ー放課後ー

「それっ!!」

午後の部活動はあったにも関わらず、人は誰も来なく一年生達はいつも通りにサッカーの練習をしていた。
信助がヘディングしたボールを天馬が上手くトラップをしていた。

『天馬!』
「うんっ!」

トラップした天馬は少しだけズレてしまったが、悠那にパスを出した。悠那はそんなズレたパスにも気にせずにトラップして走り出した。天馬達もまたそれに続いて走り出す。

『天馬!』

悠那からのパス、だが天馬はそれをトラップし損ねてしまい天馬の顔にボールが当たってしまった。勢いが無かったボールだとはいえ、ゴスッという鈍い音が天馬の顔から聞こえ、天馬はそのまま尻餅をついてしまった。

「いたっ!」
「天馬ー!」
『ごめん天馬!大丈夫?』

信助と悠那は直ぐさま倒れてしまった天馬に駆け寄って心配そうに覗き込む。天馬の顔を見れば、先程当たったボールの跡があり、少しだけ真っ赤になっていた。それを見た悠那は申し訳無さそうに表情を曇らせた。そして次に「ごめんね」ともう一度念を押して謝った。

「大丈夫だよユナ。上手く受け取れなかった俺がいけないからさ」

そう言って頬を抑えながら悠那を見上げる。それを見て悠那は眉をハの字にしながらも安心したように笑った。だが、天馬は直ぐに顔を俯かせてしまった。

『天馬?』
「キャプテン、どうするつもりだろ…」

勝ちたい気持ちはあるが、先輩達を巻き込みたくない。神童はそう言っていたが、正直難しい所だ。もしかしたらまた指示に従わなければならない、と言うんじゃないか。天馬もやはり考えざるをえなかったらしい。それを聞いた信助もまた気にしだした。
追い討ちをかけるように、とうの神童さえも部活に出ないで帰ってしまった。

「キャプテンがやる気でも先輩達があんな感じじゃ勝てっこ無いよ…」
「……」

その信助の正論な言葉に天馬は再び顔を曇らせた。沈黙が続く中、悠那は無言で足元に転がるボールを頭上に広がる大空に向かって蹴り上げた。
ポーンっと上がったボールは、数秒だけそこにあったが、重力に従って落ちて来た。
そこで一年生達の練習は終わり、解散となった。

…………
………

部活が終わった頃、悠那と天馬は河川敷に来て、天馬はそこにある階段に座り込んだ。天馬は悠那に先に帰ってても良いと言ったが、悠那もまたそんな雰囲気じゃなかったので、一緒に居るとの事。それ以外、暫くお互い話さずにただ河川敷のグラウンドに流れる川を眺めていた。すると、隣にもう一つの影が伸びてくる。
通行人だったら普通に自分達の後ろを素通りしていくが、その影は自分達を素通りして行かずに横で止まった。止まるという事は自分達を知っている人物なので、誰だろうと横目で見れば、そこには自転車を手で押しながらこちらを見ている三国だった。

『三国先輩…』
「おう」

そう悠那が声をかければ、三国もまた優しい口調で反応をしてくれた。その様子を見て、今朝のような怒りは静まっていたらしく、こちらも気分が自然と軽くなれた。すると、天馬も三国の存在に気付いたのか、気まずそうにしながらも立ち上がり、三国と向き合った。

「三国先輩、さっきはすみませんでした」
『私も、生意気言ってすみません…』

三国に天馬が先程の事を頭を下げて謝り出すそれを見て、悠那も頭を下げて天馬と共に謝った。自分達の意見も大事だが、周りの人達の事を考えて発言するのも大事だと思っていた。だから、あの時の発言はもう少し控えれば良かったのだ、と感じていた。
その二人の姿を見た三国はいつも自分達に向けてくれていたあの笑顔をまた向けてくれた。

「気にするな、俺も言い過ぎた」

三国も悪気は無かったらしく、二人に自分も悪かったと言った。大分部室に居た時よりは落ち着いていたので、こちらも安堵の息を吐いた。場の雰囲気が和やかになり始めた時、ふと視線が三国が手で引いている自転車の籠に目が行った。白い袋は誰でもよく見るレジ袋。中身は少しだけ見えており、恐らく買い物の途中だったのだろう、野菜やら調味料やらが入っていた。

『お使いですか?』
「今日は俺が晩飯登板なんだ」
「晩飯当番?先輩がご飯作るんですか?」
「まあな、母さんが仕事で遅くなる日だけどな」

これは驚き…中学三年生で受験が大変そうな時期にしかも男性がご飯を作る人なんてめったに居ないとは思うが、三国は母親想いなのだろう。全く嫌な顔をしていなかった。寧ろ嬉しそうにしている。
自分は今、両親がイタリアに居て親孝行が出来ていない。だから、イタリアに帰る機会があったら、いっぱい親孝行しよう。

「へ〜、料理かあ…スゴイなあ!」
『私達あまり作った事無いもんね』

二人がそんな事を話している中、三国は天馬の頬に付いている泥を見つけた。きっとこの泥はサッカーの練習をしていた時に付いたに違いない。そう思ってくると、段々微笑ましく感じる。よく見たら二人とも少しだけ汚れており、三国はフッと小さく微笑んだ。
そういえば、自分も昔はこんなになるまで練習をしていた気がするな、

