「何で女がサッカーしてんだよー」
「でもコイツ意外と強いし…」
「どーせ、俺達に付いて来れなくて足引っ張るつーの」

女がサッカーするな。 男に適う筈が無い。 負けに行くモンだ。
そう言って私にサッカーをさせてくれなかった。

「またそんな事を言われたのか…」

別にチクった訳じゃない。だけどいつも自分の師匠であるフィディオがそれを知っていて、改めてそれを言われた事で泣いた事だってあった。そんな事があった所為か、自分は外に踏み出そうとしなかった。たまにフィディオの入っているサッカー部で、球蹴りをしただけ。

『もう慣れた…』

三歳から教えられても、基本的なサッカーはまだ難しい。だから球蹴りだけを毎日してきた。一人前になったらちゃんとした特訓をしてやるとフィディオに言われていたが、別にこれだけでも充分楽しかったから曖昧な返事をして来た。だけど、流石に小学生に上がったら円堂達の事もあったので強くなりたいという欲求が出て来た。
自分の従姉である由良だってサッカーをしているのに、自分はこの扱いだ。幾ら円堂達のサッカーを見てきたとは言え、実力の差だ。

「お前は何をしている時が一番楽しいか?」

三歳の時、円堂達がまたフットボールフロンティアで勝ち進んでいた頃だった。幼かった自分は由良しか懐いていなかった為、円堂達を警戒するように見ていた。一人で孤立をしていれば、円堂と初めて話したのはこの質問。”何をしている時が一番楽しいか”実に円堂らしい質問に自分もまたいつの間にか心を開いていた。

『…サッカー、』
「そっか!」

太陽みたいで、キラキラしてて、誰にも優しい雷門のキャプテンである円堂。初めて由良やフィディオ以外の人に心を開いた。
その時、円堂は自分にこんな事を教えてくれた。

男とか女とかそんなん関係無いんじゃないか?だってさ、

サッカー好きなんだろ?

『好きだよ、大好き…』

こんなに楽しくて、
こんなに沢山の人がプレイして、
こんなに…

『守兄さんが守ってきた物なんだから…』

だから、今度は自分達がそれを受け継ぐ番だ。絶対に負ける事は許されない。
試合にも、男の子にも、フィフスセクターにも…自分の弱さにも。自分の弱さを認めるんじゃなくって、自分の強さを見つければ良い。まだ、自分にはそれが充分だ。


「うん、」

俯かせていた顔を上げた悠那。表情は先程の表情より勇ましく、怒り、というより希望に近かった。その姿を見た円堂は、静かに頷いた。

そうだ。男女なんて関係ない。サッカーが好きという気持ちがあれば、自分を強くする。
あの西野空と安藤に言われて心情が乱れると思ったが、最早悠那の気持ち落ち着かせる物だったらしい。円堂が言うまでも無かった。

「後は、実戦でアイツ等に教えてやるんだ」

男女関係なく、サッカーは楽しめるってな!

…………
………

ボールは天河原中からとなった。悠那はDFに入り、車田はベンチスタート。
試合開始の長いホイッスルがこちらまで聞こえてきた瞬間に、喜多は隼総にボールを渡された隼総はボールを持ち、そのままドリブルで上がって行く。そこへ天馬がすかさず止めに入ったが、隼総は巧みなボール裁きであっさりと抜かした。

「あっ」

抜かされた事に声を漏らし、それでも諦めずに天馬は隼総を追って行った。

「負けが決まってるって言うのに随分と頑張るじゃないか」
「頑張らなきゃサッカーじゃない!!」
「はあ?…お前、面白い奴だ、な!」

隼総は喜多にパスを出した。そして、天馬に何かを言おうとするが、天馬はそれを聞いてはおらずに、喜多に回されたボールを奪いに行こうと追って行った。
そして、信助もまたボールを奪おうとするが、今度は西野空にパスされ、更に安藤にパスを出された。そして、安藤はそのままDFの所まで上がって来た。安藤の目の前には天城。練習の時などでは自分にアドバイスをくれたが、今はそれを無かった事にするように肩が落ちていた。

「邪魔だ、退けよ」
「くっ…」

天城は安藤の言葉に悔しそうにしながら交わされたフリをした。抜かされた天城の後ろ姿。大きいと思っていたその背中は今ではこんなにも小さく見えてしまう。だが、そんな事を今は考えてる場合じゃない。自分もDFに入らなくてはいけない。そう思い、走り出した時だった。
ゴールへ向かう安藤。それは天馬によりボールを手放してしまった。

「ユナ!!」

完全に自分の近くに居た悠那がボールに奪いに来ると思っていたらしく、天馬にボールを取られた事で細い目が見開かれた。そしてすかさず天馬は悠那にパスを出した。前より正確に来たそのボールを受け取った悠那もまたすかさず上がろうとドリブルをしていく。だが、直ぐに隼総が立ち塞がってきた。そこで悠那はフェイントをかけるように足でボールを操り、隼総を抜く事が出来た。

「なっ…!?」

交わした後、直ぐに悠那はボールを敵陣内に持ち込んで行く。

『…っ!』
「調子に、乗るなよ!!」

囲まれてしまった悠那。安藤がスライディングをしてきたが、悠那は近くに居た倉間にパスを出す。が、やはりわざとミスをされてしまい、安藤にボールを渡してしまう。味方にパスを出そうとしても敵にボールが回ってしまう。これでは仲間にパスを出しているつもりでも敵にパスを回しているみたいだ。天馬も奪われたボールを奪おうとするが、西野空に転ばされてしまう。

