『え、神童先輩?』
「うん、見なかった?」

朝練習が終わり、四時間目の授業も今さっき終わった数分後、隣のクラスである天馬が少しだけ控え目にそう尋ねて来た。昼休み、という事で部室などを見に行って探していたらしい。だが、悠那は残念ながら次の時間も自分の教室なので一歩も教室から出ていない。勿論、神童なんて見る筈も無いのだ。

『…一年の廊下にはまず二年生は来ないと思うから、二年生の教室に行って聞いてみれば?』
「っあ、そっか!」

って、忘れてたんかーい。と若干内心でつっこむものの、やはり悠那もまた神童の事が心配だったらしく、急いで二年生の教室への向かう出ていないを黙って見送る。

『私も探してみよっか…』

天馬はきっと神童がキャプテンを辞める、つまり部活を辞めてしまうというのを感じていたのだろう。それなら天馬は止めに入るだろう。なら、自分もそれを見届けようじゃないか。悠那は天馬が先程上がって行ったであろうその階段を駆け上がった。

…………
………

『そうですか…』
「力になれなくてごめんね、」
『い、いえ!ありがとうございました』

そう言って環の先輩、バスケ部の先輩にお礼を言えば、「本当にごめんね」と言う言葉が返ってきた。バスケ部の先輩とは例の更衣室の事でお世話になった為、顔はよく覚えていた。(あまりにも印象的だったので)あちらも自分を覚えていたらしく、快く自分に声をかけてくれた。なので、神童の事を聞いてみたが、生憎この人は神童とは違うクラスらしい。他のクラスに居る先輩にも聞いてみたが、クラスが違う為、無意味となった。

『どうしたもんか…

…ん?』

あ、神童先輩のクラスどこか聞くの忘れてた。と、一人でうなだれていれば、自分の隣を素通りしていく二人組に目が行った。学ランだったが為、一瞬誰だか分からなかったが、その二人に見覚えがあった。…確か、元サッカー部セカンドクラスの部員だった人。

『…あの!』
「…?」
「何だ…?」

やはり、あの時部室を申し訳無さそうに出て行った一乃と青山の2topだった。二人は悠那にいきなり声をかけられたのと、何故ここに?と言うように少しだけ驚きながら振り向いて来た。

「キミは…」
「確か、谷宮悠那…」
『え、あ…はい。谷宮です。…あの、神童先輩見ませんでした…?』
「神童…?」

悠那は自分の名前が知られている事に少しだけ戸惑ったが、今はそんなのを気にせず二人に単刀直入に本題を言った。すると、二人は顔を見合わせて、神童がどこに行ったかを頭の中で振り返る。ぶっちゃけこの二人は辞めた事で神童とあまり関わっていないので詳しくは神童の事は知らない。

「何で神童を探してるんだ?」
『…あ』

青山に、一乃と顔を見合わせた後、何故探しているのかを質問返しされた。それを聞いた悠那は一瞬だけ間抜けな顔をして、考えるように顔を俯かせた。
そういえば、天馬に何で探してるのか聞いてなかった…多分今朝の事だろうが、生憎今朝の事を話している暇が今は無い。
悠那はどう説明をするかで「あー…」や「えと…」の言葉になっていない言葉を発しており、その場からは微妙な雰囲気が漂っていた。

「神童なら、さっき三国先輩と霧野とで屋上に向かったのを見たけど…」
『(お、屋上…?!)本当ですか!?』

屋上って…っちょ、おまっ…自殺じゃないよね?!←
屋上に居ると言われ、悠那は一人だけ慌てるように声を荒げた。三国先輩と霧野先輩が付いているから大丈夫だとは思うが、屋上と言われれば学生の中で自殺が定番だ。勿論告白とか昼食などでも定番だが、あの雰囲気で告白なんてありえない。昼食ならともかくも。あまりの悠那の慌てっぷりに一乃は訳も分からず「あ、ああ…」と返すしかなかった。

『あ、ありがとうございます!!』

二人に向かってお礼を言い、頭を下げた。
そのお礼もいきなり過ぎだので、二人は当然如く再び目を見開かせた。そして、下げられたその頭は勢いよく上げられ、二人に顔を見せた。表情からして、先程の慌てっぷりはなく、笑顔だった。

「あ、ああ」
『では、これで!』

その笑顔に、一乃は不覚にも捕らわれてしまった。そんな一乃に悠那は気付かず、二年の廊下で聞き込みをしている天馬と信助の元に走って向かった。残された二人の間には微妙な空気が漂っていた。

「何で教えたんだよ?」
「え?あ…何か…分かんないけど…」
「はあ?」

ただ、キミの役に立ちたかった…

一乃は天馬と走って行った悠那を頬を少しだけ染めながら見えなくなるまで見つめていた。

…………
………


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