あの後、数分練習していたが円堂の指示により、一旦ミーティングルームへと戻った。各椅子へと座り、目の前にある大きなスクリーンを見る形へとなった。

「ユナ」
『あ、何?守兄さん』

自分も座ろうとした途端、円堂に呼び止められその場で立ち止まってみれば、手招きをされた。仕方なく椅子に座るのを止め、円堂の方へと歩いて行く。

「ライセンスカードって今あるか?」
『ライセンスカード?鞄の中にあるけど…』
「って事は持ってるんだな?」
『ま、まあ…』

手元には今は持っていないが、ちゃんと鞄の中にはある。それを言えば、円堂は何でもないと言い、スクリーンの前へと歩いて行った。
悠那もまた、そんな円堂に疑問を持ちながらも、珍しく天馬と離れ信助の隣へと座った。

「さてっと、」

円堂は一通り周りを見て、皆をここに呼んだ本題に入り出した。

「ホーリーロード初戦の組み合わせが決まった」

円堂は部員達の目の前にある天井まで届くスクリーンの前に立った。
一気に場の空気が緊迫した空気に変わりだした。

「雷門は天河原中と対戦する」

それを聞いた一年達以外の部員達が息を呑んだ。そこと戦った事があるのか、先輩達の顔が先程の練習より険しく見えた。
勿論自分は一年なので戦った事も無いので、聞いた事も無かった。

「天河原中かあ…」
「あそこは汚い手を使うって有名だド」
「ちゅーかラフプレーが多いんだよなあ」
「アイツ等普通に強いのに滅茶苦茶するから怖いんです…」

嫌な有名な割にはやはりホーリーロードに参加する以上弱くは無いらしい。皆が皆天河原中のプレーに呆れるように顔を歪めていた。
すると、スクリーンの方がパッとポジションであろう画像が表示された。

『あ、出てる…』

今回は前半戦から出られるらしく、自分はDFの方で表示されていた。天馬と信助も出ており、二人はMFとして表示されていた。

「天河原中は中盤の守りが堅いチームだ。左右から揺さぶりをかけるか、ロングパスで中央突破を狙うか…

神童!キャプテンとしての状況判断が鍵になる」

円堂にそう言われた瞬間、ハッとしたように神童は後ろを振り向いた。自分の後ろには剣城以外誰も座っておらず、剣城と目が合った瞬間、神童を嘲笑うかのように見下げてきた。神童の返事がいつまで経っても聞こえて来ないので、悠那は横目でそっと神童の方を見れば、睨み合うかのようにお互いに見ている剣城と神童。
そこで、何故か今朝の神童の様子が脳裏に蘇った。それと同時に嫌な不安が悠那に襲ってきた。
まさか京介、神童先輩に何か言ったんじゃ…

「…ッチ」

暫く自分は京介を見ていたらしく、直ぐに視線に気付いたらしい京介が自分と目が合った瞬間、嫌そうな表情をし、静かに舌打ちをし、視線を外した。勿論、悠那もまたその様子を見ていた為、虚しくなるも視線を剣城から外し、自分の足へと落とした。
神童は剣城から視線を外した後、スクリーンの前でまだ自分を見上げていた円堂に目を移した。そして、言いづらそうにしながら口を開いた。

「…監督は、フィフスセクターの指示を知らされてあないんですか?」

これで神童が浮かない表情をしているのかが今の言葉で分かった。フィフスセクターからの指示、つまり勝敗指示を円堂は聞いているのかどうか、神童は確かめたかった。神童の様子なんて見れば雷門と天河原のどちらが勝ちなんて分かっているが、もし円堂が指示を知っていても変わらないだろう。

「指示って…まさか」
「初戦から指示が出てるってのか!?」

一年生達はともかく、二年生や三年生にはフィフスセクターの指示は聞かされていなかったらしい。栄都戦の時は聞いていたから皆あんなに表情は曇っていたが、今回はまだ聞かされていなかった。なので、その神童の言葉にはかなり驚く反応をしている人達が目立った。
しかも倉間の発言からして、去年は初戦の指示は無かったと見える。

「結果は、結果はどうなんだ神童!」
「どっちだ!?どっちの勝ちだド!!」

当然ながら皆はかなり動揺をしていた三年生なんて今年最後のホーリーロードだ。勝敗指示はかなり自分達にとって重要なものだった。そんな勢いに神童は何も言えずに、ただ黙っていた。様子からしてもう分かってしまったが、それでも聞いてしまうのは、まだ小さな可能性を信じているからなのだろう。
だが、そんな事を知ってか知らずか、剣城はニヤッと笑い、ここで初めて口を開いた。

「2ー0で天河原中の勝ちだ」

その一言により、部員達は神童に問い詰めるのを止め、剣城の方に視線をやった。一瞬の静けさ。皆の表情なんか改めて見なくても分かった。だから自分も辛いし、先輩達だって。唯一その光景を笑って見れるのはフィフスセクターの人間である剣城だけだった。

