―たまに、苦しくなるんだ。

空を茜色に染め出した頃、サッカー部での部活が終わった。部活が終わってから、先輩達や信助達はユニフォームから制服から着替えていた。もちろん、俺だって着替えている。
今日も頑張ったと、言わんばかりにユニフォームは泥だらけで、額や首元は汗でびしょびしょ。肌に汗で濡れた髪がくっつくのが嫌で早く帰って風呂に入りたいが、その衝動を抑えてタオルで汗を拭き取った後、誰よりも早く部室から出て行った。

理由は、この部室に居ない部活内で唯一の女の子である、自分の幼馴染みである谷宮悠那を待つ為。
女の子という所で同じ部屋で着替えるのはどちらも躊躇がある。だから、わざわざ迎えに行かなければならないのだ。

『っお、天馬早いね〜』
「あ、ユナ」

肩下げ鞄の紐を片手で持ちながら悠那を待っていれば、意外と早く出てきた彼女。相変わらずのマイペースな彼女に何分か待たされた事もあったが、今日は中々早かった。

『帰ろっか!』
「ああ!」

今まで、サッカーの事にしか頭に無かった俺。もちろん今だってサッカーに夢中だ。だけど、もう一つ。夢中なのがあった。
脳裏で再生されるのは、小学三年生の頃の記憶。その頃の俺も、サッカーで夢中だった。だから、授業中はスゴくスゴく退屈で仕方なかった。体育だけが、まだ退屈しなかった気がする。
そんな時、俺の目の前にユナが現れた。
最初は帰国子女って事で日本語が通じなくて、話せなかったけど、好きな事がサッカーって分かった瞬間、友達になりたいと心から思った。
今では、退屈だった日々は、ユナが居たから全く退屈じゃなくなった。

『そうそう!今日さ、環が男子に喧嘩売っててね』

中学になってからクラスは別々になってしまったけど、全く寂しくなかった。だって同じアパートに住んでるし、部活になれば会えるから。
ああ、ほら。後ろ向きながら話してると転んじゃうよ。なんて、思いながらもそんなユナの姿が可愛くって、言えなかった。だからだろうか。
ユナが小石に躓いてお尻から思いっ切り転んだ。

『いっつ〜…』
「あーあ、だから言ったじゃん」
『…何も言われて無いんですけど』
「え、あ…そうだっけ」

口には出してないけど心の中で注意した、と口にすればユナが意味なっ?!と拗ねた顔で言ってきた。可愛い、なんて思いながら尻餅ついたユナに手を差し出して立たせようとする。それを見たユナは「かたじけない…」と顔を若干赤くしながら握ってくれた。
そして、手を思いっ切り引っ張れば直ぐに立ち上がった。

『天馬?もう離していいよ?』
「え?」

視線を自分の手にやれば、まだ繋がっているユナと俺の手。もう一度ユナに目をやれば、少し照れたような顔が。
それを見た俺は、どうしてもからかいたくなってしまいたくなり、握っていた手に少し力を入れた。男子と女子の力の差は違うから痛くないかな、なんて思ったけど多分大丈夫だろう。

「また転んじゃうといけないから俺が握っててあげるよ」
『うわっ、なんか偉そー…』

転ばないよ!と声を上げながら主張するが、自分から手を離さない所を見てまだ握っててもいいという意味だろう。それが更に嬉しくて、俺も顔が熱くなった気がした。そして、ユナの手を握っていた手に思わず力が入ってしまい、今度は「痛いよ天馬」と注意された。
ごめん、つい。

「あの、さ…」
『ん?』

緊張してきたのか、信助や葵を連れてくれば良かったかも、と覚束ない歩き方で思った。
ヤバい、今何を言おうとしたか忘れちゃった。
必死に思いだそうと、目を上にやったり自分の前に伸びる影を見てみるが、やはり思い出せない。自分の影とユナの影をよく見ると、自分達は意外に近い距離に居ると改めて思った。
その所為か、更に緊張が走ってきた。いつもの俺じゃない。手に汗が出てきそうだ。

「あ、明日も晴れればいいね!」
『そうだねっ』

俺の瞬時に出てきた思い付いた言葉に、ユナは少しだけ疑問符を浮かばせて首を傾げたが、直ぐに人懐こそうな笑みを浮かばせて茜色に染まった空を見上げて答えてくれた。
だけど、明日の天気とか本当はどうでも良かったんだ。ただ、ユナとずっと話していたいんだ。
きっと、こういう風にずっと一緒に居たいなんて思える人はユナだけなんだろうな、なんて思えてきた。

