思考
あの医者の手当てが良かったのか、
傷はそれほど痛まずにノール港に着いた。
「ユーリ、ちょっと買い物に行ってきますので、
先に宿に行ってください」
「買い物ぐらいなら手伝うぜ?」
「ダメです!一応怪我人なんですから・・・」
「・・・わかった。じゃ、頼むな」
「はい!」
元気良く返事をし、向こうへ走って行くエステル。
「そんなに急がなくてもいいんだけどな」
小さく笑いながらも、自分は宿に向かう。
そして、ふと頭に浮かぶ先ほどの医者。
(・・・?)
何で今彼女が出てきたのかわからない。
初めて会ったというのに、鮮明に思い出せる彼女。
初めて会った人間のことを
ここまで覚えているのは初めてだ。
(なんだってんだよ・・・)
何故か胸が痛い。
自分は、彼女の笑顔を見たことがない。
それだけで、胸が苦しく、張り裂けそうになる。
なんで、初めて会った人をこんなに・・・。
「あ、ユーリ!」
「・・・ん、ああ。エステルか」
考え事をしていたせいかどうやら足が止まっていたらしい。
買い物から帰ってきたエステルがこちらに走ってきた。
「どうしたんです?こんなところで・・・」
「いや、ちょっと考え事をな・・・」
「もう・・・。大丈夫です?」
「ああ」
エステルに引っ張られて二人で宿に向かう。
その間も、オレの頭は彼女のことでいっぱいだった・・・。
[前←]
[次→]
Topへ