『……』

分かってるさ。自分も悪いって事。でも、守兄さん達のサッカーを…どうしても先輩達にも分かって欲しかった。それだけの筈だったのに、

『……』

悠那はもうすぐ夕方になる空を見上げる。
京介はやはりサッカーが嫌いになったのか…?いや、そんな筈がない。じゃなきゃあんなに強くなれない筈だ。

『…あ、』

暫くそんな事を考えながら歩いていれば、目の前に剣城が歩いているのが見えた。悠那は思わず声を発してしまい、今度は剣城にあっさりと気付かれてしまった。
振り向いた剣城は剣城でこちらを見て驚いた表情を見せたが、直ぐに嫌そうな顔をして見てきた。

『えっと、さっきぶり』

いや、昨日ぶりの方が良いかな、なんて思いながらも少しだけ笑って、片手を上げる。剣城は一回歩くのを止め振り返ってきたが、また再び歩き出した。悠那はそれを見て、慌てて自分も剣城の数歩後ろを歩き出す。

『…優一さんの足はどんな感じ…?』
「……」

悠那の問いには答えないどころか、剣城は歩みすら止めない。
それでも悠那はくじけず剣城の後ろからでも付いて行った。

『…ごめん、』
「…?」

悠那は歩みを止め、謝罪の言葉を再び剣城に言った。それがいきなりすぎたのか剣城も不意に歩みを止めてしまった。

『京介は、辛かったんだよね』
「……」
『サッカーが嫌いなんて、嘘だよね』
「…嫌いだ」
『嘘だね』
「!!」

悠那は剣城を真っ直ぐ見つめ、嘘をあっさりと見抜いた。嘘だ、と言われるのは分かっていたが、悠那の目があまりにも真剣だったが為、不意打ちを食らったかのように剣城は目を見開かせていた。

『京介が嘘吐く時は直ぐ目を反らすからね』
「今更幼馴染の振りをするのは止めろ」
『…私が小さい頃、勝手にいなくなったのは謝る…ごめん。でも私には分かってるよ、本当は京介はサッカーが好きだって』

私の幼馴染みだから。
そう言って悠那は小さく微笑んだ。だがその表情には悲しさも入っていた。それを見るのは今回で二回目かもしれない。確かこれは、黒の騎士団の時に悠那の胸倉を掴んだ時も悠那は笑った。作り笑いだと気付くのに時間はいらなかった。だが、それでも自分に向かって笑顔を見せて来るのだ。

バカバカしい、コイツの言葉は結局綺麗事だ。ムカつく。…何だよ、くそっ…

「お前さ、うざいんだよ」
『っお、やっと素が出たねえ』

振り返って来た剣城。先程よりは表情がマシになっていたが、やはりまだ警戒をしているのか、眉間に皺が寄っていた。
だが、そん威圧感にも負けずとやっと昔みたいに話せるねっと、悠那は笑って言えば、バーカと返されてしまった。何故だ。

『Σバカとは何さ!』
「バカにバカって言って何が悪い」
『バカを言った方がバカなんだ!』
「じゃあお前は二回言ったから大バカな」
『Σ!?』

コイツ…数年の間で知恵を付けてやがる…グスッ…久し振りの会話なのに何このやられっぱの感じ…
悠那は若干涙目になりながら屁理屈を言った剣城を見上げた。

『…いつか戻って来るって信じてるから…』
「勝手に言ってろ」
『じゃあそうしとく』

そこで悠那は悪戯っぽく笑い、剣城を見る。剣城は相変わらず無表情だった。だが、久し振りの会話は何故か分からないが、二人の心が少し暖かくなるのを感じられた。まあ、それだけで剣城の心情は変えられないが。

「俺はサッカー部を潰す」
『させないよ』
「…!?」
『私がそんな事させない』

悠那はこれ以上剣城に泥を浴びさせないようにそう言った。別にフィフスセクターを許した訳じゃない。悠那が真っ直ぐと剣城を見上げていれば、剣城の表情は先程と比べてかなり驚いている様子が見られた。
剣城が変わってしまっても剣城は剣城だ。なら、自分はいつまでも剣城の味方なんだ。

