そして、ついに今日。ホーリーロードが開幕会場には沢山の人達が居て、会場もかなり広かった。やはり大会だけあり、会場もまた大きい。自分達の直ぐ隣には他の地区から来たサッカーチーム達。立つ姿で自分達の強さを強調してきているみたいで、体中に電気が走ったみたいにビリッとして来た。その中に自分は居る。きっとこの人達は指示とかでここに来れたのかもしれないけど、強さも充分にあるに違いない。何よりオーラが違うよなあ…;私を見ては何かコソコソ言うし…あ、今笑われた。
悠那はそれを見てからキョロキョロするのを止めて視線を下に落とす。すると、騒がしい音やら客人の声援やらの中から霧野達の声を拾い上げる事が出来た。

「監督は本気で勝つつもりなんでしょうか?」
「そうだとしたら、どうかしてるぞ」
「俺の進学、俺の人生お終いです…全部お終いです…」

霧野の疑問に車田はそう呟くように答えた。速水もまた霧野の声が聞こえていたのか、恐らくフィフスセクターの人達であろう人間を見て、力なく呟いた。

「監督が何と言おうが俺達はフィフスセクターの指示通りにやる」
「それしかないか…」

南沢のその言葉に、車田を中心に一年生以外が同意した。その会話は勿論自分達にも聞こえている訳で、天馬と信助、悠那は顔を見合わせた。

「先輩達負ける気なんだ…」
『分かってはいたんだけどね…』

やっぱり今、改めて言われるとこちらもこちらで気まずくなる。信助の不安そうな声に悠那もまた苦笑気味にそう呟いた。
すると、それを聞いた天馬が自分達に顔を向けてきた。

「信助、ユナ、俺達は俺達で頑張ろう。何とかなるさ!」
「そうだね!」
『何とかなるかっ』

天馬の励ましの言葉に、信助とユナは直ぐに笑顔になり、やる気を見せる。
実際の所は何とかなるのではなく、何とかするがあっているが、そんなのはどうでも良かった。
問題は、キャプテンである神童がこの試合どうするか。そして、三国の事も頭の中に残ってしまっていた。夕飯をご馳走になった実
ったので、どうしても腑に落ちない。三国の気持ちも分からなくも無いが、三国の母にも申し訳無い。
先輩達が指示に従うつもりだったら、自分は逆らうつもりで試合に挑もう。だから絶対に…

『絶対に勝ってやる…』


関東地区予選Aブロック第一回戦の相手は円堂に告げられた通り、天河原中。
場所は相手チームの天河原中のサッカーグラウンド。ここもまたかなり広く作られており、サッカー棟よりも大きくないかだった。
そんな事はどうでも良く、雷門は初戦から指示により敗退となっている。天馬と信助、悠那は必ずこの試合を勝つ為に動く。神童もその筈だが、三国達の事もある。表情を見ればかなり難しそうな顔をしていた。他の部員達はやる気無し。試合を盛り上げる為に多少は動いてくれると思うが、こちらにパスをしてくれなさそうだ。
完璧にこちらが不利な状態だった。

審判の指示でお互いのチームが一礼をして、ポジションへ付こうとした時だった。

「いやいや、初戦敗退とは気の毒なこった」
『…?』

その声は自分の目の前から。つまり天河原中の人の誰かが言った。紫色の逆立った髪、つり上がった目をした安藤恒之。
その言葉を聞いた瞬間、皆の顔が強張った気がした。自分達がそれを気にしてこの試合に挑もうとしている。それを嫌味っぽく言われるとどこか苛立つものがある。すると、その安藤の横に金髪の眼鏡、西野空が並んだ。

「おいおい、絡むなよ安藤。去年準優勝した雷門に勝てるんだ、機嫌良く行こうぜ」

この人もまた安藤と同じく、皮肉っぽくこちらを見ながら言ってきた。そちらは機嫌良くやろうと言われてもこちらは機嫌良くも出来ない。

「そうだな…っま、雷門中の皆さん。試合が盛り下がらないよう精々上手に負けて下さいよ?」

そっちも精々盛り下がんないように試合しろよ、と口には出さないが悠那もまた内心皮肉を言いながら、視線を他の方向へとやる。
すると、その二人の足音であろう物が徐々にこちらに近付いて来る音がした。そして、悠那の前でそれは止まり、悠那の顔に影が差した。
まさか声に出てたんじゃ…と若干ヤバッと言わんばかりに顔を二人にそっと向ければニヤニヤッて笑っていた。どうやら聞こえていなかったと見える。だが、眉間に皺が寄るのを感じた。

