『早いよ天馬!』
「何のこれしき!」
『誰っ!?』

休みも無事に明け、平日になれば朝から天馬はテンション上がり、この通り通学路で走ってばかり。そしてその後ろには疲れたと言わんばかりの顔をする悠那。天馬のテンションと比べ、大分違う様子。

『テンション上がり過ぎ!』
「だって勝ったんだよ!?嬉しくって!」
『限度ってもんがあるでしょうが!!』

それで休みの日でもテンションが上がってたのか…と内心愚痴りなが、私が必死に歩いて行こうと言っても走るのを止めてくれない天馬。確かにあの天河原中に勝てたのは自分だって嬉しい。きっと信助も、神童も、円堂も後から仲間になってくれた三国だって喜んだに違いない。
だけど、登校は別だ。走らなくとも悲しい事に学校は待っててくれている。サッカー部の皆だって。それに、今の時間帯で歩いて行っても間に合う時間だ。

『じゃあ天馬先に行きなよ…私後から行くから…』

ゼェハァと、肩で息をしながら言ってる悠那。
肩で息を吸うにも酸素が足りない。春なのに夏みたいな暑さだ。フッ、夏を先取りしたみたいだぜ…←

「ええっ!?一緒に行こうよ!!」
『や、もう充分一緒に行ったから今日は勘弁…』

最後にゴホッと咳払いをして、天馬の背中を悠那は押した。悠那に押され、天馬は反動的に前へと一歩出た。前に出た天馬は疲れる悠那を見て、うーん、と考えるように腕を組んで頭を傾げた。

「……じゃあ、先に行ってるね」
『おー、転ぶなよ〜』
「ユナじゃないから大丈夫だよ」
『一言余計だ』

結構マジな顔で言えば、天馬はごめんごめん、と苦笑しながら謝ってきて、先に走って行ってしまった。謝る位なら言うな、と呟きながら歩いて学校へ向かう。

「あれ、悠那だ」

天馬の背中を見送った悠那がトボトボと歩いていれば、後ろから自分の名前を呼ぶ声が。振り返って見れば視界にちらつく茶髪の耳みたいなものが揺れていた。あ、これ知ってるぞ、と思い視線を下に向ければ、自分に笑いかけていた信助の姿があった。

『っあ、信助。おはよ〜』
「おはよ!天馬は?」
『先に走って行ったよ;』

天馬は先程走って行ってしまったので、今は一緒に居ない。その事を信助に言えば天馬らしいと返して来た。確かに天馬らしいが一緒に登校するこっちの身になってほしい、と思った悠那だった。

「そうなんだ…じゃあ僕も!」
『少年は歩くより走る方が好きなんだね…』
「あ、あははは…;」

乾いた笑い声を出しながら、それじゃっ!と片手を上げ、信助もまた走って行く。悠那もまた信助に軽く手を振り返して走り去った信助を見て、止めていた足を再び歩き出した。

『…元気だなあ』

そんな事を呟きながら、悠那は昨日の出来事を思い出していた。一つは自分の中にいる化身。そしてもう一つは京介の過去…
一人になるとどうしても考える事が多過ぎて困る。この癖の所為で情けない事に頭痛まで起こしてしまう。

『…京介も、辛かったんだよね…』

昨日は少し言い過ぎたかもしれない。とりあえず、京介に会ったら謝らなければ…
そんな事を思っていたら、自然と歩く速度が上がってきていた。

…………
………

ーサッカー部室ー

『おはようございます…』

部室の中に入れば何やら取り込み中のよう。近くに居た天馬と信助に悠那は近付き、状況を聞こうとした、が…

「南沢さん、この間の試合、中学に入ってから初めてでした。

……あんなにサッカーが楽しかったのは、」
『…!』

天馬の肩に手を置こうとした途端、神童からの声。
そちらに目線を移し、様子を見てみれば、神童の目は真っ直ぐと南沢を見ていた。

「そんなの分かってる、だがあれはあれだ。指示に逆らって、フィフスセクターが黙っていると思うか。お前達は廃部になっても良いのか?」

南沢のその一言により、部員達がまた気まずそうな顔をした。その反応を見て、天馬達も何の話かを嫌にでも悟れた。

「廃部!?」
「逆らって廃部になった学校はいくつもある」
「そんなのも知らないのかよ」

天馬が驚いたように声を上げる所を見てきっと天馬達も今さっきここに来たに違いない。すると、何も知らないであろう一年達に冷静に霧野と倉間がそう言った。
勿論知る筈が無い。
元々フィフスセクターすら知らなかった天馬達はそんな事実は知りもしなかった。
いや、知りたくなかった…