「っ…信じられないド、」

一点も取れないまま、初戦敗退と来たら誰だって信じたくない。だが、これもフィフスセクターの指示なのだ。何と言われようと、結果が酷くとも、フィフスセクターの指示を聞く人達は従わなければいけないのだ。

「ちゅーか、俺達は前回の準決勝チームだぞ?それなのに初戦敗退っておかしいんじゃねーの?」

だが、受け入れるも何も浜野の意見には一理あった。準決勝した自分達が、他の所で負けてきたチームに負けるなんておかしい。
流石にそんな試合を見たらフィフスセクターの事を知らない人でも異変に気付く筈だ。
そこまでするという事は、あの時の試合が余程フィフスセクターの人達にとっては気にくわなかったという事になる。

「栄都学園との試合で逆らった所為です…そうに決まってます…」

速水のその嘆くような言葉を聞いていた倉間は、悠那達の方へと睨み付けるように目線を送ってきた。

「お前等が考えなしにやりたい放題やった結果がこれだ」
「……」
『…っ、』

確かに自分達はあの試合の時、指示に対して一点を神童に入れされてしまった。結果的には負けてしまったが、それでもフィフスセクターの指示に逆らった事になる。倉間に改めてその事を言われると、何も言い返せなくなってしまった。
三国はその様子を見て次に円堂に視線を戻した。

「監督、どうして言わなかったんですか」
「伝える必要が無いからだ」

三国の問いにまるで、その質問をされるのを想定していたかのように即答で返した円堂。伝える必要が無い=指示に従わなくても良い、という意味なのだろう。そんな円堂の言葉を聞いて、悠那は守兄さんらしいな、と小さく微笑んだ。
だが、皆が皆円堂の性格を理解した訳では無い。殆どの人はその言葉に理解出来ないと目を見開かせていた。それは勿論剣城も同じだ。円堂はそんな皆の反応を見ながら、ニカッと笑った。

「この試合、勝ちに行く!!」

円堂のその言葉に更に驚きの表情をする部員達。だが、剣城は直ぐに平然を保ち、監督で年上であれ円堂を座りながらも見下すように嘲笑った。

「っは、これは驚いた。フィフスセクターの指示を無視するんですか、監督」
「最初から負けるつもりで戦う試合なんて、あって良いものか」
「そんな事したら、今度こそサッカー部が潰されます!!」

誰だって円堂と同じで負けたくない気持ちはある。だが、そんな事をしかも二度もフィフスセクターからの指示を無視するのは流石にヤバい。今度こそサッカー部が潰される、と三国が円堂に訴えかけてきた。だが、円堂も考え無しにそんな事を言っていた訳ではなかった。
円堂は、三国の必死の訴えを見て、フッと笑った。

「誰だろうと、試合の前に結果を決める事は許されない」
「三国先輩!監督の言う通りです!本気のサッカーやりましょうよ!!」
『私も賛成です!!』
「無責任な事言うな!!」
『「っ…!」』

天馬と悠那めまた円堂の意見に賛同するように椅子から立ち上がって、そう皆に訴えかけるが、三国はそれが気に食わなかったらしく、珍しく声を荒げながら二人に怒鳴った。確かに三国や他の人達からしては天馬と悠那の発言は無責任なものだった。

「俺だって勝ちたいさ。でも、今のサッカーは楽しむだけのものざゃない」

フィフスセクターがある以上、自分達はサッカーを楽しむ事が出来ない。だから自分達も今のサッカーを楽しまないし、楽しもうともしない。
そんな当たり前な事を言われ、天馬と悠那はうっと、何も言えなくなってしまい押し黙ってしまった。
そんな二人の様子を見た三国は次に円堂の方を見た。

「監督も分かっている筈です!皆将来の為に、我慢してるって事を…」
「分からないな、分かろうとも思わない」

サッカーと向き合ってきた円堂だからこそ、その言葉が言えた。円堂だからこそ胸を張れる。厳しい言葉かもしれないが、それが今の円堂にとって伝えたい言葉だった。つまり、端からフィフスセクターに従うつもりはないと言いたいのだろう。
だが、これで円堂がフィフスセクターの人間じゃないという事は分かった筈だ。

「もしそんなサッカーがお前達の将来に役立つのなら、そんなものはサッカーじゃない」
「っ…付いて行けません。監督が何と言おうと、フィフスセクターの指示に従います!!」

その三国の言葉に車田と天城もまた同意し、ミーティングルームから出て行く。南沢も何も言わなかったが言っても無駄だと分かっていたらしく、三国達と一緒にその場から出て行ってしまった。すると、次には神童を除く二年生達も出て行ってしまった。
残された悠那達、空気は微妙な雰囲気に包まれていた。

『神童先輩!』
「勝ちたい気持ちは変わらない。ただ俺達の気持ちだけで、先輩や仲間の将来を左右して良いのか…」

そう言って、神童もまた他の部員達同様、その場から出て行ってしまった。

…………
………


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