今日からホーリーロード開幕。
前とは違う感情を、そして今まで隠し通して来た思いを昨日から抱いた神童はいつものように朝練習の為、サッカー部の部室へと向かっていた。

「辞めたんじゃなかったのか?」

誰か、そして嫌になる程聞き覚えのある声に、思わず神童の歩く足が止まりだした。どこへは見向きもしなかったが、眉間に皺が寄るのが自分でも分かった。

「今から朝練?ご苦労なこった」

声の主は木に身を預けていた剣城京介。先輩、増してやキャプテンに向かってその嫌味のような口調で言うその姿は誰から聞いても不良そのものだ。神童は剣城に対しての苛立ちを抑えながらも平常心を保った。
もう何を言われても自分自身のしたい事を見つけたのだ。だから、コイツには屈しない。

「お前も部活に出ろ。部員なんだぞ」

とは言っても好きで入れている訳じゃない。あっちが意図的に入って来たのだ。だが、だからと言って彼も部員。認めたくは無いが自分達の仲間の一人に過ぎない。まあお互い仲間と認識はしていないだろうが。しかし剣城はニイッと口角を上げて神童の背後へと回った。

「フィフスセクターからの指示だ……ホーリーロード一回戦、雷門は2ー0の負けだ」
「っ!?」

勝敗指示が決まっているとは分かっていたが、まさかの勝敗に耳を疑った。フィフスセクターを裏切ったとは言え、自分達は去年のホーリーロードでは準決勝まで上り詰めたチーム。初戦から負けとは思ってもみなかった。
シードである剣城は神童のその信じられないと言わんばかりの表情を見て満足そうに嘲笑うかのように見た。
トンッと神童の肩を軽く叩き、もう片方の手をポケットに突っ込んで校舎の中へと剣城は何事も無かったように入って行った。

「雷門の、負け…」

しかも一点も取れないまま。神童の脳裏には昨日の円堂の言葉が蘇って来た。

――負けて良い試合なんて絶対無いぞ!

「……」

…………
………

「えーい!!」

朝の練習が始まり、信助は天馬を相手に突っ込んで行く。だが、サッと天馬は簡単に交わしてしまった。

「もうちょっとだったのになあ〜…」
「まだまだ、ホーリーロードまでに少しでも強くならなくちゃ!」
「そうだねっ」

神童も一緒に戦うと言ってくれたお陰か、ドリブルの練習でも気合いがいつも以上に入っていた。そこから一年同士のドリブルの練習が始まる中、グラウンドで練習をしていた二年や三年の方へと目が行った。皆が練習をしている中、一人だけ呆然と立ち竦む神童の姿が見えた。

『…?』

何かあったのか、と目を暫くそちらにやっていれば、ボーっとする神童に三年が話しかけてきた。何を話しているのかは聞こえなかったが、神童が悩んでいる事には間違いない。うーむ、と記憶の中をあさってみた。

『(そういえば、さっき挨拶した時元気無かったような…)』

でも何でだろ?まだフィフスセクターと戦うのが怖い…っていうか躊躇してるのかな?
うーむ…と腕を組んで考えた瞬間だった。

「悠那―――っ!!」
『はいィ―――っ!!』
「ゆ、ユナ…?」

いきなりどこからか自分の名前を大声で叫ぶ人が…悠那もまた条件反射で大声を出して返事をしてしまった。周りの人達は何だ何だと悠那と悠那の名前を呼んだ人物の方を見た。悠那もまたそちらを振り向けば、グラウンドの階段の上に、長い黒髪を風に揺らして、仁王立ちをしている人が見えた。

『た、環…』
「やっほー!悠那ー!!」

環と呼ばれたその人は階段を降りながら、悠那に向かって大きく手を振ってきた。自分のクラスメートで、自分の友達。クラスの違う信助や葵、学年の違う神童達にとっては誰?と言わんばかりの表情をしていたが、天馬だけは違った。

「あ、あの子…」
「天馬の知り合い?」
「え?あ、ううん。前、ユナを呼びに行った時に…」

――お、彼氏さん登場だね♪

「……っ」
「天馬?」

天馬は密かに脳裏で悠那と一緒に部活に行こうと教室を訪ねた時の事を思い出していた。自分は普通に悠那を呼びに行っただけなのに、いつの間にか自分と悠那の関係が周りからはそう見えていたらしく、あの悠那の横に居た人に誤解されたのだ。自分的には少しだけ嬉しかったが、悠那に全否定されたのを覚えていた。
まあ、そんなこんなであの環という人物は頭の中に残っている。だがどう知り合ったかなんて幾ら信助でも言えない…彼氏と間違われたなんて、皆の前では言えないのだ。

『ちょ、何でここに!?てか部活は…』

ゴスッ!!

