次の日の部活の事。
万能坂中へと出発する前の日だった。

「俺は、フィフスセクターを倒すつもりだ。だが強制はしない。それぞれがどんな結論を出そうと構わない」

明日、フィールドで待っている。
円堂はそれだけを言い残し、先に去って行った。残された部員達。やはり空気が重く感じられた。

「俺の、望み…」

天馬は円堂の言葉を聞き、改めて昨日、秋とのやり取りを思い出した。正しいと思う答えは他人から決められている訳じゃない。自分が良いと思った答えなら、それを信じ切れば良いんだ。だから、悠那だって、昨日は胸を張って倉間達に言ったんだ。

「ユナ…」
『…ん?』

胸元へと持ってきた拳を解いて、天馬は隣に居る悠那を見た。悠那は去って行く円堂の姿を見ており、目を天馬の方に向けながらも言葉に耳を傾けてきた。

「話が、あるんだ…」
『…約束したからね』

顔を俯かせながら言う天馬に、約束を覚えていた悠那はそう目を細めながら微笑んだ。それを見た天馬は少しだけ気が楽になったのか、自分もまた顔が引きつりそうになるも笑顔を作って返した。

…………
………

放課後、全校の生徒達が鞄を持ち自分の家に帰って行った。天馬達もそうだ。だが、いつもは悠那と天馬と一緒に葵と信助も帰っていたが、今日は気を使ったらしく、二人は今は居ない。
話しがある、とは聞いていたが、未だに天馬は話そうとしない。まあ、場所が場所であり、周りにも人が居るからだとは思うが、天馬と悠那の間には会話が無かった。だが、先に口を開いたのは天馬本人だった。

「…ユナ、俺さ、ずっとサッカーに正直でいたいって思ってきた。そうすればサッカーも答えてくれるって…」
『うん』
「でも倉間先輩に言われた時、俺のサッカーは皆に迷惑をかけてるだけなんじゃ無いかって思ったんだ」
『…うん』

自分のしてきたサッカーは間違ってきた事だと、天馬は思い始めてきた。悠那はその話しを黙って、聞くだけ。

「でも、昨日秋姉に話したら、

人の数だけ考え方があって、自分が正しいって信じてる事も、誰かにとっては間違いなのかもしれない。
だからこそ、大事なのは自分自身、俺自身なんだって」

そこで、悠那は何故秋があの時外に出たのかが分かった。勿論天馬を探しに向かったというのは分かっていたが、励ましてくれていたのだ。
秋姉さん、それを伝える為に天馬の所に行ったんだ…
悠那は納得したように、「そっか…」と返した。

「俺、昨日ずっと考えたんだ…それで、」

昨日の悠那の胸張った言葉と、円堂の言葉で、やっと自分の中で決意が出来た。だが、続きの言葉に詰まってしまった。上手い言葉なんて言おうとはしていない。だけど、上手く言葉が出て来ない。そんな天馬に悠那は「んー」と声を漏らして、顔を空に移した。

『天馬はさ、どうしたいの?』

場所はいつの間にか河川敷に。二人は一旦河川敷にあるベンチに座って、悠那は天馬にそう聞いた。話しの内容は大体分かった。だから今、天馬が何が言いたいかなんて何となくだけど分かったんだ。だけど敢えて分からないフリをして聞いた。
すると、天馬は一度こちらを向いて直ぐに目線を落とした。

「俺は…俺のサッカーの気持ちに正直でいたい。間違いだなんて思いたくない…」

それがたとえ誰かに迷惑をかけているのだとしても、誰かに認められなくても、
サッカーに嘘は吐きたくない。
それが、天真爛漫な天馬だからこそ辿り着けた答えだった。それを聞いた悠那は、満足そうに微笑んだ。

『うん、そうだね。でもさ、天馬。一つだけ間違ってるよ』
「…え?」

悠那は天馬の方を向かないで、目の前に広がる川を見ながら言った。
今さっき誰かが自分の考えを間違ってると言って解決したって言うにも関わらず、悠那は自分の考えを否定した。しかもそんな笑顔で言われてしまうとどこか虚しく感じる自分が居る。天馬は悠那の言葉に、再び顔を俯かせてしまった。

『私がいつ天馬のサッカーが迷惑だって言った?』
「え、あ…」

確かに自分は倉間に否定された身であり、皆に迷惑がかかると思ってくる。だが、悠那は?小学校低学年の時から一緒に居た悠那は今までの中で自分を否定してきた事はあったっけ?喧嘩などはしてきたが、今まで…

