「どうした、もうへばったか?」
「はっ…はっ…まだですっ」
「僕だってっ、」
『私もまだまだ大丈夫…!』
「よし、続けるぞ!」

自分達の練習はそこで終わり、今度は天馬と信助を自分達に加えて特訓を開始していた。悠那は前半らへんで円堂からボールを二回程奪えていたが、中々簡単には奪えなかったようだ。悠那の額やら頬やらは汗で殆ど濡れていた。

「天馬!」
「Σうわわっ…と」
『うへえ…大丈夫天馬?』

信助からのボールを取り損ねてしまった天馬はその場で転んでしまい、それを見ていた悠那は痛そうに見ながら天馬に手を差し出した。悠那の手を掴んで起き上がった天馬は「ありがとう!」とお礼を言い、自分が取り損ねてしまったであろうボールの行方を探す。すると、ボールは自分達が降りてきたであろう河川敷にある階段の下へと転がっていた。取りに行こうとボールへ近寄ろうとした時、不意に自分の目がまるで引き寄せられるように土手の上へと行った。
ああ、ここまでも彼は監視をするかのように見ているのか、と瞬時に思った。

『京介…』

その自分の声と共に、その場に居た天馬達も土手の上に居る剣城を見上げた。見上げた瞬間、この場は重い空気に包まれてしまい、殆どの人は剣城を見て顔を曇らせていた。それは悠那も同じで、ボールを持ち上げ持つ手に力を加えた。
ボールは微かにキュッ…と苦しいと言わんばかりに鳴った。そんな空気が漂う中、円堂だけは皆とは違う表情で剣城を見上げていた。

「おお!来たか剣城!お前も練習に参加しろ!」
「…何?」

円堂のその言葉に、剣城は怪訝そうな顔をして円堂に目を向けてきた。勿論、今の発言は自分達からしてもかなり驚く発言だった。元々サッカー部を潰しに来た彼が今、 自分達の特訓に入ってしまったら確実にボロボロにされてしまう。まあ、その前に円堂が何とかしてくれるとは思うが。そもそも彼はこんな練習に入ってくるとは思えない。
だが、そんなものも気にせずに円堂は自分達に向けていた、太陽のような笑みを剣城にも向けた。

「サッカー、やろうぜ!!」

この言葉で、円堂は自分の仲間やライバルを増やしていった魔法みたいな呪文。一時期、その呪文が嫌だと言う人達も居たが、最後は和解したのだ。悠那もその言葉に誘われサッカーを続ける事が出来た身だ。
だが、円堂の言葉により剣城は目つきを先程よりも鋭くさせ、眉間に皺を寄せながら円堂を睨み付けてきた。

「…虫酸が走るぜ、アンタのサッカーやろうぜには!!」
「そうかっ。

おーい、お前達もそんな所で見てないでこっちに来いよ!!」
『「「え?」」』

剣城の言葉に軽くスルーし、目線を剣城からどこか別の場所へと移した。そして、誰かを数人呼ぶような大きな声でそちらに向かって叫びだした。どういう事だ、と言わんばかりに頭の上に疑問符を浮かべ、自分達もまた円堂の見る方へと目線を移した。
目をそちらにやれば、向かいの建物らへんから見える肩や頭。誰かがこちらを覗いている事が分かったが、誰かは流石に分からなかった。だが、それはこちらに姿を現した事により、理解出来た。

『――あ、』

隠れるように建物の陰から現れたのは、先程南沢の後を付いて行ったであろうあの先輩達。残念ながら霧野や神童、南沢は居なかった。それを見た天馬達は驚きと感動が混じった声を「あ、」で表現しており、先輩一人一人の顔を見ていた。悠那もまたその一人。
何だ、何やかんや言って先輩達も来たんじゃん、そう思いながら静かに微笑んだ。

三人程足りないが、部員は充分に集まった。という事で、円堂はゴール前にその集まった人達を誘導した。何をするんだと集まってみれば、円堂曰わくキック力を見たいから一人一本ずつシュートを打ってくれとの事。
円堂がまず目に付けたのは、この部員の中で二番目に小さい倉間。

「よし!倉間からだ!」

有無を言わせず倉間を指名した円堂はゴールポストの横に立ち、倉間が目の前にあるボールを蹴ってくるのを待つ。それを見た倉間は仕方なく置いてあるボールを足で思い切り蹴り出した。流石は雷門のFWをやってるだけあり、蹴られたボールは勢いを増し、ゴールネットを揺らした。

「おお!流石は雷門のFWだな!」
「ッチ、」

褒められた事に舌打ちをして、自分達の方へ戻ってくる倉間。そして、次から次へと円堂の指名が下り、次々にゴールへとシュートを放っていく先輩達。一年生達の番になった時、天馬が最初にシュートを放った。勢いを付けてシュートをしたは良いが、ボールは大きく弧を描き、ゴールポストの上を行ってしまい、惜しくも失敗をしてしまった。信助は流石にそんな事は無く、ちゃんとゴールには入っていた。
天馬はまあともかく、流石は先輩達。凄まじいシュートをFWに負けを取らずに、ゴールネットを揺らした。そんな先輩達に拍手を送ろうか、としていれば、不意に自分の方へと視線が集まってきた。

あれ、何で皆こっち見てんの…?私何もしてないよね…?

「おーい、ユナー!次はお前だぞー?」
『え…』

まさか、自分に来るとは思っていなかった。悠那はお腹の所まで持ってきていた手を止め、先輩達の間から見える円堂を見た。ああ、だから先輩達の目線は自分に来ていたのか、と少しだけ納得出来た。納得が出来た所で、悠那は先輩達の間を通り、自分の横にボールを置き、目の前にあるボールの前まで近付いた。

『行くよー!』
「おう!」
『とりゃっ!』

掛け声はともかく、悠那が蹴ったボールは少しだけ風が纏い、そのままゴールの中へと入っていった。一見、普通に見えたシュートだが、円堂には微かに天馬や信助とはまた別の力を感じていた。流石は雷門のゴールキーパーをしていた円堂。だが、そんな円堂にも悠那は気付かずに、一人でガッツポーズをしながら喜んでいた。

「かなり強くなってきたな」
『守兄さんに言われると本当に強くなった気がするっ』

と、照れたように頭を掻きながら悠那は天馬の隣へと並んだ。これでこの場に居る全員がシュートをした。今度はこの人数で何をするのだろうか、と若干ワクワク感溢れる眼差しを円堂に送る悠那。だが、円堂の目は自分達を見回した後に別の方へと目線を外した。
どこに目をやったかなんて直ぐに分かった。明らかに円堂の目線は、あの階段の上。

「おーい剣城!最後はお前のだぞー!」

その言葉を合図に次々とこの場に居た人達は円堂の目線を辿り、階段の上に自分達をただ見ていた剣城を見上げた。ここからだとあまり剣城の表情は見えないが、きっと彼は眉間に皺を寄せているに違いない。



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