後半は雷門からのキックオフ。キックオフはFWである南沢と倉間からだった。

「どうする?」
「どうするったって…」

円堂に言われたからとはいえ、やはりどこか戸惑う所がある。しかしホイッスルが鳴った以上、試合は始めなければならない。倉間は釈然としないまま、南沢からパスを受け取り、後ろに居る浜野に回した。

「俺にボールを下さーい!」

開始早々、天馬が走りながら浜野にパスをくれ、と片手を上げて合図をすれば、倉馬からボールを貰った浜野は、走って行く天馬にパスを出した。

「ほいっ」
「ありがとうございます!」

浜野からパスを貰った天馬は敵陣地に向かって上がって行った。それを見ていた倉馬は目を見開かせ、ボールを持った天馬を見送りながら浜野に近付いた。

「おい!!何でアイツに渡すんだ!!」
「いやあ、パスくれって言われたし」

流石は浜野と言うべきか…倉間の言葉にも普通に対応していた。これも円堂の言うサッカープレイヤーの本能なのか、全くしまったという顔をしていなかった。倉馬は天馬に渡してしまうと絶対天河原に攻め込んでしまうと分かっていたらしく、やはり表情は歪んでいた。

「全く…ウザいんだよ」

西野空が天馬をマークするが、天馬はしっかり信助にパスを出した。一週間だけしか無かったが、毎日の練習のせいか、パスは前より正確さ、速さなど格段に上がっていた。相手の足元を狙った正確なパス。息も合っている。三国はその成長ぶりにかなり驚いていた。パスを貰った信助がドリブルをしていれば安藤がスライディングでボールを奪おうとしてきた。

「信助!!」
「こっのお!!」

走って来た天馬と星降が空中で零れ球をカットしようとする。それを天馬はヘディングで弾いた。

「(相手の足元を狙った丁寧なパス。迷いの無い思い切ったドリブル…それに、谷宮のドリブルも上手くなっている…ちゃんと練習して来たのかアイツ等…勝つ為に…)」

***

「てやあっ!!」

これは何年前かの幼い三国。三国はゴールに来たボールに飛び付いた。

「太一ナイスセーブ!!」

仲間に褒められ少し照れたようにボールを前線に上げた三国。練習をすれば上手くなる。上手くなるとサッカーがもっと楽しくなる。
だから必死でボールを追い掛けた。試合終了のホイッスルが鳴る。チームの皆が喜んでいる。

「太一が守ってくれたお陰だぜ!!」

そう言って自分の周りに仲間が集まって来る。

「太一!!やったわね!!」
「母さん!!」
「あのジンクスまた当たったなぁ」
「太一の母ちゃんが観に来たら絶対勝てるってヤツだろ?マジ太一の母ちゃんって勝利の女神だよな!」
「女神?!気持ち悪ぃ事言うなよ!」
「何照れてるんだよ?」
「太一は母ちゃんが大好きだからなぁ」
「バカ!んなわけねえだろ!」

そう言って仲間皆で笑いあった。

***

「(がむしゃらに走り回ってボールを追って…何で忘れちまってんだろうな、あの気持ちを…!)」

三国が自分の忘れていた思いを記憶の中で見つけた時だった。いつの間にかボールは喜多から隼総にセンタリングが上がった。

「うおぉぉぉっ!!」

その時、三国がボールに向かって走り出す。
そして、ボールを取った。今度は無意識なんかじゃない、ちゃんと自分の思いに応えて取ったのだ。

『三国先輩…!』
「「先輩!!」」
「三国先輩…」
「神童、信助、悠那、天馬…お陰で目が覚めたよ。俺も自分のサッカーをやる!!見たくなったんだ。勝利の女神が微笑む所をさ」

三国の目にはもうあの不安そうな色は無くなっており、そう言った三国は悠那にボールを渡して来た。

「神童、遠慮はいらない!“神のタクト”で決めろ!!今の天馬と信助、悠那ならお前のパス回しに着いて行ける筈だ。相当練習して来た様だからな。ゴールは俺が守る!行け!この試合勝つぞ!!」
「「「はい!!」」」
『神童先輩!!』

悠那からのパスを受け取った神童は直ぐに前線に上がって行く。そして、悠那も上がり出した。

「どーなってるんだよ、三国さんまで」
「ちゅーか俺に聞かれてもさぁ」
「神童…」

倉間、浜野、霧野も信じられないと言う感じに口々に言う。そんな三人の心中の中、神童は勢いを止めずに走り続ける。すると、喜多が神童のマークに付こうとしてきた。

「何も変えられないぞ神童君!仲間が一人増えたぐらいでは何も!!」
「変えて…みせる!!」

神童が喜多を抜き去った瞬間、神童は“神のタクト”で天馬に指示を出してパスを出した。西野空がボールを奪おうとする所を天馬は“そよかぜステップ”で抜き去った。抜き去った天馬は悠那にボールを渡して、ドリブルをしていく。そして神童の指示で先輩にパスをし、神童は信助とアイコンタクトを取り、神童がパスを出した。が、相手の選手に阻められボールが高く飛び、ラインから出そうになる。だが、それは信助が取った。

「ナイスパスですキャプテン!!」

信助が神童に向かって親指を立てて言った。

『信助もナイスジャンプ!!』

悠那もまた信助と同じ様に親指を立てて信助を褒めた。三国が改めて仲間になって、皆の勢いが上がった気してならない。やっぱり仲間は多い方が背中を任せられる。

「ふざけるな!!退け!!」

信助がドリブルをしていると隼総がそのボールを無理矢理奪って雷門陣内へ走って来た。

「冗談じゃないぜ、お前達には負けて貰わないと困るんだよ!!」

隼総は再びあの化身“鳥人ファルコ”を出して来た。

ドクンッ!!