『……』
「おおっと、お嬢ちゃんがそんな顔したら可愛い顔が台無しだよ?」
「「!?」」
『!』

西野空がそう言うなり、悠那の顎をクイッと人差し指でちゃんと自分と目が合うように上げた。その行動を見て驚かない人は居ない。自分にはどうでも良いと言わんばかりに横目で見ていた倉間ですら目を見開かせていたのだ。
神童や天馬はそれを見て気に食わないと言わんばかりに西野空を睨み付けるが、西野空はそれに構わず悠那を見ていた。

「お嬢ちゃんも怪我しない内にお家に帰ったらどうだい?」

うっさいなあ…

「公式戦に出れるって事はライセンス持ってるんだろうけど、サッカーはキミみたいな女の子がやるもんじゃないよ?」

そんなのアンタの常識の中だけじゃん…

「実力はあるんだろうけど、聞くにはそれ、お情けで貰ったんだって?笑わさないでくれるかなあ?それで俺達に勝つつもり?」

やってみなきゃ分かんないだろ…

そう、ここに居られるのはあのお情けで貰った、自分にとってはただのカードにすぎない物。あんなカード、何度も要らないと思って来たが、サッカーがやりたいが為に手に残した。まさか、そんな情報までこの人達は探っていたなんて。自分の実力なんて、自分が一番分かっている。なのに、それを他人から言われると更に自分が腹立たしくて堪らない。誰か、誰かこんな自分を殴ってくれ。

「“女が男に勝てる訳無いだろ”」
『!!』

今まで我慢し続けていた物が、今の言葉にプツンと糸を切るように切れた。それを聞いた悠那は今まで平然を保っていたものの、瞳孔までを開かせて、眉間に皺を寄せた。と、同時に顎の下にあった指が瞬間的に離れた。

「安藤!!」

天河原中のキャプテンである喜多が西野空を手を放させ、安藤にも睨み付けた。西野空は叩かれた手を痛そうに軽く振り、安藤もまたヘラヘラと笑いながら喜多を見た。

「もう止めろ。言い過ぎだ」
「へーへー」
「すんませんね〜紳士なキャプテン」

喜多の制止により、飽きたのか安藤達はその後何も言わずにさっさと自分ねポジションへと向かって行く。

「ゆ、ユナ…」
『……』

言われ放題だった悠那を心配するように声をかけるが、何も返事が返って来ない。寧ろこの無言が返事としか思えない。

「メンバーの失礼を許してくれ…キミもすまなかった…」
『…いえ、』

天河原のキャプテンは他のメンバーとは違い、礼儀正しかったのか申し訳無さそうに神童に謝ってから悠那にも謝罪の言葉をかけた。悠那は言葉を返すは良いが、顔を喜多に向けずに俯かせていた。喜多もまた、許されたにも関わらずどこか腑に落ちなかった。だが、時間があまり無いのも事実。喜多は神童と向き合う形になった。

「…キミとは本気の勝負がしたかった」
「……」

そう言って、喜多もまた自分のポジションへと戻って行った。それを黙って見送った後、神童はまだ顔を俯かせている悠那の方を見た。

「…谷宮、大丈夫か?」
『はい』
「!」

悠那の表情は身長の差があってかあまり見えなかったが、声のトーンはいつもより低く、瞳孔も先程開いていた。明らかにキレている。
すると、悠那はそのまま神童達に背を向けて、自分のポジションであるDFの方へ向かって行くが、数歩歩いた所で歩みを止めた。

『潰す…』

誰に言った訳では無い。だが、その声は充分に自分達に聞こえており、まるでその姿はいつぞやの剣城みたいな言い方で悠那は再び自分のポジションへと走って向かっていく。
まだ自分のポジションへと向かっていなかった神童達はちょっとした寒気を感じながらも遅れてポジションへと向かった。


女と男の差が嫌いだった。


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