だけど、きっとキミの頭の中には剣城しか居ないんだろうな、なんて思えてくる自分が居る。考えたくないと思っても、自然と思ってしまうんだ。
今日だって、パス練習の時剣城を自分から誘ってやっていたんだ。長年の幼馴染みっていう事だろうけど、やっぱりどこか嫉妬してしまうんだ。
今まで、ユナの隣は俺だったのに、って。

あと少し俺がキミを大切に想えたら
なんて、

諦めなきゃって理由がたくさんあるけど、好きだって一つの気持ちには勝てないんだ。

「っあ、ユナだ」
「本当だ」

次の日。
今日は午後の部活が無くて俺はユナの教室まで迎えに行く事にした。今日は葵と信助が居る途中で別れるものの、緊張は少しだけ和らぐ筈だ。
葵がユナの教室を覗いて、俺に振り返りながら「ユナだよ」と教えてきた。別に俺に言わなくても、と思いつつ俺は教室の扉を開けてユナを探した。
その時だった。

「――あ、」

今日はユナが日直であり、かなり遅くなると聞いた。だが、ユナ以外にも人は居た。だから探すのに数秒かかった。その数秒の内に、見つけた彼女。だが、何故か今日だけは少しだけ違った。
今の時間帯はかなり陽が落ちており、自分のクラスもユナのクラスも茜色に染まっていた。

それだけなのに、彼女の髪は夕陽でオレンジ色になっており、そんな茜色の空を見上げる彼女がとても綺麗に見えた。

『ん…?あ、天馬、葵、信助!』

数秒だった筈なのに、何時間もユナを見ていたかのような感覚に襲われた。だが、それはこちらに気付いたユナにより、何かに弾かれたかのようにハッとした。すると、ユナは鞄を持ってこちらに近寄ってきた。
どうやらユナは俺達が来るのを待っていたらしい。こちらに近寄ってきたユナに葵が「帰ろ!」と言って俺達は帰る事にした。

『そうそう!それでさ、京介がね!』
「……っ、」

四人で帰るのはほぼ毎日である。だから、ユナの話しを聞く相手は葵になる。俺は俺で信助と話しているけど、俺も女子の会話というのが気になってしまうのだ。
それを信助の話しを聞きながら、聞いていればユナの口から剣城の名前が出てきた。
自然と、作られた拳に力が加わった気がした。別にユナと剣城はカップルじゃない。ただ、剣城も俺と同じユナを好きなんだ。
だから、いつ俺の隣からユナが離れていくか不安で仕方がない。そこまで自分がユナに夢中って事が笑えてしまう。

「またねユナ、天馬!」
「また明日!」

片手を上げて、こちらに手を振ってきた。それに答えてユナと俺は手を振り返した。
葵と信助が自分達に背中を向けた後、俺達も踵を返して歩き出した。
いつもと少し覚束ない足取り。浮かない顔。そんな俺に気付いたのか、ユナが歩くのを止めて俺に振り返ってきた。

『どうしたの天馬?具合悪い?』
「え…?あ、ううん!大丈夫!」
『本当に〜?』

怪しいと言わんばかりに俺の顔を覗いてくるユナ。大丈夫と言ってみせるが、未だに怪しい目を送ってきた。いつも鈍感なのに、こういう時に限って敏感になるんだ。
困ったなあ、と苦笑気味になった時だった。
不意に違和感を感じる自分の手。あれ、自分の手ってこんなに冷たかったっけ?と思いながら、目をそちらに移せば、自分の隣から伸びてきていた自分より白い手。
それがユナの手だと分かったのは数秒だった。

『そんな覚束ない足取りだと、転んじゃうから私が掴んでてあげる』
「…っ!」

無邪気に笑って自分の手を握るユナ。あまりの不意打ちに天馬は呆気に捕らわれた。そして、冷たかったと感じていた手から伝わる体温が急に上がってきた気がした。
思わず目を逸らしてしまったけど、手はちゃんと繋いでいた。

「手、冷たいよ…」
『私は心があったかいからね!』
「え〜…」
『な、何さ!』

俺ばっかりからかわれている気がして、少しだけからかい返した。
すると、ユナは俺の言った事にムキになったのかブンブンと繋がれてる手を上下に振り回した。いきなり過ぎて腕が外れてしまうんじゃないかと思った。
そんな彼女を収めようと、俺は思い付きでユナに話題を変えた。

「明日も晴れればいいね」
『…そうだね、明日も明後日も晴れればいいね!』

話題を変えた事に怒るかな、と思ったけどユナはそれでも俺の話しを聞いてくれるのは嬉しかった。

だけど、やっぱり…

少し苦しい、かな…


end………

***

鏡音レンのordngeを元に書いてみました。
天馬が剣城と夢主が自分より深い関係にある事に嫉妬する、という…ね?
gdgd\(^p^)/
天馬好きだよ天馬((


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