「神童、この子は?」

どうやらこのキャプテンさんの名前は神童というらしい。神童さんはピンク色の下ツインさん(仮)に悠那の事を簡単に説明しだした。
なんか男の子みたいな声だな、このツインの人…

「新入生。サッカー部の、入部希望者らしい…」
「サッカー部の入部希望者?マネージャーのか?」

神童が空いている方の手で悠那を差して、軽く説明。ツインの人は悠那の胸元にあるリボンを見て、納得するように頷いたが、入部希望者という所でツインの人も神童みたいに反応した。てゆーか、声だけでなく喋り方まで男の子みたいだ。じゃなくって…

『あの…私、マネージャー希望じゃなくて、選手希望なんですけどー…』
「「!?」」
『…?;』

何故自分は今ここまで驚かれているのだろうか。女子がサッカーをして何が悪い。まあ、ここのサッカー部が男子サッカー部だったら仕方ないが、今目の前に居る女の先輩がユニフォーム姿で居るという事はこの先輩はサッカー部所属。つまり女子も入れるサッカー部という事になる。だが…そう顔に出ていたのか、女子の先輩さんが、はあ…と随分と深い溜め息を吐いた。

「……まさか俺の事、女だと思ってる?」
『Σえ?!』

違うんですか?!
という悠那の反応を見たツインの人は腕を組み、若干仁王立ちしながら口元をピクピクさせ、肩眉を吊り上げていた。
結論、すごく怒っていらっしゃる。
若干キレ気味のツインさんを横目に神童先輩もまた静かに苦笑していた。
ヤバい…いや、勘付いてはいた!10年前の一兄さんや次郎兄さんなどが良い例だったけど、ま、まさか美形かつツインかつ何かめっちゃ美しい方がお、男だったなんて…
女である自分がめっちゃ恥ずかしい…というか、虚しい…

「俺は正真正銘、男だ」
『(ガーンッ…)』

そ、そんな…って事はここのサッカー部は男子サッカー部…?
と、思った瞬間悠那の頭に1tという岩が落ちてきた。その落ち込みように二人の男の先輩(←ここ重要)が顔を見合わせながら苦笑した。まだ男子サッカー部と決まった訳では無いが、先程の二人の様子を見て入れないと感じた。グスッ…と鼻を鳴らしながら悠那が神童の持つボールへと視線を向けた。あーあ、これで入る部活が無くなったなあ…なんて残念そうに何回目かの溜め息を再び吐いた。

落ち込む悠那を見て、どうする?と神童にツインの人が話しかける。恐らく悠那を入れるかどうか話し合うらしい。だが、ショックがかなり大きかった悠那の耳には届かなかった。さて、これからどうしよう、と悠那が落ち込みながら頭をフル回転させた時だった。

―ドオオォォンッ!!

『?!』
「「!!」」

突然、どこからか大きな何かを壊すような破壊音が学校中に響きだした。その物凄い音に、窓ガラスはガタガタと震え、木々に止まっていた小鳥達が飛び出し、危険を予知するかのように烏も鳴き出した。
こんな破壊音は10年前のエイリア学園以来だ。思わず音がしたであろう方向を先輩達とほぼ同時に見た。先輩達も先輩達でかなり目を見開かせていたが。

『なんなん…』

悠那もまた嫌な汗を額に流しながら、音のした方を見る。鳥やら人の叫び声やらで先程の静かな空気が騒々しくなっており、逆にその騒ぎ声が煩く感じてしまう。だがその破壊音は自分達に恐怖を与えるのと同時に、好奇心を与えてきた。今の音を辿ればせめてここから出れるかな?なんて呑気な事を考える自分はおかしいとは思ったが、気になるのも事実。
数秒考え、悠那は音のした方向に向かって踵を上げた。背後から自分を呼び止める先輩達の声も聞かないで。

…………
………

『うっわ…』

音が響いてきた所をそのまま真っ直ぐ進み、やっとそこらしき所に着いたのはこの学校に入ってきて目に入ったグラウンド。
そこには悠那がいつも目にしている男の子と、不良みたいな格好をした少年がサッカーグラウンドのど真ん中でボールを取り合っている所だった。グラウンドは自分がさっき見た時とは違い、不良少年から道標みたくゴールまで伸びる焦げ目。ゴールネットは若干焦げた跡が残っており、きっと自分が聞いた音の元となった跡に違いないと確信出来た。
何故こんな風になっているのやら、と思いながら視線を徐々に下ろせばベンチに目が行った。そこにはチームらしき人達と顧問らしき女の人が居た。チームの人達の腕やら足やら体の所々を見る限り怪我をしているらしく、かなりボロボロだった。

『あの、何があったんですか?』

周りを見て悠那は近くに居た恐らく自分と同じ新入生だろうその少女にたじろぎながらも聞いた。その少女は土手越しに半目ながら目の前でボールを取り合う少年達を見ながら悠那を横目で見た。そしてその視線を再びグラウンドに戻す。相変わらず天馬はあの不良少年に遊ばれていた。

「なーんか、あの不良君があの少年に勝負挑んだらしいよ?」

サッカー部を賭けた。
少女は目をグラウンドにやりながらそれだけ言った。悠那はふうーん、とこの場に合わない声を出しながら、グラウンドを見た。
目をやれば、天馬は限界が近付いたのか、地面に尻餅を付きながら肩で息をしていた。

ガコンッ…

『?』

すると直ぐ近くにあったゴミ箱の中が動いた。そちらを見てみれば、ゴミ箱の中に先程自分が使っていたボールと同じ形をしたサッカーボールが。何故こんな所に入っているのか、サッカー好きにとってはこれを見ていてあまり気持ちの良いものでは無い。悠那は眉間に皺を寄せながら、ゴミ箱に入っているボールを取り出した。少しだけ汚れが付いたボールを手で払い、そのまま目線をグラウンドに移した。
すると、不良君(仮)が何か一言言い、ボールを片足に乗せた。ベンチに居た人達が何やら騒ぎ始める。
何かするつもりなんだ、あの不良君。

「“デスソード”!!」

黒に近い藍色のオーラを纏ったボール。そのボールは不良君が腕で殴るように触れば、一直線に天馬の方へと向かって行った。
天馬といえば、ヨロヨロになりながらも直ぐに立ち上がり、何かを叫んで向かって来る必殺技を背後から何やら黒い靄を出しながら頭で受け止めた。若干痛そうだなーと思いながらも内心は結構驚いた。

「……と、取った…!」
「(…何だと…?!)」




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