「天馬!!」
『天馬…!』

神童は思わぬ事故に天馬の身を案じるように声をかける。天馬に近かった悠那が天馬に近かった悠那が天馬に駆け寄り、しゃがむ。天馬はしゃがんだまま動こうとしない。怪我をしたのだろうか、と膝らへんに目をやるが泥が付いているだけで怪我などはしていないように見えた。
ボールは安藤から隼総に渡り、信助が取りに向かったがやはりあっさりと交わされてしまった。
先輩達の言った通り、実力はあるが、やはりプレイが無茶苦茶すぎる。
気付けば、ボールは喜多に回っており、ゴールへとシュートを打とうとしていた。決まってしまう…!
だが、その時三国の前に誰かの人影が現れた。

「神童!?」
「なっ!?」

放たれた喜多のシュート。ただ、それは突然現れた神童によってゴールに決まる事が無かった。その行動に敵も味方も関係なしに驚くばかりだった。そして、納得いかないと言わんばかりに西野空がわざわざ喜多の方まで来た。

「何してんの?この辺でうちに一点入れとくのが得策なんじゃないの?」
「点は入れさせない」

西野空の言葉がまるで無かったかのように、観客の声援の中から神童のその声は響いて来た。その言葉を西野空は「はあ?」と訳が分からないと言わんばかりに口にした。だが、神童はそれに対して顔色一つ変えなかった。

「俺はフィフスセクターの指示には従わない。本気で勝ちを取りに行く!」
「おいおい、試合中に冗談は止めてくれよ」
「俺は本気だ!!」

そして神童は喜多を抜き去り、そのままドリブルで上がり出す。隼総が神童のマークに入った。

「フィフスセクターに逆らったら未来は無いぞ」
「未来は自分で切り開くさ!」

フィフスセクターの者である隼総の忠告にも神童は揺すられる事なく、素早くパスを出す。ボールが向かった先は倉間がおり、その後ろには西野空がマークしていた。倉間にパスを通らない。ボールを受け取ったとしても倉間は西野空へとボールを渡してしまう。なら、どちらにもボールが渡らなきゃ良い。
倉間の足元まで来たボール。だが、倉間と西野空がそのボールに触れる前に、ボールはその場で回転し、それを利用して軌道が変わった。

「何だって?!」
「(神童は俺が動かない事を計算に入れてたのか…!?)」

それは西野空だけでなく、倉間もまた見開かせて神童を見た。自分が取らない事を分かっていて神童は敢えて自分にパスをすると見せかけたのだ。
その時、神童の手から光りが漏れ出した。これは、いつぞや一年だけで去年のホーリーロードの試合を見た時に何度も出て来た、必殺タクティクス。

『“神のタクト”…』

「天馬!!」

神童が振った右手から光り輝く一筋の光りの道標。光りの差した方向へ呼ばれた天馬がボールをトラップした。そしてそのまま天馬にどこに行くかコースを光りで指示した。

「悠那!」
『!…分かりました!!』

光りがこちらにも来て、神童が悠那の名前を叫ぶ。いきなり名前を呼ばれた悠那は少しだけ戸惑ったが、直ぐに返事をして、天馬からパスを貰う。そして、二人はワンツーパスで相手を二人抜き去った。

「お前等つくづくウザイんだよ!!」

神のタクトを使ってきた神童。神童の言った言葉は本気だと改めて理解した安藤は天馬に向かって行く。だが、天馬はそれに怯む事なく、正面からつっこんで行った。

「おいおい、正面から来るってか!?」
「“そよかぜステップ”!!」

天馬はここで漸く必殺技を出し、安藤を抜き去った。そして信助も上がってくる。天馬の前にはもう二人が立ちはだかった。神童は再び左腕を振り上げて、天馬のパスコースを指示。そのコースは上にパスを出した。
誰も居ない、と思いきや上がったボールと同じくらいの高さまでジャンプをしていた信助。信助はヘディングでまた敵を交わした天馬に戻した。

「ユナ!!」

悠那は天馬からボールを受け取り、そのまま上がって行った。

「させない!!」

戻ってきていた西野空がボールを奪おうと、悠那の前に立ち塞がった。悠那はそれを見て、走るのを止めてボールをしっかり踏む。
西野空の顔を見れば、先程の余裕そうな表情をしていなく、眉間に皺を寄せていた。

『さっき、言ってましたよね。“女が男に勝てる訳無い”って』
「ああ、言ったねえ。何?今更負けを認めるの?キミ」

その言葉を聞いて思わず悠那はプッと笑った。その様子は西野空にとってはかなり腹立つ部分があり、嘲笑っていた表情はまた直ぐに不機嫌そうな表情へと戻った。

『まさか。確かに力勝負では貴方にもここに居る皆にも負けるかもしれない。だけど、私は一つだけ男の子に勝てる自信はあります』

それは…と言った所で、悠那は動き出しボールを持って西野空に向かって走って行く。不意打ちを付かれた西野空だったが、まだ反応が出来る範囲だったので直ぐに動く事が出来た。
力勝負で勝てなくとも自分にはまだ伸ばせる能力がある。
西野空に近付いた悠那はボールの攻防へと入った。悠那が右に動けば西野空も左へと動き、悠那が左に動けば西野空もまた右に動く。なら…



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