『あ、ここが雷門…』

結局天馬に追い付ける事が出来ず、後半諦めて早歩きをしながら学校に向かっていた悠那は息切れをしながら自分がこれから通える学校である雷門中を見上げた。雷門中という証拠があのシンボルの稲妻マーク。これで雷門中と名乗ってもおかしくない大きさだ。初めて見た人だって直ぐに分かるだろう。

『大きいなあ…』

校門の両サイドにはテレビに映っていた満開の桜達。春風に吹かれて花弁を少しずつ千切り、悠那の周りを舞う姿は正に桜吹雪。こんな風景は小さい頃花見に行った時以来だ。やはりテレビで見る桜より実際この目で見た方が何倍も綺麗に見える。
何だか自分を歓迎してくれているようだ。

『なんてね、』

自分の周りに桜が舞う中、一人でそんな事を考えながら微笑み、先に行ってしまった天馬を探す為雷門の校門を潜った。

…………
………

ま、迷った…
校門を潜った数分後…適当に歩きながら天馬を探していた悠那はそのたった数分で迷ってしまっていた。
天馬何処に居るんだろ…天馬の事だからサッカー部の部室を探してると思うけど…
悠那の体力は走った所為か、かなりヘトヘトだった。それでも顔だけを左右に振り、キョロキョロと周りを見渡した。うん、何も無い。というのもアレなので、出来るだけ状況説明。木、木、木。以上。←

『はあ…部室何処だしー』

悠那は近くにあった壁に背中からもたれ、はあ…と何回目かの溜め息を吐いた。
これからどうしようか、と悠那は体重を少しだけ壁にかけていく。サスガなマンモス校と言うべきか、これだけ広ければかくれんぼだろうが鬼ごっこだろうが余裕に出来そうだ。何が言いたいかと言えば、これだけ広かったら迷うに違いないという事。人捜しは大変そうだな、と苦笑していれば、足に何かが転がって来て当たった。
それに違和感を感じ、顔を下に向けてみれば、白と黒の模様が特徴のボールが見えた。

『サッカーボール…』

どこからどう見てもサッカーボール。それは分かる、だが何故こんな所にあるかだ。周りを見てもこのボールを使ったであろう人達は居ない。寧ろ人なんて一人も居ない。誰かが無くしたヤツかな?と、思いながらそのボールを拾い上げた。そこでピカーンッと悠那の頭上に豆電球が光った。入学式までまだまだ時間はある。少しくらい遊んでも大丈夫だろう。

自問自答を頭の中で繰り返し、結果的に自分の欲に負けてしまい、そのボールを足元に落とした。そして、それを足や太股、踵などで上手くサッカー界で言うリフティングを下がスカートながらし始めた。
小さい頃にフィディオ兄さん達に教えて貰っただけあるや。女子の中ではかなり珍しいと思う。女子がサッカー好きで、サッカーが出来る事。

『へへっ、楽しいやっ』

一人で笑いながら足の上でボールを蹴る悠那。端から見たらかなり怪しく見られるが、案の定今この場には誰も居ないので、そんなのは気にせず、ボールを足から胸へ、胸から肩へとどんどん上げていく。ボールは悠那の体に触れる度に踊るように跳ねていた。
帰ったら天馬とサッカーやろうか、と考えながら足の上にボールを乗せた次の瞬間だった。

「何をしている!!」

『うわあっ!!』

後ろからのいきなりの怒鳴り声。今までリフティングに夢中だった為、全く後ろの気配を感じられなかった悠那は驚いた拍子に蹴っていたボールを思い切り頭上に蹴り上げてしまった。そのお陰で足に余裕が出来た悠那は猫背になりながら首だけを後ろにそっと向けた。

『あ…』

振り向けば、後ろにはウェーブのかかった肩までの長さの髪。色は灰色に少し茶色の混ざった髪。そんな髪を風に揺らしているのは青と黄色が特徴のユニフォームを着た男の人。左腕には恐らくキャプテンマーク。
整いすぎた顔立ちをしたその人をボーっとしながら見ていた悠那はすっかり忘れていた。

頭上にあったボールの存在に…

ゴスッ!!

