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化身の話しが終わった後、二人はそれとなく普通の会話をしていた。
サッカーの話しは勿論の事、授業の内容が分からない事や休み時間の過ごし方など。ごく一般的なモノで少し緊張していた雰囲気もいつの間にかお互い気軽に話せるようになっていた。

『じゃあ、私はこれで』

紅茶もすっかりなくなってしまい、用意されたお菓子も無くなっていた。時計の針が12を指そうとする頃に、悠那はソファから立ち上がった。もうそんな時間だったのかと、自分も改めて時計を見て急いでソファから立ったが、思えばお昼はこれからだった。

「昼、食べて行かないのか?」

そう、悠那は午前中に来たものだから俺と同じようにお昼を食べていない。丁度お昼になる時間なので、ついでだからと悠那を誘ってみた。聞けば三国さんも夕飯を誘ったらしいので、別に大丈夫だとは思う。何が大丈夫かと聞かれても分かんないが。

『っあ、はい。秋姉さんが待ってるんで、』
「秋姉さん…?そうか、分かった。気を付けて帰れよ」

お昼に誘ってみたが、断れてしまった。その所為か分からないが微妙な感情が自分の中から生まれた。悠那の口から出た人物が気になったが、恐らく木枯れ荘でお世話になっている人だろうと勝手に自問自答していた。(確か天馬と一緒と聞いたが)
俺がそう言えば、悠那は元気良く「はいっ」と返事をし、部屋の扉を開けた。

『今日は本当にありがとうございました』
「いや。俺も悠那と話せて良かった」

悠那が自分に頼って良かったと、言ってくれたように俺自身も悠那とサッカー以外にも学校の事とかも日常的な話しも出来て楽しかった。だから俺もその意味を込めて微笑みながらそうお礼を言った。すると、それを聞いてか悠那は動きを止めて、暫く自分を見てきた。その後に顔を急に真っ赤にしだした。どうしたのだろうか…?

『! あ、じ、じゃあ…また明日…』
「あぁ、」

何故顔を赤くしたのか分からないが、暫く見られた為自分もまた顔に熱が帯びて来たと同時に心拍も上げ始めた心臓の音。思ってた以上にバクバク言っているので、その音が聞かれないようにあくまで平然を保ち、そう軽く返事を返した。
すると、悠那はへにゃりと笑い、頭を下げて扉を閉めて行った。(可愛い…)
完全にこの家を出た時に俺は直ぐベランダの窓まで行った。窓からは悠那の歩く姿が見られたが、その姿を見た途端、静まり返ったと思われた心拍が再び脈を打ち始める。何故こんなに脈を打つのか自分でも分からない。
すると、その後にお手伝いさんが部屋に入って来た。きっと飲み終えたカップを取りに来たんだろう。そうだ、この人に相談をしてみようか。

「あの…」
「何でございましょうか?」
「俺、最近…悠那…あの子を見ていると胸が締め付けられる様にドキドキするんです…あの笑顔をずっと見ていたいと、思うようになってきたんです…」

病気なんでしょうか?と窓から見える悠那を見ながら言えば、お手伝いさんは少し考えた後にクスッとおかしそうに笑った。俺、何かおかしい事言ったかな…?と後ろで小さく笑っているであろうお手伝いさんを窓から見ながら、首を傾げていればこちらに視線を向けて来た。

「拓人様、それは…」

恋ですよ。
そこでお手伝いさんは俺に向かって優しく微笑みだした。

恋:相手を自分のものにしたいと思う、愛情を頂くという事。

その単語を聞いた途端、自分の頭の中で辞書が引かれた。意味が分かった瞬間、自分の顔が一気に熱くなるのを感じた。そして、窓から小さくなって行く悠那をその姿が見えなくなるまで…無意識にいつまでも見ていた。
お手伝いさん曰わく、顔を赤くしながら…

…………
………

『……』

神童家から木枯れ荘に戻る途中、悠那は数分前までの神童との会話を思い出していた。
化身をどうやって出すか、神童自身は勝ちたい想いがあっから出せた、と言っていた。だけど、そんな事言ったら毎日の如く思っている。まだ弱いのか…?自分の想いとやらは。勝ちたいと思って脈打った事は今までに無かった。寧ろあの剣城や神童、天河原の人が持っていた化身を見た時に脈を打った。
…やはり訳が分からない。理解出来ないけど、化身が自分の中に居るという事に若干の恐怖を持つ。あんな、驚異的な力を自分が持っているなんて、思いもしなかった。

『…京介は、どんな特訓して化身を身に付けたんだろ、』

拓人先輩みたいな初めて出す人は最初の内扱い難い事が分かったが、京介は違う。シードってフィフスセクターの元でどれだけ厳しい特訓をして来たのか。あんな恐ろしい程の力を持っている物を簡単に操る事が出来るなんて、天河原の隼総さんだってそうだった。
必殺技すら持っていない自分に化身が入ってるんだ。きっと私の中に居る化身だってうんざりしているに違いない。

『…そもそも、化身って出した方が良いのかな』

出せないなら出せないままで居るっていうのだって良いのではないだろうか、確かに今後の戦いでは必要になるかもしれない。だけど、化身だけが全てじゃない。自分の強さだってある。化身が使えるようになったら本当にその強さに甘えてしまうかもしれない。

『はあ…やっぱり全然分かんないや』

自分のペースで化身が出せたら、それで良いよね。と、まるで他人事のように言う悠那。勿論勝ちたいという気持ちはあるし、化身を早く出したいという気持ちもある。だけど、自分の中に化身が居るなら、自分なりのペースで、自分なりのタイミングで出せれば良い。世の中適度に適当に出来れば良い。別に本当に適当でやる訳じゃないけどね。

場所は代わり、稲妻町の商店街へ。
相変わらずそこは賑わっており、小さい子供も居れば良い品物を探そうとしている主婦達。八百屋さんにコンビニ。最近出来たであろうスポーツショップには新しいスパイクやボールが多々あった。随分昔まではそこに入ってガラス越しに輝くボールを見ては目を輝かせていた。

『うわ、新品…』

それは今も決して変わる事などない。悠那はガラス越しに輝くボールをはしゃぐ事はしなかったが、懐かしそうに見ていた。初めて見たお店だけど、どこか懐かしさを思い出される所があった。
そんな懐かしさを感じながらその商品を見ていれば、自分の後ろに人に紛れてよく分からなかったが、休みの日に関わらず学ランでいる不良を見つけた。長いポニーテールを揺らし、直ぐに人混みの中へと入ってしまったその人物。
自分の見間違いじゃない、見間違える訳が無いその人物を悠那は見た。

『京介…!』

剣城京介。
思わず声を上げてしまったので、慌てて振り返って見てみれば、自分の声に気付いていなかった剣城の後ろ姿。人を上手く避けながら向かう先は自分とは逆方向。
どこに行く気なんだろうか、と気になった悠那は何も考えずに剣城の後を気付かれないように付いて行った。

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