「「「「Σ!?」」」」
『いっ!?』

グラウンドに入ってきた環は悠那の言葉を最後まで聞かずに問答無用に悠那の頭を作った拳で殴った。どうもデジャヴな光景だな、と思っていたが、そういえば自分も天馬にこうした覚えがあるな。まあ、そんな事はどうでも良く。悠那は痛さの所為か、涙目になりながら殴られた部分を抑えた。

「どーしてサッカーの大会がある事言ってくれなかったのさ!!」
『え?』

環の言葉に悠那は間抜けな顔をしながら見上げた。環を見上げれば少しだけ不機嫌そうに眉間に皺を寄せながら自分を見ていた。さっきまで笑いながらこちらに来た割にはすごいギャップだ。
サッカーの大会というと、ホーリーロードの事だろう。そういえば自分はまだ環に言ってない気がする。

『あ…ごめん、忘れてた…』
「ふーん…っま、良いけどさ、明日だよね?大会」
『え、うん…』

いきなりどうしたの?と聞こうとしたが、言う前に環はうーん…と難しそうな顔をしながら腕を組んでいたので、聞けなかった。

『環…?』
「明日、私も実はバスケの試合があるの」
『は?!聞いてないし!!』
「うん、私も忘れてたからね」
『……』

人の事言えなくね…?と、言いたそうな目を環に送れば、ごめんごめん!!と眉をハの字にしながら合わせた両手を前に出され、許しを得るかのように言ってきた。なので悠那も責める事はしなかったが、殴られた事は根に持とうと心の中で決めていた。

「私、見に行けないけど、お互い頑張りましょ!!」
「!?」
『環…』

ニカッと、そう笑いながら言う環。そんな言葉に悠那どころか話しを聞いていた神童もまた肩を震わせながら驚くように目を見開かせた。

「最近、アンタなんか無理してるように見えてさっ」
『……』
「訳は分かんないけど、絶対勝ってよね!負けたら許さないんだから!」
『…環こそ、』

当たり前でしょ!と言わんばかりに環は親指を自分に向けてきて、悠那もまた親指を差し出してうん、と頷いた。その様子を見ていた円堂や、天馬、信助もまたうん、と頷いていた。だが、他の部員達はその気が無いらしいように顔を俯かせる人が居たり、どうでも良いと言わんばかりに悠那と環から視線を外す人も居た。

『ありがとう、環』
「どういたしまして!…そこの彼氏さんも悠那の事見守っててよねー!!」
「「Σ彼氏?!」」
「お、俺えー!?」
「いつの間に…」
『ち、違う!!信助誤解!!』

環のその爆弾発言により、先程までどうでも良さそうにしていた先輩達が一気に天馬の方に視線を集めだした。環が天馬の方に目をやっていたので誤解したのだろう。天馬もまた顔を徐々に赤くしながら声を上げ、悠那は信助に怪しいと言わんばかりの目で見られながら否定をする。

「あっははは!!じゃあまた後でねー!!」
『たーまーきー!!』

いつの間に移動したのだろうか、環は既に土手の上まで行っていた。悠那は後で覚えてろとでも言うように環を顔を赤くしながら睨み付けた。すると、自分の頭の上に手を置かれた。振り向けば、そこには円堂が自分を見ながら笑っているのが見えた。

「面白い友達だな!ユナ!!」
『からかわないで下さい!!』
「彼氏…っ」

そんなに嫌か私が彼女だと。
思わぬ環の登場に天馬は朝の練習、やる気はあったは良いものの、自分の方を見ないどころかずっとそんな事を呟いている。そこで悠那はもう二度と環をグラウンドに入れないと再び心に決めた。

…………
………



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