『私は天馬の行動も言葉も、今まで迷惑だって思った事は一度だって無いよ』
「!!」

そう笑顔で言えば、天馬は顔を赤くしながら悠那を振り返った。悠那の瞳の中にはちゃんと天馬は映っており、今の言葉だって何だかむず痒い物だった。

「あ、ありがとう…」
『や、ヤダなあ!お礼なんて…!照れるなあ…』

天馬のお礼を聞いた悠那は、あはははっ、と微妙な笑い方になりながらもそう言い照れたように頬を掻いた。それを見た天馬もまた頬を染めながらはははっ、と笑った。いつの間にか重かった空気も、和やかな空気になり軽く感じられた。

『っじゃ、明日頑張ろっか』
「うん!」

空はもう赤くなっていて、周りにも殆ど人は居ない。そろそろ帰らないと秋も心配してまた探しに来てしまう。そう思った二人はベンチから立ち上がり、木枯れ荘へと帰って行った。

…………
………

今日は関東地区予選Aブロック二回戦、万能坂中対雷門中戦。

「(南沢さんは…来なかったんだ…)」
『(成績の為だったとはいえ、居ないと何か寂しい物があるなあ…)』

天馬と悠那は先輩達を見て、南沢がいない事を見て、少し悲しそうに顔を眉をハの字にする。こちらだって仲間意識だってある。自分がDFで困ってる時だって、アドバイスをくれたから感謝をしているのだ。だから自分の目標が南沢を止める事になっていた。
なのにこんなに早く辞めてしまうなんて。

「監督。俺達は、フィフスセクターの決定に従うつもりです。サッカーをする機会まで奪われたくないですから」

車田の言葉に他の先輩達も頷いた。だが、円堂はそんなのを気にせずに目線を天馬と悠那に移した。それと同時に剣城もまた目線だけを二人に移した。

「天馬、お前はどうだ」
「俺、考えました。考えて、考えて…それでも、やっぱり本当のサッカーがしたいです!!」

その言葉に倉間の顔が歪んだ。昨日あれだけ言われたにも関わらず、天馬の意見が変わらなかった事に更に苛立ったのだろう。

「でも、それは俺一人だけじゃなくて、皆と…雷門サッカー部の皆と本当のサッカーがしたいんです!!だからフィフスセクターと戦います」
「…ユナは?」
『私も天馬と同じです。たとえ、どんな事があっても、天馬やキャプテン、信助、三国先輩が一緒なら怖くない…私もフィフスセクターと戦います』

天馬が言い終わった後に、悠那に視線を移した。悠那もまた天馬と同じ意見に、円堂は小さく微笑んだ。
すると、

「僕もやります!!」

悠那の隣に居た信助が心強く悠那の後に言い、神道と三国もまた一年生三人に同意するように頷いた。

「――たーっく…仕方無いな…」

と、ここで急に呆れた声を上げた霧野に神道と三国が見た。

「神道、付き合ってやるよ」
「霧野…」
『先輩、』

悠那もまた霧野の方を向けば、霧野は悠那の頭をぐりぐりと乱暴ながらも撫でてきた。「先輩痛いっス」と言ってきたが、敢えてのスルーだ。
…元々俺は、お前と本気のサッカー、やりたかったかったんだ。

「(フィフスセクターの恐ろしさを分かったうえで六人か…)」

霧野もフィフスセクターの恐ろしさは十分に理解している筈だ。にも関わらず倉間達側から移つり変わったという事は、霧野も本当のサッカーをやりたかったから。

「(その中心にいるのは、いつも決まってこいつ等だ…)」

剣城は嬉しそうに笑っている天馬と悠那を見て怪訝そうに見る。

「(だが、それも今日までだ)」

雷門は、俺が潰す。
たとえどんな手を使ってでもだ…
剣城は天馬と悠那を睨み付けた。

「忘れるな、フィフスセクターの指示は0ー1。雷門の負けだ」
「サッカーに嘘は吐かない。そう決めたんだ」

天馬も今度は真っ直ぐと剣城を見た。剣城は不快そうに眉をしかめる。不意に剣城の方を向いた悠那と目が合った。

『ユニフォーム似合ってんじゃん』

自分が睨んでいるにも関わらず、悠那から剣城な近付いてくる。表情も皆が向けてくる表情ではなく何故か笑顔。何故そんな表情を自分に向けて来るのか、理由は分からないがその表情をし始めて来たのは昨日からだ。その度に腹が立ってくる。

「お前、俺が昨日言った事覚えてねえのか」
『しっかりと覚えてるさ〜』

と、間抜けな返事に若干イラッと来たが、剣城は相手にする事も無くだったら何故…と言おうとした。だが悠那の方が口を開くのが早かった。

『私は私のサッカーをする』
「…!」

悠那はそれだけ言い、天馬の所まで向かい、ストレッチを始めに行った。

「……」

気に食わねえ奴…

…………
………


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