『「ご馳走様でした!!」』
「はあ、食ったー!」

と、腹をさすりながら言う天馬。どの料理も本当に美味しく、全て平らげてしまった天馬と悠那。極めつけには三国が作ったであろうプリンも食べて、お腹は殆ど膨れていた。

「天馬君と悠那ちゃんってポジションは?」
「俺はMFです!」
『私はDFが多いです』

三国母が二人にポジションの話しを振って来たので、天馬と悠那は躊躇いなく、教えた。悠那に関しては基本的にMFだが、DF経験があるので今はそこへと移って貰ってるだけ、との事。

「そうなんだ!それって…シュート決めたりするの?」
「シュートですか?まだやった事無いです…」
『練習とかではたまに打つだけでしたし…』
「じゃあ何が得意?」

その質問をされた天馬は待ってましたと言うように悠那よりいち早く反応し、答えた。

「ドリブルです!!ドリブルなら誰にも負けない自信があります!!」
『私はパスカットです!!私もこれは誰にも負けない自信があります!!』

と、悠那も天馬に続き、そう言った。ドリブルとパスカット。二人にしては全く正反対の特技だが、こう言い合える二人はどこか似ていた。だが、そんな二人に三国は呆れながら口を開いた。

「というか天馬はドリブル、悠那はパスカットしか出来ないよなっ」
「はい…」
『えへへ…』

胸を張ってみたは良いが、三国に図星を言われてしまい、苦笑いをする。その場面でもやはり似ている。
悠那はパスも充分に出来ているが、パスカットの方が高いというだけ。
ドリブルが出来てもパスやシュート、カットが出来ないと意味が無い。パスカットが出来てもドリブルやシュートが出来ないと意味が無い。
お互いがお互いの弱点を持ち、お互いがお互いに競い合えるのだ。似ているようで似ていない存在、三国はそう考えていた。
そして、そこで閃いた事があった。

「松風、パスの練習もしとけ。谷宮はドリブルの練習」
「へ?」
『ドリブル?』
「ドリブルとパス。それがサッカーの基本だ。ドリブルに加えてパスの制度が上がれば充分に戦力になる。パスだってドリブルがちゃんとなってないと正確に出来ないだろ?」

天馬はパスの仕方が少しだけ鈍く、悠那のドリブルに関しては三国曰わくまだ問題ないが、まだまだ甘いとの事。黒の騎士団戦の時や入部テストの時、弱点が見えたらしい。
まじ天馬の弱点はドリブルばかり目が行ってしまい、パスが上手く出来ていない。そして悠那はドリブルで相手を避ける時に必ず空中に蹴り上げる癖がある。これでは空中戦が得意とする相手に簡単に取られてしまうのだ。
それを聞いた二人は暫く考えるような素振りを見せるが、段々嬉しそうに顔を見合わせて頷いた。この練習なら自分達だけでも競い合えるし、何より天河原中の試合に備えられる。
先輩からのアドバイスは中々心強さがある。

「分かりました!俺、練習します!!」
『私も頑張ってドリブル克服します!!』

だが、何故三国は今自分達にアドバイスをくれたのだろうか。そんな事を言えば、一週間後に備えられている試合に活用してしまうのに。

「ホーリーロード、天馬君と悠那ちゃんの分のお弁当持って行かなくっちゃね!!」
「良いよ来なくても」

と、悠那が疑問に思いながら思っていれば、三国母がそう言い出して来た。内心その事を聞いて少しだけ喜んでいた悠那だったが、三国のその言葉により、直ぐ残念そうな顔をした。すると、三国母が顔を険しくさせながら自分達の方へ少しだけ身を乗り出して手を口元にやって来た。

「中学になってからずっとこうなの。絶対に観に来るなって」
『…あ、』

そこで、三国が断った理由が分かった。
確か三国が一年の時からフィフスセクターはもえあった筈。なら勿論、勝敗指示も出ていない筈だ。わざと負ける姿を母に見せたくない。
本当はどれだけ観に来させたいか。三国の顔を見れば直ぐに分かる。
だが、そんな事を言いたくなるのも無理が無い。自分だってこんな状態で両親を呼べない。
今のサッカー界は親子関係までもを支配するのだろうか。そう思って来ると悔しさが増してきた。

「そうだ、お茶入れるわね」
『あ、お気遣いなく』

これ以上迷惑をかけたくないと悠那はそう一言言うが、三国母は席を離れる時に悠那の方を向き、「大丈夫よ」と笑顔で返された。
仕事帰りなのに客である自分と天馬の為にお茶を入れてくれるなんて申し訳無さがある。悠那は「ありがとうございます」と一言言い、視線を三国母から三国へと移した。

「悪いな松風、谷宮…」
『「?」』

三国母がお茶を入れる為に水を汲んで行くのを見計らって、少しだけ小声で二人に謝罪の言葉をかけた。
二人はいきなりの事で、一瞬だけ頭が付いて行かなかったが、徐々にその謝罪の意味に気付いた。

