかり箍が外れ荒々しく揺さぶっても、主は熱い吐息とともに甘い声を上げるばかりだ。
抱いているのは糸雨の方であるのに、まるで主に縋っているようだった。

「糸雨、しぅ……あっ、好い、あっ……うっ、ん、んんっ!」
「主、様っ……うっ、くっ……!」

穿つたびに腰が重く痺れ、腹の奥が煮え滾る。――限界が近い。

「も、俺、もう、無理、イッ……主様……っ!!」

主の窄まりがひときわきつく狭まった時、糸雨は二度目の絶頂を迎えた。
絞め潰す勢いで強く主を抱き締め、全身を震わせながら放つ。今度は主の中に奥まで竿を収めたまま熱を迸らせた。
数回に分けて全部吐き出すと、腕の力を緩めて抱擁を解いた。

糸雨も主も吸気が追いつかぬほど息が荒い。
重なった胸から伝わる鼓動は狂ったように速かった。

「……主様……大丈夫、ですか」
「ん……」

糸雨の声かけに、玉の汗を滲ませた主は夢見心地といった曖昧な返答をした。
茫洋とした眼差しで糸雨を見上げる。その双眸は涙で潤んでいた。
褥に広がった長い髪が、激しい情交で揉まれたせいであでやかに乱れている。

事後であっても主は美しい。否、事後だからこそ色艶が増して美貌に磨きがかかっていた。

腹と腹の間に挟まれていた主の陽根もいつの間にかくったりと萎れている。行為に没頭するあまり、彼がいつ達したのか糸雨は気づかなかった。
どことなく正気を失ったような様子の主の手を取り、指を絡ませて握る。
頂点を極めれば醒めるのが男の性のはずだが、今の糸雨は醒めるどころか、とめどなく愛おしさが湧き上がる一方だった。

解けないよう手指をしかと握り込み、主の赤い額や頬に優しく口づける。
そうしているうちに主はぼんやりしていた意識が戻ってきたらしく、瞳の焦点が定まった。

「糸雨……私は……、あっ」
「んっ」

何か睦言を囁こうとしていたのか、主が口を開いたその時、体勢がずれて腰が揺れた。
名残惜しくて未だ繋がったままだったのだが、そのわずかな動きで、敏感になっていた肉芯がビクンと震えた。
性交の快楽を知ったばかりの若い身体は、貪欲に次を欲している。相手が情人なら尚更。
内壁を擦られ続けていた主にしてもそうで、楔の如く挟まっているものが体内で再び膨らむのを感じるや切なく喘いだ。

「主様、俺、このままもう一度……いいですか」

許しを求めつつも待ちきれずに緩く腰を揺らす。
それを咎めるように、また促すように、主が腿で糸雨の腰をギュッと挟む。

「構わぬ。存分に致せ」

指の絡まった糸雨の手を力強く握った主は、蠱惑の笑みを湛えながら情熱的に返した。
そんな主に糸雨は眩しそうに目を細め、尽きぬ想いを込めて唇を重ねた。
これ以上もう、言葉はいらない。


――二人きりの長い夜は、熱く、深く、濃やかに更けていった。


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