『あたっ!?』

自分の頭上に蹴り上げたボールが自分の頭に丁度落ちてきた。その場に似合わない音と声を出してしまった悠那。そんな間抜けな悠那を見たキャプテンさん(仮)は眉間に皺を寄せるのを止め、呆れた顔をしながら溜め息を吐き、腰に手を当てた。
溜め息を吐きたいのはこっちだって同じだ。天馬に置いてかれるわ、迷子になるわで大変なのだ。と、心ではそう思うが決して口には出さない。相手が相手なので。ああ、地味に頭が痛いー…サッカーボールだって丈夫に出来てる。気を緩めていたとはいえ、いきなり頭当たれば痛いモノだ。それを知ってか知らずか、ボールはそんな自分を笑うかのように地面で数回跳ねて、自分の足元まで転がり動きを止めた。

「はあ…それはサッカー部用のボールだ。返して貰おう」
『え…?』

頭をさする悠那にキャプテンさんは片手をこちらに向けてきた。悠那は頭をさすりながら先程蹴っていたボールを見下げた。サッカー部用のボール。つまり、このキャプテンさんはサッカー部の人で、キャプテンを務めている人。
悠那は理解出来たのか、足元に転がるボールを手に取り、キャプテンさんの前に差し出した。

『知らなかったとはいえ勝手に使って、すみません…』

あーあ、入学式前に失敗したなあ…と恥ずかしさでか顔を赤くしながらもボールを返す悠那。キャプテンさんは「いや、こちらこそいきなり怒鳴ってすまなかった」と謝りながらボールを手に取り、そう笑顔で返した。うわ、キラースマイル。この笑顔で何人もの人を落としてきたのだろうか、と悠那は若干ズレた事を思いながらも顔を赤くした。大丈夫、これはさっきの恥ずかしさ所を見られてしまったから赤くなってるだけだ。
と、一人で必死に否定していればキャプテンさんが手に持つボールに視線を落とした。どうさたのだろうか?ひょっとして自分が蹴っていた所為でボールに傷とか…

「…新入生か?」
『え?』

あ、違った。
彼は悠那の胸元に貼られた赤い花のリボンを見てそう知ったのか聞いてきた。このリボンは先程校門に入った時に他の先輩がくれたもの。そうか、今日は入学式。新入生は全員このリボンを付けてるから一年生が誰かとか分かるんだ。と手を叩き納得するように頷いた。

『あ、はい。本当は友達と来た筈なんですけど、途中ではぐれちゃって…;』

まあ、殆ど私の所為なんだけどね。あはは…と乾いた笑いをしながら頭を掻く悠那。それを見たキャプテンさんも少しだけフッと笑った。
あ、笑った。なんて思っていれば、キャプテンさんは再び視線をボールに落とした。あ、さっきと同じ目だ。サッカーボールを嬉しそうに見るのに、どこか悲しそうにしている。何でそんな顔をしてるのだろう。

「……サッカー、するのか?」
『…え?』

いきなりのキャプテンさんの質問に、悠那は自然っ頭を掻くのを止めてしまい、キャプテンさんの方を見る。
こちらは黙って見ていただけなのに、「あ、いや…」と言葉を繋げようとするキャプテンさん。

「なんか、楽しそうに蹴っていたから…」

キャプテンさんは気まずそうにしながら悠那に改めて聞いてきた。
確かに先程は自分は女子でありながら普通にリフティングをしていた。その様子をこのキャプテンさんは見ていたのか。楽しそう…そうか、確かに楽しいとは感じていたがそんなに分かってしまう程自分は間抜けな顔をしていたのか。
質問されたなら答えなければ、と悠那は嘘を吐く必要も無かったのでうんと頷いた。

『はい。大好きです。だから部活はサッカー部って決めてるんです!』
「…!!」

そう、自分も天馬と同じサッカー部に入りたかったのだ。聞けば10年前の雷門サッカー部は部員の人数が足りなくとも女子も入れたと自分の従姉から聞いた事ある。悠那の言葉にキャプテンさんは思わず肩を震わせた。だが、その様子に気付いていなかったのか、悠那は更に言葉を続けた。

『あの、もしかしてサッカー部のキャプテンですよね?』
「…あ、ああ…そうだが…」

もしかしてこの新入生、サッカー部のマネージャーになる気か…?どもる声を出そうと必死に返事をすれば、彼女は小学生のような無邪気な笑顔で嬉しそうに笑った。(不覚にも可愛いと思ってしまった…)
やはり小学校を卒業したばかりなのか、まだ小学生の時の幼さがまだ残っていた。

『やっぱり!!』

やはりそうだ…この子、本気でマネージャーになる気だ。別にマネージャーになってくれるのはありがたい。ただ、そこから先が問題なのだ。この子は、現実を受け止めてくれるだろうか…?
キャプテンさんは、一人で戸惑うような顔をしながら目の前で笑う少女を見た。

「サッカー部の入部希望者か?」
『あ、はい。そうですけど…』

何かマズい事を言っただろうか?返事をした時、キャプテンさんが困ったような、嬉しいような複雑な表情で自分を見てきた。
「あの…」と、声をかけようとした時、キャプテンさんの後ろから来たピンク色の長い髪を下ツインにして縛っている恐らくこの人の友達か彼女さんだろうか、その人の「おうい!」にかき消されてしまった。
うわっ、すっごい美形…キャプテンさんとは違った美形だ。



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