「それでこの前も創造学園が廃部にされました…」
『創造学園…?』

聞いた事がある…
そこの中学は由良姉さんが雷門に来る前に通ってた学校。あそこのサッカー部も廃部にされたのか…

「かなり強かった中学なんだ…それが“こんな勝敗なら廃部になった方がマシだ”って」
「…怖いんですよ」

逆らったら、創造学園のサッカー部のように廃部にされてしまう。
廃部になってしまったら、それこそサッカーが出来なくなってしまう。それが怖いから指示に従う。

「俺だって思いっ切りやりてえよ、けどサッカーが出来なくなるのはゴメンだ」
「全部の試合に指示が出る訳じゃないド…真剣にやんのは、その時で良いド…」

他の先輩もこの通り、フィフスセクターの指示に従うと言い出した。それには別に自分とは関係ないから本人の好きにすれば良い事の話しだ。言われなくても分かっていた事だ。

「神童、お前と気持ちは同じだ。でも南沢さん達の言う事もよく分かる」

霧野が小さく溜め息をしながらもフォローに入った。自分だって、霧野達の気持ちが分からない事も無い。だが…一つだけ分からない。
逆らわなかったら目を付けられてないなら、何故入学式の時に潰れかけたのか…?従っていた筈なのに?

「今まで通りやるしかないんだよ」
「お前達に付き合って将来を無駄には出来ない」

分からない…

『あ、今日は日直だったな…』

倉間や南沢の言葉を聞かず、悠那は考えるのを止め、直ぐに黙って部室を出た。

…………
………

「悠那!聞いたよ!勝ったんだって!?」
「うわあ、早いね情報ー」

あの後、部活に遅れながらも行って練習に参加してみたは良いが、やはり空気は一向に変わっていなかった。そして追い討ちをかけるかのように見た光景は練習に力が入っていなかった事。指示もまだ来ていないというのに、先輩達の様子は負ける気でいた。

「ウチのクラスメイトがサッカーの試合観に行ったらしいよ?」
『嘘?!誰…?』

環はその言葉にうーん…と顎に手を当て、更に顔を傾けて考える素振りを見せた。そして数秒考えてから「っあ!」と声を上げ、手を窓際にやる。そちらに目をやれば、そこには一人だけで窓を見ている男の子が見えた。

『誰だっけ…?』
「輝君!」
『輝?名字は?』
「っえ?名字…?名字は…」

あれ、何だっけ…
自己紹介の時はちゃんと言ったらしいが、何故か覚えていないらしい。どうやら名前を覚えるのが苦手というのは本当だったらしい。

「皆名前で呼んでるから分かんないや…」
『ふーん…っま、いっか…それより、環は試合勝ったの?』

輝君には後でお礼を言うとして、確か自分が試合の時は環はバスケの試合があったと言っていた気がする。その事を聞いてみれば、環は一度こっちを見て、数回パチパチと瞬きしてきた。そして、環は口角を上げて、腕を腰に当ててきた。
次の瞬間、自分の目の前に人差し指を向けてきたものだから妙に寄り目になってしまった。あとデコがジンジンしますよ環さん。

「よくぞ聞いてくれました!!40ー36で私達雷門が勝ちました!!」

ブイッと自分に向けていた指を引っ込めて二本指を立てて勝利を言って来た。バスケの勝利に素直にスゴい!と言ってはみたが、二言目に唖然とした。

「今のバスケ部の目標は“サッカー棟をバスケ棟にする”なの」

だから頑張っちゃった♪と悪意が無いのだろうが、ニコッと言われた為、若干ヒヤッとしたのは勘違いじゃないだろう。
今のサッカー部の状態が状態だから、サッカー棟も危ういかもしれん…
そんな事を話していると、授業が始まるチャイムが鳴り出した。
とりあえず早く何とかしないと本当にヤヴァイ…

…………
………


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