『!!』

今度は強く体が跳ね上がった気がした。

「“ファルコ・ウィング”!!」
『しまっ…!』

隙を付かれてしまい、隼総に化身シュートをさせてしまった。
だが、

「させるかっ!うおぉぉぉ!!」

勢いのある化身シュートを何とか止めようと走る為に浮かせた足を前に出そうとしたが、天馬が先に走り出していた。そして、

『何あれ…』

天馬が体ごとシュートをブロック。それと共に天馬の背後からは神童達と似たような“靄”が漂っていた。

「この試合!俺達のサッカーで、俺達が勝つ!!」
「化身のシュートが止められるものか!」

突っ込んで行ったは良いが、威力に耐えられず、天馬は吹き飛ばされてしまった。やはり気合いだけでは止められる事が出来ず、天馬はその場から転がってしまった。

「なら、俺の化身で止めてみせる!!」
「吹っ飛べぇ!!」

化身なら化身、と神童も化身を出すがまだ不安定だったらしく簡単に破られてしまった。シュートは結局止める事が出来なかった。だけど、まだ諦めた訳じゃない。まだ自分達には仲間が居るのだ。背中を任せられるようになった仲間が。

「やはりダメなのか…」
「いや、シュートの力は確かに弱ったぜ!!このボール、絶対止めてやる…!!

“バーニングキャッチ”!!」
「何い!?」

あの化身と言えど、二回程威力にダメージを受けた。天馬のブロックで力を吸収、そして神童の化身が力を吸収したので化身シュートの威力も大分弱まり、三国にとっては止めやすくなっていた。

炎に包まれた拳をそのボールに叩き込み、やがて威力を失ったボールは三国の手の仲に収まった。

「バカな、化身のシュートを止めただと!?」
「こいつらが体を張ってくれたお陰さ!これで止めなかったらキーパー失格だ!!」

三年間ずっと試合で止めたかったボール。三国にとっては久し振りの感覚だった。シュートを止めた三国は勢いを止めさせないと言わんばかりに大きく振りかぶり、天馬にボールを繋げた。再び雷門の反撃。
天馬はボールを奪いに来た喜多を“そよかぜステップ”で交わして神童にセンタリングを上げる。

「神童!!きっと化身を使いこなせる!!自信を持て!!」

三国の言葉が神童の中に響いたのか、神童は自分を信じてもう一度あの化身を出そうとする。

「勝つ為にお前の力が必要なんだ…!!来い!!俺の化身、

“奏者マエストロ”!!」

神童がユニフォームに描かれている雷門マークを掴み改めて化身の名を呼んだ。すると、神童の背後から藍色の靄が現れ、化身を出現させた。あれが、神童先輩の化身。

『…化身』

四本の腕がボールを包み込み、水色の丸い球体に閉じ込めた。

「“ハーモニクス”!」

一度バウンドしたそのボールを神童が蹴り出した。神童の新たな必殺技が化身により、誕生した。

「くそっ!」

隼総も対抗するものの、直ぐに吹き飛ばされてしまい、ボールはキーパーが必殺技を出す前にゴールに入って行った。

ピ―――ッ!!

[2ー1]

負けると指示を出されたこの試合は天河原の勝ちではなく雷門の勝ち越しとなった。

「やった…やったあキャプテン!」
『勝っちゃった…!』

しかも神童だけがこの二点を取ったのだ。ベンチでも、ギャラリーでも、喜ぶ人達の顔が増えた。もう、これらが雑音やBGMなんて言わせない。自分達は勝ったのだ、指示に従わないで勝ったのだ。

「神童…」

ピッピッピ―――ッ!!

「ここで試合終ー了ー!!2ー1!地区予選緒戦!激闘を制したのは雷門中です!!」

その角馬の言葉で、再び会場は大いに盛り上がった。

「負け…俺達が…」

隼総は負けた事にショックだったのか、地に膝を付いていた。そんな隼総に喜多は肩を軽く叩いた。

「…やるじゃないか、神童君」

喜多の目線の先には疲労からか化身の所為か分からないが息を切らせている神童、そして、天馬と信助と両手を合わせ喜んでいる悠那の姿。

「目覚めるのもそう遠くも無いな…」


「不思議な奴だな、松風も谷宮も」

心に掛かっていたモヤモヤしていたモノを吹き払ってくれた…

「えぇ、まるでそよ風と気まぐれな風みたいな奴等ですね」

天真爛漫な天馬が吹かせるそよ風、マイペースな悠那が吹かせる気まぐれな風。そよ風も、気まぐれな風も、やはりどこか二人は似ていた。

「あの2人となら、変えられるかもしれない。この腐敗したサッカーを」

天馬は爽やかに笑い、悠那と信助も太陽のように笑った。

『勝った勝ったあー!!』
「……!」

無邪気な笑顔、無邪気に喜ぶ姿。あんな悠那、初めて見た。

「最近の俺…おかしい…」

あの笑顔を、ずっと見ていたい…
自分だけのモノにしたい、そう思った…


「本当に、勝っちゃった」

浜野は呆然と信じられないとでも言うように呟いた。

「しかもホーリーロードの地区予選、言い逃れ出来ない」
「おぁ…っ!俺達、もう終わりです…」

速水はううっと唸りだした。

「………」

霧野はベンチで喜び合うマネージャーを、そして、素直に喜ぶ悠那達を見て、少し複雑な気持ちになっていた。
色々な思いを部員達が抱える中、彼等の反乱は少しずつ進んでいた。

波乱はまだ、始まったばかりだった。




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