偽装



「ん・・・」

「あ、ユーリ、起きました?」

「・・・エステル?」

「もう、心配しましたよ?」

「悪ぃ・・・」



涙を落としたあの後、外に出ると

そこには偶然なのか、エステルがいた。

事情を説明すると、彼女は飛ぶようにユーリのもとへ行った。


そして今、ユーリはエステルに説教をされている。

その姿は、まるで恋人のようで・・・。


(・・・駄目だ)


すぐに悪い考えを浮かばせるのは私の悪い癖だ。

今は、彼の治療の事だけを考えなきゃ。


気持ちを切り替えようと小さく深呼吸をしようとした時、

ユーリがこっちを見た。



「助かった」

「・・・いえ、『医者』ですから」



どうやらエステルにお礼を言うように言われたらしい。

ユーリはこっちをじっと見ている。


その瞳は、明らかに私を『他人』として見ていて・・・。

ズキン、と心が痛んだ。



「・・・さてと。エステル、行くか」

「え?どこにです?」

「ほら、ノール港に行くって言ってたろ?」



ズキン



「だ、ダメです!安静にしておかないと・・・」

「大丈夫だって」



ズキン



「でも・・・」

「もしもの時は、エステルが治してくれんだろ?」



ズキン


ユーリが、笑う。

私じゃない人に、優しい笑みを浮かべる。


やめてよ。


心とは裏腹に、私の口は勝手に動く。



「彼女は、治癒術が使えるんですか?」

「まあな。今までに何回も助けてもらってるよ」



やめて。それ以上言わないで。



「そうですか。・・・なら、早く治してあげて下さい」

「え?」

「私たち医者は、病人に一刻も早く治ってもらうのが

 『シアワセ』ですから」

「・・・はい!」



彼女がユーリに治癒術を使う。

傷はあっという間に治る。



「世話になったな」

「平気そうでなによりです。

 もうこんな怪我しないで下さいね」

「出来る限り努力はするさ」

「もう!ユーリ!」



ユーリは私に背を向けてドアに向かう。


待って。置いていかないで。


どんなにユーリを追いかけようとしても、

私の身体は指一本も動かない。


待ってよ。






パタン、と。

ドアが閉まった。





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