「分かってんだろ、俺が従わなきゃ兄さんの足は…」
『だからこそそんな事させられない』
「…!」
『……気付かないならまだ良いよ…でも、』

悠那は一回顔を下に俯かせて、また顔を剣城に上げた。剣城の表情は相変わらず驚いた表情をしていた。

『私は、京介を止めてみせる』

優一さんとの約束だから…剣城に直接その事を話したら少しでも変わってくれるかもしれないが、それでは剣城の為になれない。
悠那は真剣な顔で言い、また微笑みそれじゃ、と軽く片手を上げて、京介に背中を向けてそのまま帰って行った。

「止められてたまるかよ…」

絶対、兄さんの足を治さなきゃいけないんだ…!

京介はそんな事を思いながら、悠那の背中を睨むように見た。


…………
………

ー木枯らし荘ー

『え、天馬がまだ帰って来てない…?』
「…ええ、そろそろ帰って来ても良い位なんだけど…」

夕日が落ちた頃、木枯らし荘に帰って来た悠那は秋にまだ天馬が帰って来て無い事を聞いた。もう直ぐ7時を過ぎようとしている。自分は剣城と話していたから先に帰ると言ったが、天馬の方が先に帰って来ていると思われたが、まだ帰って来ていなかった。

『まだ気にしてるんだ…』
「…え?」
『実はさ…』

悠那は秋に部活であった事を話した。それを聞いた時、秋は少し驚いた顔をしたが、直ぐに微笑んだ。

「…悠那ちゃんはどう考えた?」
『…私は、本気のサッカーをしたい…』
「そっか…」

秋はそう一言を言って、悠那の頭に自分の手を乗せ、優しく撫でてきた。
その心地よさに悠那は思わず目を細める。すると、秋は撫でるのを止めて近くで汁を温めている火を見た。

「火、見ててくれる?」
『…え?』

秋は近くで鍋に入っている味噌汁を温めている火を指差した。悠那は秋の言っている意味が分からなかったが、素直にうん、と頷いた。それを見た秋はニコッとまた微笑み、エプロンを近くにあった椅子にかけて、どこかに行ってしまった。

『…天馬、』

もしかして、倉間先輩の言葉を気にしてる…?
確かに倉間先輩の言う事は皆にとって正しい事だったかもしれない。
だけどね天馬…一番大切なのは自分の気持ちなんだよ…?

悠那は密かにそう思い、静かに火もとを見た。

…………
………

「…ただいま、」
『!!天馬、』
「あ、ユナ…」

天馬が帰って来たのか、声を聞いた瞬間、悠那は玄関まで走って向かう。悠那に気付いた天馬は俯かせていた顔を上げて、はにかみながらただいま、と言った。だが、その表情からして部活の時より、かなり気持ちがスッキリしているように見えた。

「あ、悠那ちゃんありがとね」
『あ、どういたしまして…』

秋が火もとを見ていてくれた悠那にお礼を言い、悠那も一拍置いて言葉を返した。そして秋は椅子にかけておいたエプロンを掴み、それを着た。

「ユナ…」
『…あ、何天馬?』

秋が味噌汁の具合を見に行ったと同時に、天馬は顔を俯かせながら悠那を呼ぶ。悠那はなるべく優しく天馬に返事をし、天馬を見上げた。

「…明日、話があるんだ、」
『今日じゃ無理なの…?』
「今日は少し考えたいんだ…」
『うん、分かった』

悠那は天馬の言葉を聞いた途端に優しく返事をして、自分の踵を上げた。そして天馬の頭を自分より背が高いにも関わらず撫でた。

「ユナ…っ」
『っさ、食べよっか!』
「うわっ!?」

悠那は天馬の手首を掴んで、食堂へと急いだ。
頭を撫でられた所為と急に手を握られた所為で、天馬の顔は風呂に入るまで真っ赤だったそうだ。


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