「お前達は思い切りサッカーがやりたいだけなのに…」
「先輩だって同じでしょ?」

天馬もまたこの話しの内容を三国母に聞かれないように小声で三国に言うが、三国は一向に曇らせている顔を晴らさない。寧ろ先程より暗くなってしまっているように見える。

「俺はお前達とは違う」
『三国先輩…』

別に今ここで嘘を吐かなくても良いのに見栄を張るのはやはりフィフスセクターに従うつもりとしか思えない。
本当は本気のサッカーをやりたい。だけどフィフスセクターに逆らうつもりは無い。
矛盾するその気持ちにさせるのもフィフスセクターの思い通りなのでは?と考えてしまうのは可笑しいだろうか?昔は何の縛りも無いあのサッカーを楽しくしているのに、その気持ちすらも支配してしまうフィフスセクターはある意味スゴイ存在なのだろうか。

自分達は何を我慢する必要があるんだろう、何でせんな事を支配されなくてはいけないのだろう、何で皆平等みたいにされなくてはいけないのだろう…

…………
………

「ドリブル、ドリブル、ドリブル、パス!!」

三国家から帰る途中、天馬がどうしても河川敷に行きたいと言い出したので、河川敷へと来た天馬と悠那。晩ご飯も三国の家で食べてきたのでエネルギーはかなり溜まっており、気分も随分軽くなった。
何故河川敷に来たのかは、天馬のパス練習。多分三国のアドバイスを聞いて練習したくなったのだろう。それなら自分はドリブルの練習か。なんて天馬のやる気を見て悠那もまた闘志に火を灯していた。

天馬の数歩離れた場所に中身の入っていない空き缶の列。天馬は得意とするドリブルを交えながらその並んでいる缶へと当てる練習をしていた。ただ、これがドリブルだけの練習をしてきた天馬にとっては難しく、缶を当てようとするのは分かっているが、どうしても思い通りに缶に当たらない。
それをいつも天馬している石畳の所でドリブルの練習をしていた悠那は横目で見ていたらしく、一度ボールを足で止めた。

『天馬!まずはゆっくりやってみ!パスって意外と簡単だから!』
「う、うん!」

そう言って、間違えて倒してしまった缶をもう一度起こし、再びパスの練習を始める天馬。それを見た悠那もまたドリブルの練習を始めた。

すると、その時信助が河川敷にやってきた。何故来たかを聞けば信助も天馬みたく家でジッとしていられなかったらしく、負けると分かっていても全力で戦いたいとの事。確かに神童以外の人達はフィフスセクターの指示に従うつもりだとは思うが、自分達は違う。

「…負けないよ、俺達負けない…!!」

負けるつもりなんて端から無い。だから一週間後の試合だって勝つつもりで試合に臨む。天馬のその目を見て、信助と悠那は一瞬だけ呆然とした様子でお互い顔を見合わせた。

「そうだね…負けるつもりでやってもサッカー楽しくないもんね!」
『負けるつもりなんて無いけどねっ』

と言って胸を張ってみれば二人に納得するように頷かれた。個人的には苦笑が返ってくると思っていたのでその二人の反応に呆気を捕らわれた。別に自分はMじゃないが、自分が想像していた反応ゃより違う反応が来ると自分がどう反応をすれば良いか分からない。

「信助!ユナ!一緒にパスの練習やろう!!」
『――あ、』
「うん!!」

腰に当てていた腕を下ろして天馬を見れば、一瞬だけ10年前の円堂とダブって見えた。
その後に信助が元気よく返事をして、河川敷のグラウンドへと天馬と入って行く。悠那は、一人呆然としながらその二人の背中を黙って見送っていれば、そんな悠那に気付いた天馬がこちらを振り返って来た。

「?ユナ、やろうよ?」
『…あ、うん。そうだね、やろっか!』
「うん!!」

何だろう。どうしてか分からないのに、本当のサッカーが本当に戻って来る感じがしてきた。そして、サッカー自身が戻って来たそうにしているのも分かる。天馬もサッカーが泣いてるとか思ってたらしい。それで先輩達に笑われたとか言ってたけど、私も天馬みたいに言ってたかもしれない。サッカーが泣いてる、かあ…
難しい事なんて考えても仕方ないし、フィフスセクターの事とか正直何考えてんだか全然分かんないけど、余計な事を考えてサッカーするより、自分のペースでやる方が自分も楽しいし、サッカーだって嬉しい筈なんだよね。

『じゃあ、私パスカットするね!』
「ええ!?ユナがパスカットしたら絶対出来ないよ!!」
『私の屍を踏んで行け天馬!!』
「Σええ?!」
「超えるんじゃなくって?!」

ああ、早く本当のサッカーを皆でやりたいな…

ホーリーロードまで後一週間…

…………
………


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