俺は雷門を出て月山国光中へと転入した。
本当は雷門のサッカー部を続けてそのまま卒業したかったが、俺にも我慢の限界が来た。
理由は簡単だ、あの入学式の日…
松風天馬と谷宮悠那がサッカー部に入部してから俺達のサッカー部は崩壊に近くなった。
フィフスセクターのやってる事はおかしい?
そんな事気にしていたらサッカーなんてやって行けるかっつーの。
俺はそれでも構わない。成績もよくなるし、高校にも行きやすくなるからな。
「彼が、この学校に転入生で、サッカー部入部希望者だ。皆仲良くするのだぞ」
月山国光。
いずれ雷門と戦う事になるであろう学校。そこに俺は転入したのだ。わざわざここにしたのは言わずもがなアイツ等が起こしている革命とやらを潰す為。
どちらが正しいかを教えてやる為だ。
なのに、
「あれ、コイツ雷門中の奴じゃねえの?」
壱片逸仁。
一言で言えばコイツは馴れ馴れしい奴。しかも俺と同い年と来た。
そいつはミーティング中にも漫画を頭に乗せて居眠りなんかしている場の空気も読めない奴。少なくとも俺の第一印象はそうだった。
「何でここに居んだよ?」
「雷門を潰す為に転入したんだよ」
「うわっ…」
逸仁はそう言うと軽蔑のような目で俺を見てくる。理由を言えば尚更だ。
「革命を起こしている雷門を潰す為に俺はここに来た」
「うむ、良い心がけだ」
コイツは月山国光のキャプテンの兵頭。兵頭はそう言って俺の肩に手を置いた。
「復讐って所かよ?」
「だったら何だよ」
「別に。俺には関係無えからな」
そう言って頭に乗せていた漫画を机に置き、傍らに置いてあったボールを片手に持ち、そのままミーティングルームから出て行ってしまう。
「アイツの事は気にしなくて良い」
「気にしもしねえよ」
何せ、アイツからはどことなく松風や谷宮の面影が見える…
ムカつく奴だ。
そんな事を思いながら俺は月山国光のサッカーの練習をやり始めた。
…………
………
放課後…と言うより部活終わり。着替え終わった俺は一人で帰る支度をしていた。
ポーンッ…
不意に、グラウンドの方からボールの音が聞こえてきた。
サッカー部の練習はもう終わったというのにどこの何奴がボールを使っているんだ…何故か音を聞いた瞬間、イライラと腹の中が黒い物が襲ってるのが自分で分かる。その感覚は以前自分が天馬と悠那の練習している姿を実際に見た瞬間と似ているのだ。
「…!」
苛立ちや不信感に、グラウンドを見ればそこには制服でリフティングをしている壱片逸仁の姿。
何となく、そんな気はしていた。アイツが無駄に練習してるんじゃないか、と。
「…そんな所で何してんだよ?」
「…気付いてたのかよ」
「殺気が立ちまくりだっつーの」
殺気…?
ふと、近くにあったガラスに映る自分を見やった。
そこには眉間に皺を寄せる自分の姿。自分から見ても随分醜い姿だ。アイツの言う殺気も何となく感じられる。
「俺も随分嫌われてんのなー…」
何なんだコイツ…
谷宮みたいなマイペースさだな…これ…
だからこそ苛立って、ムカついて、吐き気も覚える。眉間に皺が寄る。それも深く、これではいつか皺が深く刻まれるだろう。何を考えているのか、何に対して笑みを浮かべているのか。訳の分からない人物。兵頭や監督や他の皆もそんな事を言っていた。
「一応言っておくけどな」
俺の思考を遮るかのように言う逸仁。逸仁はボールを胸で受け止め、足の下へとやった。
「俺、フィフスセクター嫌いなんだよねー」
「…!」
笑顔で言い放つ逸仁。
月山国光中はフィフスセクターに飲み込まれていると聞く。なのにコイツは…
「“何故”って顔をしてんな」
「…当たり前だ」
「…至って理由は簡単だよ」
――フィフスセクターのやり方が気に食わないんだよ。
「俺は、絶対ぇお前らみたいには飲み込まれねーよ」
「フィフスのサッカーは正しいのにか?」
「…正しい?」
逸仁は俺の言葉を聞くなり、急に鼻で笑った後にくっくっくっと喉で笑い出した。
「…革命、」
「……」
「俺は大賛成だね」
雷門は正しい事をしていると思ぜ?
と怪しいような笑みを浮かべる逸仁。その笑みが何故か俺をイライラさせる。いや、言動がもう既にだ。成る程、フィフスに飲み込まれていないのはコイツだけか…
つまり、俺の敵…コイツを兵頭達に言いつければ月山国光から出て行くのか?
「あー俺がこう思ってる事は、皆知ってんぜ?」
「なら何故お前はまだサッカーが出来る?普通だったら追い出されている筈だが?」
「んなモン簡単だ。
追い出せないだけだよ」
「…は?」
逸仁はボールを持ち、そのまま蹴飛ばす。
そのボールは真っ直ぐに俺の横にあったボール籠に入った。チャラい容姿だが、技術はあるらしい。
「俺、化身使えるんだよねー」
「…寝言は寝て言えよチャラ男」
「(チャラッ…!?)…逸仁だって、自己紹介されただろ…」
「ふんっ、お前はチャラ男で充分だ。何耳にピアス付けてんだ」
「付けたくて付けてんじゃねーよ」
「はあ?」
コイツと話しているとどんどん訳の分からない方向にいく気がする。ピアスを付けられるという事は耳に穴が開いているという事。つまり、コイツは意図的に開けたとしか思えない。ソイツの左耳に付いている金色のピアスがキラッと光った瞬間に、逸仁は舌打ちをして視線を南沢にやった。
「んじゃあ、俺はバカ沢って呼ぶわ」
「…言うじゃねーか」
「アンタにはバカが充分だからな」
ムカつく奴…
不意に話しを逸らされてしまったが、また笑みを浮かべてくる逸仁。
まるで松風と谷宮を見ているみたいで、腹が立つ奴…
だが、それ以上に…
「お前は、どこまで俺を楽しくさせてくれるんだ?」
それ以上に、コイツからは恐怖を感じられるんだ――…
end………
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