悲愴
「・・・しばらくは安静にしておいて下さい。
結構酷い怪我でしたので」
「悪ぃな」
「・・・いえ。私は『医者』ですから」
『医者』
今はこの言葉が私の胸を押し潰す。
言いたい。私とユーリは恋人って。
でも、今言ってもユーリは混乱するだけ。
それに、私とユーリが恋人だと言ったところで、
ユーリは覚えていない罪悪感から無理にでも私に合わせようとするだろう。
そんなのはお互い苦しいだけ。
だから私は言えない。言いたくない。
「・・・参ったな」
「・・・どうしました?」
「いや、確かエステルとノール港に行く予定だったんだが・・・」
「っ・・・」
エステル。
ユーリと一緒に旅に出て、高度な治癒術でユーリの傷を治してきたお姫様。
正直、ユーリと一緒に下町を出て行った姿を見たとき、
不安と嫉妬で狂いそうだった。
「・・・大切な人なんですか?」
「まあな。一緒に旅をしてきた大事な仲間だよ」
ユーリの言葉を聞いた瞬間、私の心は真っ黒に塗り潰された。
前から思っていた。
自分はユーリとはつり合わないんじゃないかって。
自分みたいな恋より仕事を優先させるような奴より。
あの花のように笑うあの子の方がいいんじゃないかって。
あの子の方が、私といるよりユーリも幸せなんじゃないかって。
「・・・ちょっと待ってて下さい。
今、仲間の方々を呼んでもらうように頼んできますので」
ユーリの返事を聞かずに、部屋を出る。
ドアを閉めると同時に、頬を伝う冷たいもの。
「っ・・・・!」
泣いちゃだめだ。
そう思っても涙は流れ続けるのだった。
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