「お前達、俺ん家来るか?」
『「っえ?」』

…………
………

三国の誘いに断る理由も無かった二人は秋に連絡をした後、先輩の家に向かう事にした。歩いていてもそんなに時間はかからず、暫くして着いた場所がどこでも見る一般的なマンション。
マンションの階段を上がって行き、三国家が住んでいる場所へと付いた。

「美味い!」
『うんうん!』

目の前の料理を口に含めば、二人からは美味しいの言葉。一人でこれだけの料理を作り上げた三国。母親が三国に料理を頼むのも頷けた。

「秋姉と同じくらい美味しいっす!」
「秋姉?」
『私達の親戚のお姉さんで、色々面倒を見て貰ってるんです』

木枯らし荘の管理人さんなんです。と付け加えて言えば、三国も納得したように頷いた。理由は違えどこの二人は今、親元を離れてそちらのアパートに住んでいる、と誰かから聞いた。それを今三国は思い出した。

「そういえば松風と谷宮は親と離れて暮らしてるんだったな…大変だろ?」
「秋姉が居るから平気ですっ、でも頼ってばかりじゃダメですね。俺も先輩みたくしっかりしなくちゃ…」
『そうだね、先輩料理上手いから教わろっかな?』
「おーおー!!もっと褒めろっ、デザートにプリン出してやる!!」

それを聞いた天馬と悠那は目を輝かせながら三国を見た。プリンは誰にでも(多分)愛されている食べ物。貰って嬉しくない人はまず居ない筈だ。イエーイ!!と悠那と天馬は手をパチンッとハイタッチさせて、喜びを表現していた。
すると、そんな事をしていれば、玄関の方から声が聞こえて来た。声的に女性。どうやら三国の母親が帰って来たのだろう。「ただいまー」という声と共にリビングへと入って来た。

「お帰り、早かったね」
「会議が早く終わったから。あら、お友達?珍しいわね」
「お邪魔してます!サッカー部の後輩で松風天馬と言います」
『同じくサッカー部の後輩の谷宮悠那です』

三国のお母さんと目が合った天馬は立ち上がり挨拶をし、軽く自己紹介をする。先輩達の前ではあれだけ緊張はしていたが、今はそうでも無かったのか、スムーズに自己紹介が出来ていた。悠那もまた遅れながらも天馬に続き、三国の母親に向かって挨拶をした。

「天馬君と悠那ちゃんね。サッカー部なの、練習の帰り?」
『「はい!!」』

と、二人が同時に返事をすれば、三国の母親は悠那の方へと視線を向けてきた。女の子なのに練習の帰り、というのが少し疑問だったのか、首を傾げていた。

「って事は、悠那ちゃんも選手なの?」
『え、はいっ』
「女の子なのに?スゴイわね!」
『い、いえ!…それほどでも…』

女子だから選手というのは誰からしても珍しく、スゴイと言われる確率が低い。なので、悠那は三国母にそう言われて、少しだけ擽ったかった。三国母の言葉に照れていれば、横に居た天馬が半目にしながらニヤニヤと笑って来ているのが見えたので、それが少しイラッとした。なので悠那は顔を笑顔にさせながら無言で自分の足で天馬の足を思い切り踏んだ。痛い痛い!!と小声で言っているが、聞こえない振り。それを見ていなかった三国母は悠那の前に座り、悠那も何事も無かったかのように座った。何とか解放された天馬も小さく「酷いよ…」と呟きながら椅子に座り直した。

「ねえ貴方達、今年こそ優勝狙ってるんでしょ?ホーリーロード」

座ったと同時にいきなり三国母に聞かれたので、天馬と悠那はどう答えれば良いか分からずに苦笑した。勿論、内心は「はい!狙ってます!」と言っているが、ここには三国先輩も居るので、なるべく言葉には気を付けたい。また今朝のような事になってしまったら、今度こそこんな風に話せなくなってしまうと思う。
すると、三国がそんな一年を見て自分から話しを逸らしてくれた。

「この子ったらサッカーの話しあまりしたがらないの。やっぱりこの年頃の男の子って難しいのかしら?ウチお父さんが居ないでしょ?だから色々分からない事が多くて…本当、困っちゃう。天馬君もお家ではそんな感じなの?」
「へ?あ、はあ…」

と、三国母のちょっとした愚痴に天馬は戸惑い気味ながら曖昧な返事を返そうとする。
もし、三国母の言う通りに天馬が親に反抗的だとしたらかなり自分的には嫌だ。自分の中には純粋な天馬しか居ない為、ギャップがありすぎて逆に想像が出来ない。
すると、天馬が困ったように自分の方を見てきた。

「ゆ、ユナ…」
『私、天馬の本性知りたいな』

なんて、クールに期待の眼差しを送れば「ユナのバカ!」と顔を赤くされながら言われた。バカは認めてやらなくも無いが天馬に言われると流石に傷付く。そうだな、プラスチックのハートに傷が小さく付く位のダメージかな←
ていうか、何で今バカと言われたのかが疑問だ。それと、今ので顔を赤くする要素がどこにあったのかが気になる。
ッハ!まさか天馬、本性を今まで隠していたのか?!
なんて勝手に被害妄想をしている中、天馬は目の前に出されているお茶を飲み干していた。

「(ユナの事でムキになってしまうなんて言えないよなあ…)」

結論、色々な事で悩む年頃。

…………
………


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